カオス・シチリア物語(’84)
原作:ルイジ・ピランデッロの短編集「一年間の物語」
監督:パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ
私の大好きな、イタリアの“土の匂い”を存分に感じさせてくれる映画です。
数々の名作を生んだ、シチリア島を舞台にした“カオス(混沌)”とした世界。
さらには、原作者の故郷“カオス”という地名がシチリア島にはあるらしい。
6つのエピソードからなる、3時間を超えるオムニバス大作。
3時間強、一気に観るも良し。1日1エピソード、6日かけて観るも良し(笑)
<プロローグ>
羊飼いにイジメられていたカラスが首に鈴をつけられ空に放たれる。
心地よい鈴の音を鳴らしながら空高く舞い上がるカラス・・・・・・
このカラスが狂言廻しの役割を担い、各エピソードを空から案内してくれます。
カラス目線で空から眺めた古代遺跡など捉えたシチリアの風景は圧巻。
第1話 「もう一人の息子」
年老いた母親は、4年前にアメリカに移住した息子たちの帰りを待ちわびているが
何の音沙汰もない。その一方で “もう一人の息子” は母親思いで慕ってくる。
でも母親は盗賊に犯されてできた、その息子を受け入れることができない・・・・・。
夫との間の息子は母親を見捨て、不実の息子が母親思いで慕ってくるという・・・・・
人間の運命って皮肉なものですね。
第2話 「月の病」
結婚して20日目の新婚夫婦。夫は満月の夜になると「月の病(狼つき)」が出て
屋外で獣のような声を出しもだえ苦しむ。翌朝、妻は愛想尽かし出てってしまう。
タヴィアーニ兄弟の根本は、もちろん “ネオ・レアリズモ” だけれども
それに “寓話性” をまとわせ 「むかし、むかし・・・・」 といった語り口に
最初、狼つきの話に、何だそれ?って思いながら観ていましたけど
夫が幼児の頃に「月の病」に魅せられた回想シーンは神秘的な美しさで。。。。。
第3話 「甕(かめ)」
オリーブ園が大豊作だった大地主は油を入れる大きな甕(かめ)を特別に作らせた。
が、翌朝、その大きなツボは真っ二つに割れていた。
ブチ切れた大地主は、村一番の甕直しの名人に修理を頼むのですが
この二人、実際はコメディアン・コンビなんだそうで
軽~いコントを披露してくれるのですが、そんなコミカルな中に
奴隷のように扱われる小作人たちの大地主に対する憎悪が浮かび上がってくる。
第4話 「レイクエム」
僻地の山村に住んでいる村人たちは、地主である男爵の許可が下りないため
墓地が作れない。つまり、故郷の土に帰ることが出来ないんです。
若い羊飼いが白い布に包んだ小さな棺を抱えて、岩だらけの斜面を通ったりして
丸一日かけて町に下りて、幼くして亡くなった子供を町の墓地へ連れて行く。
棺が一人で持てないこともないスモール・サイズっていうのが悲しいですよね。
そして、死期の迫った村を開拓した長老が一世一代の大芝居を打って
地主である男爵に対して静かなる抵抗をするんです。
<エピローグ>「母との対話」
原作者のルイジ・ピランデッロ(オメロ・アントヌッティ)がシチリアに帰郷する。
疲れ果てたピランデッロを故郷の家で待っていたのは、亡くなった母親だった。
母との対話の中で、母が少女時代に体験したマルタ島への船旅の思い出を聞く。
船旅の途中、白一色の軽石の島に上陸して、少女だった母は兄弟たちと
真っ白な砂の斜面から、息を呑んでしまうようなコバルト・ブルーの海へ
滑り降りていく(最初の画)。このシーンは美しすぎて言葉にならないぐらいです。
鈴を鳴らしたカラスさん。案内ありがと~(笑)
プロローグ~4つのエピソード~エピローグからなるタヴィアーニ兄弟のオムニバス大作。
混沌とした矛盾の世界を生きる人々を描く、幻想的なノスタルジーに溢れた映像叙情詩。
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