1.MSTの信頼性
MSTにおいて、ICCは高い値を示し、前方、側方という方向の条件や、踏み出す下肢を左右どちらにする条件のいずれをとっても信頼性が高い

2.MSTと身体機能との関連
膝伸展筋力・TUG・歩行速度とMSTとの相関係数からは、有意な相関が認められたものの、MSTのパフォーマンスに必ずしも強く影響していなかった。

MSTの課題は今回測定した歩行速度・膝伸展筋力・TUG指標とは孤立した身体パフォーマンスを反映しており、より高次な歩行・移動動作に寄与すると推測される敏捷性や協調性などの要因が関与している可能性が考えられる。

いずれの測定条件についてもMSTと他の指標との相関の強さが比較的一様であったことから、本研究の対象のような日常生活が全て自立した高齢者の立位動的バランスをMSTによって評価する場合、いずれか一つの測定条件を用いて測定できるといえる。

以上です。
私の感想ですが・・・。
1.信頼性の結果は、前後左右の条件が違えど一様の結果を示すということですが、疾患をもつ患者様にとってなりえない事だと思います。今回の対象者が疾患のないものですから、得られた結果です。
片麻痺などでこの検査を使用した場合に一様の結果が得られなかったら、考察はかなり難しいですが有益なデータであるといえるでしょう。

詳細は下記または引用文献をご覧ください。19日に前半を書いているので、宜しければそちらもご覧ください。

MSTの開発:その信頼性と妥当性
橋立博幸ら 理学療法科学 19(1):55-59,2004


考察
1.MSTの信頼性
HillらによるとStep Testの信頼性は高齢者群ではr=0.90~0.94、脳卒中片麻痺患者群ではr=o.88~0.97と良好であると報告している。本研究のMSTにおいて、ICCは先行研究とほぼ同様の高い値を示した。前方、側方という方向の条件や、踏み出す下肢を左右どちらにする条件のいずれをとっても信頼性が高い指標として用いることが可能であるといえる。
2.MSTと身体機能との関連
MSTは動的立位バランスの中でも支持基底面内・外における随意運動による重心移動能力を表すものであると考え、それと同様の重心移動能力を表す歩行に関するパフォーマンスとの関連が強いと推測した。そこで、歩行能力に影響する膝伸展筋力や、移動能力そのものを表すTUG、歩行速度との関連を検討した。
まず、膝伸展筋力はMSTにおいて踏み出す下肢ならびに反対側の下肢の支持性を保証するための筋力としてそのパフォーマンスに強く影響すると推測した。しかし、膝伸展筋力とMSTとの相関係数からは、有意な相関が認められたものの、MSTのパフォーマンスに必ずしも強く影響していなかった。またHillらはStep Testと書いて気歩行速度、重複歩距離との関連が高いことを報告している。MSTとTUGならびに歩行速度との相関係数からは、有意な相関係数がそれぞれ認められたものの、Keithらの報告に比べて必ずしも高い値ではなかった。これらのことから、MSTの課題は今回測定した他の指標とは孤立した身体パフォーマンスを反映しており、より高次な歩行・移動動作に寄与すると推測される敏捷性や協調性などの要因が関与している可能性が考えられる。従って、重心移動能力という観点で同様に枠組みするだけでは、各パフォーマンスを必ずしも規定し得ないといえる。また、いずれの測定条件についてもMSTと他の指標との相関の強さが比較的一様であったことから、本研究の対象のような日常生活が全て自立した高齢者の立位動的バランスをMSTによって評価する場合、いずれか一つの測定条件を用いて測定できるといえる。
3.MSTの改変
これまで重心動揺計を用いた研究によって高齢障害者の立位バランスが定量的に評価され、立位バランスにおける各疾患固有の機能不全が報告されている。運動失調症では前後方向の機能不全が強く、左右方向への安定性が比較的保たれ、パーキンソン病では健常者に比べ重心動揺ともに重心移動域も小さくなるといわれている。その立位バランスを簡便に測定するStep Testにおいて、最後のステップに対する測定判断の曖昧さを克服して精度を上げ、側方の立位バランスについても考慮して立位バランスを評価する目的でMSTを開発し、その信頼性と妥当性を検証した。MSTはいずれの測定条件においても信頼性が高く、移動能力との関連も一様にして認められ、測定条件によって差はなかった。よって、MSTは高齢者における動的バランスについて、前後左右のいずれの方向に障害をきたしているかどうかをスクリーニングすることが可能である。高齢者の平衡機能は多くの機能系が統合された過程であり、その評価は単一の検査のみで行うことは難しいといわれている中で、方向別の重心移動能力という観点から検査項目を減らし、立位動的バランスを評価する効率を上げることができるかもしれない。
しかし、MSTによって前方および側方の動的立位バランスの程度を特異的に測定できるかどうか、MSTを挙弱高齢者や運動障害者を対象として臨床場面へ応用できるかどうか、といったことについて検討するために、対象者の属性について層別化し、さらに他の身体機能との関連を多次元的に考慮する必要があると考えられた。