「運用3号」という言葉を御存じでしょうか?

殆どの方が目にされたことのない言葉ではないかと思いますが、

国民年金において、今年から新しく作られた制度(?)です。


国民年金は3つの被保険者(加入者)に分かれています。

・自営業者や学生等、国民年金のみ加入する第1号被保険者

・お勤めされ、厚生年金等にも加入されている第2号被保険者

・第2号被保険者の被扶養配偶者である第3号被保険者

3号被保険者は第1号と違い自分で保険料を納める必要はありません。

扶養配偶者の第2号被保険者の保険料に上乗せされているのでも

ありません。厚生年金や共済の全体の保険料から出されています。


運用3号は、この第3号被保険者の新しい形です。

3号被保険者は配偶者が第2号被保険者であることが前提です。

退職などにより配偶者が第2号被保険者でなくなった場合は、

被扶養配偶者は第3号から第1号への変更をしなければなりません。

しかし、この変更ができておらず、第3号のままになっている方が

かなりの人数いらっしゃることが判明してしまいました。

この、本来第3号ではないのに記録の上では第3号になっている方を

どう扱うのか?ということで、「運用3号」というものができました。


もし、この運用3号がなかった場合、どうなるのでしょうか?

3号被保険者として認められていた期間は第1号被保険者となり、

その間の保険料は納められていなかった事(=未納)となります。

未納となっている保険料は2年前までしか遡って納付できませんので、

3号になったままの期間が2年以上前であれば、

年金額が減ったり、場合によっては25年を満たす事ができず、

年金を受け取れない人が出てくる可能性もあります。

なので、本来第1号であるべきところが第3号となっていたからと、

一律に第1号にしてしまうのでは不都合が起きるだろうということで、

3号のままにしておこうということになりました。

すでに年金を受け取っている方については2年以内も含めて

全ての期間を第3号として保険料の納付はしなくて良いことに、

60歳未満の方は直近2年以内の部分は第1号に変更するので

保険料を支払って下さいということになっています。


さて。ここまでであれば、さほど問題があるとも見えないかもですが、

実は大きな問題が含まれています。

まず、キチンと届け出をして第1号として保険料を納めていた方との

整合性です。所謂「正直者がバカを見る」という状況になっています。

国民年金の保険料は決して安いものではありません。

それを納めていないのにキチンと納めていた方と同じ扱いとなります。

また、御自身でキチンと免除の申請をされた方の方が年金額が少ない

ということになってしまいます(個人的にはこの不合理が気になります)。

法的なお話として、本来するべき届け出をしなかった事を容認する

ということは、違法状態を国が認めるということになり

法治国家の根本が揺るがされる事となります。

それでなくても不信感を持たれている年金制度を

完全に不信の対象としてしまいかねない大きな問題です。

(一部、今後、意図的に届けを出さない人が出るのではないか?

という意見が見られますが、これは現実的ではないでしょう)


似たようなものに「3号未納」というものがあります。

これは、第3号の届け出をしていなかったために、本来第3号なのに

1号のままとなっていて、保険料が未納となっていたケースです。

この場合、第1号の未納期間を第3号とすることによって、

救済できる被保険者が沢山いらっしゃる、ということと、

3号の届け出が必要であるという告知が不徹底であったということで、

保険料を納めない扱いにするのはやむを得ないということになりました。

おそらく今回の「運用3号」は、この「3号未納」の前例を踏まえ、

救済優先ということで作ったのだろうと思いますが、

3号未納の時に比べて否定的な反応をされる方が多いようです。


おそらく、運用3号を作った人の考えとしては、

3号未納と同じく社保側の告知の不徹底があった事と、

現在では第2号被保険者とその被扶養配偶者の手続きは、

2号被保険者の勤務先が行うこととなっていて、

被扶養配偶者本人のミスではない、という事があったのでしょう。

年金制度、特に国民年金はセーフティネットの意味合いが濃く、

可能な限り年金を支払いたい、という意識も働いているのではないか

と思われます。


しかし、それでなくても年金原資が足りないと言われている事と

この救済の対象となる方の多くが比較的年嵩の方に偏っている事が

問題を大きくしているようにも思います。

3号として保険料納付を免除するのではなく、

追納(遡り納付)を該当される方だけ2年以上まで遡れるようにするべき、

という御意見もあります。これはとても妥当なことと思いますが、

仮に10年分を追納するとなれば現実的ではないようにも思います。


そもそも論をすれば、第3号などというものがあること自体が

間違えているということなのではないでしょうか。

本来、第3号は永続させるものではなかったのに、

いつまでも存続させ続ける政治にも問題があるように思います。

と共に、国民年金がセーフティネットを主軸に考えているのなら、

国民年金の財源を保険料とするのは如何なのでしょうか。


やはり、小手先の支給開始年齢の引き上げや支給額の変更ではない

年金制度の根本的な見直しが必要なように思います。