対象者はALS患者19名と健常高齢者11名。バリウム嚥下をVFで記録した研究論文です。

嚥下時に誤嚥が認められた患者は4名 誤嚥が認められなかった患者は15名。
患者群を舌萎縮有・誤嚥有群(有有群、4名)、舌萎縮有・誤嚥無群(有無群、7名)、舌萎縮無・誤嚥無群(無無群、8名)に分けられた。

有有群4名では全員が喉頭侵入あり、有無群7名では喉頭侵入率が43%(3名)、無無群8名では喉頭侵入率13%(1名)。

ALS舌正常群では舌骨挙上開始前に食塊先端が口蓋垂を通過し、ALS舌萎縮群に至っては、舌骨挙上開始前に食塊先端が口蓋垂を通過し、さらには食塊先端が食道入り口部に到達していたことを示していた。

上記のような結果を得ています。考察は明日記載したいと思います。
詳細は下記または引用文献をご覧ください。


筋萎縮性側索硬化症における舌萎縮と嚥下時に食塊移送との関係
谷口祐重  顎機能誌, 15 : 30-37, 2008

研究方法
対象:ALS患者19名 対象群として健常高齢者11名
座位にてバリウムを投入後、各自のタイミングで嚥下するように指示。全記録をVFにより記録し解析。すなわち、(1)誤嚥の有無、(2)喉頭侵入率、(3)誤嚥・喉頭侵入していた場合は嚥下前・中・後いずれのタイプであったか。(1)については声門下に流れれば誤嚥ありと判断、(4)については、None(score0)、咽頭内残留無:Coating(score1)、咽頭粘膜に一層残留・食塊残留無:Mild(score2)、食塊残留少量:Moderate(score3)、食塊残留中等度:Severe(score4)、食塊残留多量の5段階に分けて評価した。

結果
1.舌萎縮と誤嚥の有無および誤嚥・喉頭侵入タイプ
ALS患者において体液3ml嚥下時の評価を行った結果、口唇からのこぼれ、嚥下後の口腔残留、鼻咽腔閉鎖不全に伴う上咽頭への逆流などはいずれも認められたかった。嚥下時に誤嚥が認められた患者は4名、誤嚥が認められなかった患者は15名であった。誤嚥が認められた患者4名全員が舌萎縮有と診断された。一方、誤嚥が認められなかった患者の中で舌萎縮有の患者数は7名、舌萎縮なしの患者数は8名であった。誤嚥の有無に対する舌萎縮の感度、特異度、期待陽性率、期待陰性率はそれぞれ100%、53%、36%、100%であった。以降、患者群を舌萎縮有・誤嚥有群(有有群、4名)、舌萎縮有・誤嚥無群(有無群、7名)、舌萎縮無・誤嚥無群(無無群、8名)に分けた。
次に、有有群における誤嚥もしくは喉頭侵入のタイプ、誤嚥無と判定された患者群(有無群および無無群)における喉頭侵入率を調べた。有有群4名では全員が喉頭侵入ありと診断され、さらに誤嚥パターンは嚥下前4名、嚥下後3名であった。すなわち、嚥下後誤嚥を示した3名全員は嚥下前誤嚥タイプにも含まれていた。有無群7名では喉頭侵入率が43%(3名)で嚥下前3名、嚥下後1名であった。つまり、嚥下後喉頭侵入していた1名は嚥下前にも喉頭侵入を示したことを意味する。無無群8名では喉頭侵入率13%(1名)で嚥下中喉頭侵入も1名であった。
2.咽頭内食塊残留量
有有群4名における平均咽頭内残留スコアは4.0、有無群では2.1、無無群では2.2となり、各群間には有意差ありと判定された。
3.El Escorial分類改訂Airlie House診断基準と誤嚥の有無・舌萎縮の有無との関係
舌萎縮有の患者ではa 0名、b 0名、c 3名、d 3名、e 4名であった。平均値を比較したところ、3群間に有意差は認められなかった。
4.食塊動態解析
誤嚥が認められなかった有無群7名および無無群8名に、対象群11名を加えた3群間でVF時の食塊移送時刻、食塊通過時間を比較した。
1)食塊移送時刻
舌骨挙上開始(a)を基準時刻として、食塊先端口蓋垂通過(b)、食塊先端食道入口部到着v(c)、食塊後端口蓋垂通過(d)、食塊後端食道入口部通過(e)を比較したところ、対象群ではb 0.03±0.38秒、c 0.25±0.56秒、d 0.38±0.56秒、e 0.75±0.48秒(平均±SE秒、n=11)であった。同様に無無群ではb-0.19±0.13秒、c 0.15±0.11秒、d 0.27±0.11秒、e 0.57±0.11秒(平均±SD病、n=8)、有無群ではb-0.68±0.15(平均±SD、n=7)であった。以上より高齢者ではa→b→c→d→eの順、ALS舌正常群ではb→a→c→d→eの順、ALS舌萎縮群ではb→c→a→d→eの順となった。これらの結果は、ALS舌正常群では舌骨挙上開始前に食塊先端が口蓋垂を通過し、ALS舌萎縮群に至っては、舌骨挙上開始前に食塊先端が口蓋垂を通過し、さらには食塊先端が食道入り口部に到達していたことを示していた。
2)食塊通過時間
食塊先端咽頭通過時間、食塊後端咽頭通過時間、クリアランスタイム、口蓋垂通過時間、食道入口部通過時間は有無群(n=7)において0.29±0.12秒、0.45±0.11秒、1.14±0.13秒、0.69±0.13秒、0.85±0.14秒、無無群(n=8)において0.34±0.23秒、0.30±0.22秒、0.76±0.26秒、0.45±0.44秒、0.42±0.26病、対象群(n=11)において0.36±0.18秒、0.36±0.14秒、0.86±0.20秒、0.50±0.14秒であった。咽頭通過時間及び口蓋垂通過時間には3群間での有意差はみられなかった。これに対してクリアランスタイムや食道入り口部通過時間は、対象群や無無群と比べて有無群はいずれも延長した。

引用:顎機能誌, 15 : 30-37, 2008