あん | Untitled



あん(’15)日本フランス国旗ドイツ国旗

原作:ドリアン助川の同名小説

監督:河瀨直美


この “あん” の味はヤバい。 観ているときよりも、後からじわ~んときますね。

ベッドに入ってからも思い出して、ぽろぽろ涙が止まらなくって

次の日にまた観て、ベッドで再び枕を濡らし、ちと寝不足気味です(笑)

国際的に評価が高いものの、日本国内では“アート映画”すぎてか知名度の低い

河瀨直美監督ですが、この映画のヒットで海外での評価にやっと追いついたのでは?



縁あってどら焼き屋「どら春」の雇われ店長として単調な日々をこなしていた

千太郎(永瀬正敏)。 そのお店の常連である中学生のワカナ(内田伽羅)

ある日、その店の求人募集の貼り紙をみて、そこで働くことを懇願する一人の老女

徳江(樹木希林)が現れ、どらやきの粒あん作りを任せることに。

徳江の作った粒あんはあまりに美味しく、みるみるうちに店は繁盛。

しかし心ない噂が、彼らの運命を大きく変えていく・・・・・。



「この世にあるものは全て言葉を持っていると私は信じています。」

「陽射しや風に対してでさえ耳を澄ますことができるのではないかと思います。」

千太郎に送った手紙に、決して綺麗とは言えない字で語りかける徳江さん。

草木が風に揺られると 「あ~みんな、手振ってる~」 って

はいはい~って手を振り返すハンセン病の徳江さん。 

空高く羽ばたく小鳥を見て「いいね~鳥は自由で」

と羨望のまなざしで空を見上げる、少女の頃から強制隔離されていた徳江さん。

“あん” を作るときには 「せっかく畑から来てくれたんだから」 と

小豆に最高の“おもてなし”をする、指が曲がってコブもある徳江さん。



私自身の 「ハンセン病」 に対する知識は、ほんと薄っぺらいもので

こういう差別が今もなお残っていることに少なからずショックを受けました。

この映画の舞台となった町、ここでは町の名前は敢えて書きませんが

映画 『あん』 を期に、町おこしをしようと動いたらしいのですが

ハンセン病のいる町になるって反対する住民もいたんだそうです。

また、「指が曲がった人がどら焼きを作ってたら、その店に私は行きません」

って、原作者のドリアン助川さんにメールが送られてきたりと・・・・・

それが、今の現実なんですね。 そういう現実を知るということが大切なのかも。

ワカナちゃんみたいにが図書館まで行って、その事を知ることから始めて

自分の足で徳江さんが住む療養所まで訪ねて、自分の目でその人たちを見る。

鼻が取れてしまったお爺ちゃんは、愛くるしい顔で仲間と談笑している。

私たちと何にも変わらないじゃない。自然と笑みがこぼれるワカナちゃん。



この世にあるもの全てに語りかけ、彼らの言葉を聞いてあげる徳江さん。

人にも、自然にも、やさしく語りかけ、彼らの言葉に耳を傾ける。

それを象徴するようなシーンが、ラストにあるんです。

徳江さんがもたれかかっている “木が呼吸している” んです。

木肌から蒸気のようなものが、ぶわ~~って立ち込めてるんです。

「今日はいい天気になりそうだわね~」 なんて徳江さんと会話しているようで

こんな奇跡ような画を撮れるのは、現役日本人では河瀨さんしかいないんじゃない?

これまでの河瀨監督の作品って、観念的なアプローチで描いているものが多くて

“風変りな洋風和菓子” みたいな感じだったんだと思います(笑)

味は確かなんだけど、通好みの人にしか愛されず、なかなか売れなくって・・・・

でも、今回の 『あん』 では、職人気質のやり方は変えずに、少し味つけを変えて

それこそ、国内外問わず、子供からお年寄りまで愛される

「どら春」の“どら焼き”のような和菓子を作り上げたのではないでしょうか。





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