所信表明演説

首相官邸の内側で、特定企業につながる人物たちが跋扈(ばっこ)している。28日の通常国会冒頭に安倍晋三首相がおこなった所信表明演説の草稿を起草したのは元外務副報道官の谷口智彦氏と、といわれる。谷口氏は、安倍首相が1月中旬にベトナム、タイ、インドネシア3カ国歴訪に旅立つ前々日(14日)、前日(15日)、首相官邸の総理執務室に入っている。2度目の15日は39分間、滞在した。所信表明演説の原案を相談したものと見られている。

谷口智彦氏といっても一般になじみは薄い人物であるが、8年ほど前、霞が関で話題になったことがある。町村信孝外相の下で新設の外務副報道官に就いたとき。谷口氏は『日経ビジネス』主任編集委員出身であった。前任外務報道官がNHKキャスター出身の高島肇久氏の退任を受けて新たに設けられたポストである。民間ジャーナリストからの転身がちょっと耳目を引いた。谷口氏は外務副報道官の立場を通じて、安倍氏の外交ブレーンとされる谷内正太郎元外務省事務次官に近い。

谷口氏に、所信表明演説を起案する役回りがめぐってきた背景には、さまざまな背景がのぞく。

四季の会

谷口智彦氏には、現職の肩書きがいくつかある。慶応義塾大学特別招聘教授、ニッポン・コム(外務省外郭団体が運営する海外向けウェブサイト)編集委員、そして東海旅客鉄道(JR東海)常勤顧問である。JR東海常勤顧問というのが谷口氏のホームベースであることは、かれを知る周辺で語られることだ。

JR東海といえば安倍内閣発足で内閣官房副長官(事務)に就任した杉田和博氏もJR東海顧問から霞が関復帰である。杉田氏は警察庁で警備公安畑を歩み警備局長を経て官邸入りし、内閣情報調査室長、内閣危機管理監。退官後、JR東海入りしている。

なぜ、JR東海なのか。キーマンはJP東海の葛西敬之会長である。葛西氏は、2000年に発足した安倍晋三氏を囲む財界人の集まり「四季の会」の幹事役である。安倍氏が前回の政権を投げ出し孤立感を深めた時期にも、葛西氏は激励をし、再起を促してきた、という。葛西敬之氏は、財界内では保守主義者として知られる。産経新聞にもしばしば寄稿する論客である。安倍政権を支える財界人脈の主流に位置する。JR東海人脈が安倍氏周辺に集まるのは不思議なことではない。

スケールが小さい

「総理は身内だと思うとどんどん近くのポストにつけちゃう。『お仲間』感覚はなくなっていない」自民党内の声である。安倍氏が会長をする右派集団・創生「日本」メンバーが閣僚の半数を占めたことにも現われている。中曽根康弘氏は首相に就任したとき、政治的立場を異にし、派閥も違い、内務官僚先輩として煙たい存在であった後藤田正晴氏を官房長官に就いてほしいと懇願した。中曽根―後藤田ラインが中曽根長期政権の基礎固めをしたと自民党内で語り継がれる。身贔屓が目につくのは政権の脆さと裏腹である。安倍氏のスケールの小ささといえる。