【報告】山田朗講演会 「何が「田母神」を生み出したか――自衛隊と歴史修正主義」 | 格差と戦争にNO!

【報告】山田朗講演会 「何が「田母神」を生み出したか――自衛隊と歴史修正主義」


【報告】山田朗講演会 「何が「田母神」を生み出したか――自衛隊と歴史修正主義」


1月21日、講演会「何が「田母神」を生み出したか――自衛隊と歴史修正主義」を文京区民センターで開催された。講師は、山田朗さん(明治大学教員、日本近現代史・軍事史)。昨年10月に明らかになった田母神論文問題を扱った。主催は国連・憲法問題研究会。


 山田さんは「何が「田母神論文」を生み出したか――自衛隊と歴史修正主義」と題して講演。
 講演で山田さんは、田母神俊雄航空幕僚長の問題が個人の問題でないことを強調。最初に「田母神論文」の徹底検証を行った。

 田母神論文を①戦前国家のプロパガンダの繰り返しであること②冷戦時代のコミンテルン陰謀史観の焼き直しであること③歴史観として破綻していること④現行の防衛政策批判の4つに分けて具体的に検証。

1点目の田母神論文が戦前プロバガンダの繰り返しであることについて、論文の内容を「合法論」「日本被害者論」「植民地支配美化論」「解放戦争論」に分類して、1つ1つ誤りを指摘。
田母神の「戦前の日本軍の中国・朝鮮への駐留は条約に基づく」という主張に対しては、帝国主義の時代の条約そのものが対等ではなく侵略の結果。田母神は中国・朝鮮の「駐留」に限定しているが、1940年の北部仏印や41年のタイへの「進駐」は条約がなかったなどと、具体的に反論。
2点目の「蒋介石はコミンテルンに操られていた」という田母神論文に対しては、蒋介石政権がソ連の援助を受けていたことは事実だが、米英の支援も受けており、コミンテルンが蒋介石を操っていたならば国共内戦など起こりようがない。

東京裁判でマインドコントロールと田母神はいうが、東京裁判はニュルンベルク裁判でのナチに当たる存在を陸軍とし、吉田茂をはじめ親英米派の復活が目指した。「国体護持のために必要な人たち」=天皇を支えていたエリートを護持したのが東京裁判である。ここでも一つ一つ間違いを指摘。

そして、「侵略国家というのはまさに濡れ衣」「歴史を抹殺された国家は衰退の一途をたどる」という田母神に対して、アジア諸国の被害から日本の侵略は動かしがたい事実であり、侵略の歴史の抹殺こそ「衰退の一途をたどる」ことだと真向から反論した。


講演の後半では、「田母神論文」が生まれた背景について述べた。
自衛隊内では戦前・戦中への反省皆無の歴史観が蔓延していることを指摘。田母神問題は自衛体内で軍隊化を求める「マグマ」が上昇していることを示す。78年栗栖発言と同じ危険な兆候。
冷戦終結によりヨーロッパでは軍縮が進んだが、日本は米軍と一体化した海外派兵で軍縮を免れた。海外派兵を進めた日本は、一貫して軍拡を進め、海上自衛隊の艦艇トン数が湾岸戦争時の30万トンが17年で1.5倍に増え、海上兵力世界5位になるなど、主要軍事大国となった。
ヘリ3機搭載、4950トンのはるな型護衛艦の後継としてヘリ10機搭載、13500トンのひゅうが型ヘリコプター搭載護衛艦を建造中。これは空母そのもの。おおすみ型輸送艦=揚陸艦も建造している。
自衛隊は海外では軍隊として扱ってもらえ、心地がよい。だが、国内では「軍隊のようなもの」。隊内では不満がたまり、幹部は改憲論に傾斜している。一般隊員では自殺、パワハラ・セクハラが横行している。一般隊員の自由を押さえつけてきたのが、「言論の自由」を言う田母神。

「田母神論文」は、自衛隊が集団的自衛権を行使できる「自立」した本格的軍隊になることを呼びかけている。

最後に、「市民としてできること」が提言された。
市民がもっとイラクの実態、自衛隊の活動の実態に関心をもち、実態を明らかにする作業を進める必要がある。戦争の実態・歴史を市民が知ることが必要。日本の軍拡に対抗して中国の空母建造など、アジアの軍拡競争が拡大している。
昨年4月17日のイラク派兵違憲名古屋高裁判決を活かし、「田母神論文」・アフガニスタン派兵・派兵恒久法への批判に応用を。


質疑応答では、東京裁判、旧海軍、文民統制、背広組と制服組の関係など様々な質問が出された。田母神の同窓生から地元のシンポジウムで田母神に質問したことについての発言も。
質問に丁寧に答えた山田さんは、「田母神は安倍政権後、改憲派にとって久しぶりに現れたスター。内容は荒唐無稽だと専門家が田母神論文の相手をしないのはいけない」と、批判の必要性を指摘した。


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