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<作品の反省点>
・錠前の取り付け
今回製作した鞄、その開閉金具の要として錠前を取り付けました。
被せベロの先端に錠前を取り付けてみましたが、そのために数cmの遊びが生まれてしまい、開閉は出来るもののスムーズにはいきません。
止めるには少し押し込む必要があります。

この被せにベロを縫い付ける形の鞄。
以前に修繕した「日本軍の憲兵鞄」にヒントを得て実践しました。
とは言え、アレはマチ幅が最大で15cm近く拡がる仕様でした。

今回の鞄のマチ幅は、9cmと若干薄く作ってあります。
このマチ幅による膨らみの差…、
仮に“収納率”とでも呼びましょうか。

容積に余裕の有る収納率の高い鞄だと、被せベロ+錠前の形が機能しやすくなると思います。
調べてみると、ドクターバッグやダレスバッグがそんな感じですね。
ガバッと口が広がって使い勝手が良さそうです。
収納量の多い鞄には、被せベロは有効でしょう。

しかし、そんなに収納量を求めない収納率の低い被せ鞄の場合は、本来的にはベロを付ける必要は無く、錠前の取り付け方法としては不適切だったかもしれません。
この場合、被せに直接取り付けるのが正解であったと思います。
例えるならば、学生鞄のあの感じです。

<解>
収納率の低い鞄に錠前を取り付ける場合、遊びは設けない方が良い。
ただし、デザインとして刻印を打ち込んだベロをプラスするのは有り。

収納率の低い鞄。
書類鞄が好きな人達の中には、スマートな持ち運びを好む人もいます。
ダレスバッグを持つ人は、どちらかと言えば少数になるでしょう。
それも、管理職だったり、複数の書類を運ぶ営業マンだったりすると予想します。

ダレスバッグやドクターバッグの口金鞄…。
鞄作りの頂に立つ存在、いつかは挑まねばならない鞄です。

・被せの厚み
今回使用したタンロー革の厚みは2mm。
底には当て革を施したので3.5mm。

革の厚みから生まれる張りと強度。
張りが無く、凸凹(でこぼこ)な被せは書類鞄としては不格好となりました。
被せの裏にクロムサドル革を縫ったものの、全面ベタ貼りではなく、持ち手に近い部分は縫い付けていません。
これには理由が有ります。

・技術力不足
当初の設計では、被せの裏に和柄の生地を貼り、そこに見返し革を貼って仕上げるつもりでした。
(インレイみたいな感じ)

それを実現する為の技術力が私には備わっていなかったので、途中で計画変更せざるを得ませんでした。
それに加え、既に持ち手を取り付けた後であった事、これも作業工程のミスであったと言えます。

前回のファスナー鞄もそうでしたが、製作していく中で、やむにやまれず代案を採用する事が出てくる可能性を踏まえ、自分自身の作業工程を見直さねばなりません。

料理に例えるならば、
下ごしらえの手順だったり、加熱の順番を前後させている様なもの。
肉を焼いてから下味をふっても駄目であるし、料理が出来上がってから皿を用意し始めても、その料理は冷めてしまう。

珈琲に例えるならば、
カップにぬるめの高硬水を注ぎ、そこに挽いていない豆を沈める様なもの。
これでは、美味い珈琲を飲めるはずがない。

つまり、
「手順のみならず、方法そのものが間違っている可能性もある。」
と言うことです。

・閑話休題
革をパーツ別に仕上げる工程は、料理で言うところの下ごしらえに似ている。
形を揃える、染色防水処理をする、捻を引く、コバを磨く、金具を付ける。
これらが一定水準値に満たない場合、その後にどれ程頑張ってみたところで、仕上がりのp値は増える一方になる。

仕上がりに納得いかない現状を統計で考えると、作業工程の分散が激しい事に気づく。
これでは、標準偏差を求めるための平方すらあてにならない。

自分の作業工程に於ける実験と言う名の心変り。

これは偶然なのか、
それとも、偶然とは言えない有意なのか。
この先、鞄を100個くらい製作して、それらのデータを分析・検定した時に、自分の確率を求めることが出来るんじゃなかろうか。

そんなことを考えながら啜る珈琲は、また一段と美味い。
(パナマ・ハートマン農園パチェ・深煎り・中細挽き・ネルドリップ・湯温92℃・湯圧強め)
昨年の12月。
久しぶりにタンローを使っての書類鞄製作。

レザークラフトを始めたばかりの頃はタンローを頻繁に使っていましたが、原価が高くつくために、最近の練習では遠ざけていました。
よくよく考えれば贅沢なことをしていたものだと、自嘲気味に笑えます。

<今回の練習項目>
a.錠前の取り付け。
b.中のパーツに床革を使う。
c.普段と異なるステッチ幅に挑戦する。


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スピランで染色。
革を湿らせてから重ね塗りしています。
染料は色んな物を試している最中ですが、スピランの染め付けは非常に安定した仕上がりと思います。
バチックよりも値が張りますが、使いやすさを考えれば納得です。

(少し色落ちした様な仕上がりを狙う場合には、バチックに分がありますかね。)


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持ち手
今回の鞄の目的としては、軽量化とショルダーバッグとして機能するのが目的ですので、厚みを抑えて持ちやすさを重視しました。

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被せにベロと持ち手を取り付けたところ。
持ち手裏の芯材には、床革を貼り合わせた当て革を使っています。
見返し部分の裏地はクロムサドルを使いました。

(最近は裏地について試行を繰り返しています。
その中から自分の感覚に正直になった時、

「革の作品には、裏地も革で。(可能であれば同じ革で)」
とする考えが拡がりつつあります。
もちろん、クロム革や豚革などにも革で裏地を拵えます。
ただし、軽量化を目指す場合には、帆布やシャンタンやデニム地(10オンス以下)を利用するのが賢い選択とも思います。
裏地を貼らない作風もありますし、革の種類によっては貼らない方が風合いが生きるでしょうし、その辺は自分の技術力を見ながら取捨選択かなと。
ダイアボンドで貼り合わせるならまだしも、裏地も貼れば良いってもんじゃないし、縫い代の始末も難しいですし。)

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前面
挿し錠と美錠、錠前の間隔。
挿し錠の間隔は、中心から
1:√2で取り付けています。

被せの長さもバランスが悪かったかな、もっともっと修練を積まなければなりません。
(まずは実験してみて結果を出し、その客観的データを積み重ね、その分散と偏差から自分自身のp値を求める。)


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左右マチを縫い付けたところ。
底は前回と同じくボックス構造です。
これで形は出来上がり。

寸法は横32×縦28cm。
A4ファイルが収納出来る寸法で、書類鞄としてはちょっと小さめ。
中に床革で作った仕切りを挟んであります。
この後にコバを磨いていきました。

・菱目のピッチ
今回制作した鞄の底のみ、試験的にピッチを大きなものにしました。

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縫い目のアップ
汚い縫い目ですね(笑)。

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使ったのは手前の菱目打ちです。
(奥の菱目打ちは、比較用に撮影したクラフト社の2mm目打ち。)

オールステンレス(?)な感じの無骨な本体。
こういうの、好き。

幅3mmの刃、先端の間隔は5mm。
刃が太く、厚い革でも軽い打ち込みで貫通し、シニュー糸の3/2の拠りで丁度良い感じでした。
(あくまでも私の主観によるものです。)

実は、これは問屋さんよりお借りした物です。
私は普段、エルの菱目打ちの4mm目を使っているのですが、それだと糸の収まりが中途半端な感じで納得出来ずにいました。
(私の技術力不足も含めて)

外側を縫うのに、シニュー糸の3/1拠りだとちょっと貧弱な印象。
かといって、3/2拠りだと収まりが良くない。
糸を引き過ぎる事による革へのダメージも心配。

糸の収まりだけを優先するなら、グルーバーで銀面を削ってしまうの一つの手ですが、削った縫い目と糸の太さが適合しなかった時の、その縫い目の下品さと言ったら…。

少し前までは、私も練習でサドルヌメをグルーバーで削って手縫いしていたのですが、
ある時、グレージング加工された艶のある革を削った時に感じた
“やっちゃった感”。

これが価値観を変えるきっかけになりました。

何て言うか、ワイルドな作風とかそういうベクトルじゃなくて、ただ下品なんですよね。
焼き印や血筋を活かした作品ならば、銀面を削ることが一つの味になるかもしれません。
そういう作風は個人的に好みでもあります。

削った縫い線を糸で隠せる技術力が有るならまだしも、私の技術力ではそこまではちょっと…。

革の経年変化を考えた時に、綺麗な銀面は、革細工にとって大切にすべき要素なんじゃないかと、
「縫えればいいってもんじゃないのかな」って。
(裏は気の済むまで削ってもいいけど。)

手縫いの縫い目については、製作者さん一人一人の違いがありますし、これぞ革細工の醍醐味ですよね。
私もそうした違いを拝見させていただくのが、最近の密かな楽しみでもあります。

革の厚みも関係していますが、今回お借りした菱目打ちは、私が求めている縫い目に近いものがありました。
普段と違う菱目打ちを使うのは、とても良い刺激をもらえます。

お借りした菱目打ちについては問屋さんも詳細をご存知なかったらしく、
「エルの初期型の菱目打ちでは?」、との事でした。

検索してみると、確かに、
エルの廃盤品(?)で似た物が在ります。
しかし、先端の形状が微妙に異なり、お借りした菱目打ちは太い先端が特徴的でした。
ヤフオクでも類似品が出品されていますが、先端部は似ても似つかない。
(う~ん、取り敢えずは保留としておきます。)

菱目打ちの世界も奥が深い、拘ればキリがありません。
欲を言えば、ヨーロッパ目打ちなども試してみたいところですが、それはまた今度にでも。
安い物じゃないですからね、銭失いだけは避けなきゃいけません。
(技術力が伴わない場合、その良し悪しも理解出来ないでしょうから。)
<作品の反省点>
(1)オイルレザーの柔軟性を無視した縫製。

これは、ファスナーを縫い付けた際に感じた事です。
ファスナーは4mmピッチで空けた穴にライトシニュー糸の1/3で縫ったのですが、シニュー糸の堅牢さを考えずに力を加えた為、糸が革に食い込み微妙に曲がってしまいました。
この事が最終的に、ファスナーの開閉しづらさに繋がる結果となりました。
革の厚みが有るからと言って、それは必ずしも堅さを保証するものではないと、大変良い勉強となりました。
柔らかい革の場合は、ファスナーの範囲をもう少し狭めた方が良さそうです。
或いは、ホックやベロで開閉するのも良いでしょうか。

更に、ファスナー口を接合する場合、通常は内側に折り込んで接合するところを、かがり編みにするために外側に折り込んで仕上げた事、これも大きな要因となりました。

また、ファスナーエンド金具の取り付けにも反省点が残ります。
私の場合、スライダー不良を起こす原因のほとんどが、エンド金具の噛み合わせに集中しています。
“ファミコンのドンキーコング”みたいに勢いよくハンマーで叩いたら、金具がぺしゃんこになったのも良い思い出です。
→100均のニッパーを使っていましたが、専用のクイキリを購入して改善したいと思います。
他には、革のハギレを利用してエンドパーツを製作したいと思います。

今回、失敗するであろうと判っていても実行した事がありました。
それは、ファスナー口の横幅です。
柔らかい革は口が大きく開くので、横幅を広くしなくても楽に開閉出来ます。
ファスナー口を本体の横幅よりも長くしたのは、市販の書類鞄のような構造にしてみたかったためです。

予測通り、本体の角の辺りから革が変形し開閉しづらくなりました。
先述しましたように、かがり編みで仕上げるため、ファスナー口のパーツは外側に折り込みました。
このため、ファスナーの部分が本体の高さよりも低くなりました。
(ファスナーの部分だけ陥没する感じ。)

製作後に市販の書類鞄をよく観察した結果、ファスナー部分が捨てマチの様な構造になっている事に気づきました。
マチの重ね幅に別のパーツを縫い付ける事により、外に膨らむ構造のマチ。
つまり、ファスナー部分と違うパーツを縫い付けることで、ファスナーの部分は内縫いの様に膨らむけれど、接合する部分は外側に出来ると…。

ファスナー口が本体の高さより低くても開閉しやすかったのは、この捨てマチ独特の、“外に膨らむ構造”に解を求めることが出来ると思います。

書類鞄にも様々な形は在りますが、素材の違いを考えながら、私でしか出来ない良さを模索したいところです。

(2)裏貼りの稚拙さ。
今回の裏貼りには山羊革1mm~1.2mm厚を貼り、その間にはスポンジも挟んでいます。
丈夫な出来にはなったものの、その重さには違和感が残ります。
ズシリと重く、恐らく2kgはあるでしょう。
もう少し薄い革にする必要がありそうです。
(実は、最近は裏貼りに悩んでいます。難しく考える癖を何とかしたいものです。)

(3)カービングの作業スピード
数回に分けて作業しましたが、水分を浸透させ、それを乾燥させる事を何度も繰り返した為、ぼそぼそになった部分が何ヵ所かありました。
→一気に作業するのが難しい場合は、オイルを補給しつつ保存に注意する。
アンティックダイを塗る前に、カービングや刻印の仕上げとして、コロニルの乳化クリームを刷り込む等してみようと考えています。

また、一度に含ませる水分量が多量であったようにも思います。
革を湿らせるのではなく、私の場合は濡らしていたのかもしれません。
→少しずつ水分を入れるようにする。
ナイフの切れ味を見直し、精度の高い刻印を用意する。
革の鮮度を落としてしまっては、せっかくの革も台無しですから。

(4)計画性の欠如
当初は全てを手縫いで仕上げるつもりでいたのですが、途中から、
「かがり編みで仕上げたい…」とする内なる欲望に従いました。
どのみち、手縫いで製作していてもファスナー口の失敗は避けられなかったでしょう。
もちろんこれは練習ですし、計画に変更は付き物です。
今回の変更により、自分がかがり編みの楽しさに魅了されている事に気づくことも出来ました。
ですが、これが製品作りと仮定した時、注意する必要を感じています。

<改善点>
(1)寸法の見直し、革の得手不得手を考える。
マチ幅が10cmを超えた今回の書類鞄。
数学的な比率から言って、全体の寸法も少しバランスが悪かったように思います。

同じ鞄を作るにしても、柔らかい革で作るのと堅い革で作るのとでは、当然ですが仕上がりが変わってきますから、革の種類によっては得手不得手があるんだと言う事を痛感しています。

鹿革やオイルレザーで作るとすれば、芯材の選び方も大切になってきますし、形状の選び方も重要になってくると考えています。
この場合、ファスナーの書類鞄ではなく、トートバッグやクラッチバッグにするのが得策でしょう。
今回のオイルレザーは軟らかい革でしたので、芯材もスポンジを入れるのではなく、ボンテックス等を入れ、底も分割マチにした方が正解だったと思います。
(今回は技術面の練習として、縫い代を重ねて繋ぎ合わせるボックス形の底を選択しています。)

<その他>
今回練習した中で収穫となったのは、かがり編みでも革を繋ぎ合わせる事が可能だと言う事実です。
これを応用していけば、かがり編みでも内縫いの鞄を作る事が出来ます。
今までは周辺を編むかアップリケを施すかで、細かい部分は手縫いを併用していました。

今回の書類鞄製作を経て、コーヒーを飲みながら文章をまとめていました。
原価を無視して色々と欲張った結果、使い勝手に疑問点が浮かび上がってくる結果となりました。
本体重量、ファスナーの付け方、薬剤との相性、裏貼り、

これらは、私の今後の鞄製作に於ける通過儀礼のようなものであり、レベルアップの為の問題解決のヒントです。

裏貼りもせず、かがり編みもせず、透かし彫りもしないでいたら…。
欲張らなければ見えてこなかった改善点の数々。
見て見ぬふりをするわけにはいきません。

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腹ごしらえ
青椒肉絲
味のアレンジに酒醤を少々、意外とイケます。