先日、骨髄ドナーとしての最終同意面談を受けました。

この日のために三重から出てきた母(ドナーの家族)、私(ドナー)、調整医師(U
先生)、コーディネーター(Kさん)、弁護士(第三者の証人として)の5人が、病
院の小さな会議室に向かいあって座りました。
こないだの確認検査のときのなごやかな雰囲気と違って、なんだかドキドキ・・・

確認検査の日に受けた、手術の具体的な説明を、KさんとU先生が、1.5時間かけ
て、母に丁寧に説明してくださいました。

・・・このとき、母は三重の自宅の引越しを控え、準備で忙しくしていて、このつい
三日前に腰を痛めたばかり。
そこで、KさんやU先生がお話している最中にも関わらず、腰をかばってごそごそと体
制を変えては、突然立ち上がり、なんだか落ち着きのない面談になってしまいまし
た。でも、それでちょっと場の緊張がほぐれたかな・・・

一応最初に、「腰を痛めているので、母がときどき体を動かしますがご了承ください
ね。」と、皆さんにはお話してあったのだけれど、母が突然立ち上がって壁に両手を
着き、片足を浮かして腰痛体操を始めると、U先生も一瞬ぽかーんとされていました
(笑)。(ごめんね、U先生。)

骨髄採取手術は、全身麻酔下で行なわれます。そのためドナーは、全身麻酔に伴うリ
スクを負うことになります。全身麻酔中は、自発的な呼吸や排泄ができないため、身
体に4本程度の管を挿入します。口からは酸素吸入用の管、腕には輸血用の管と静脈
注射用の管、膀胱には尿排泄用の管。

こう書くと、なんだか痛々しいですが、当の本人は気持ちよく眠っているため、ちっ
とも痛くありません。
ただ、麻酔から覚めて酸素吸入用の管を抜いた後、喉の粘膜が乾燥していたり、管の
せいで気管に傷がついたりといったことはよくあるそうです。また、尿管も抜くとき
に痛みを感じる人もいるとか・・・

日本ではすでに9,000件以上の、骨髄バンクを介しての非血縁者間の骨髄移植が行な
われているのですが、そのうち、後遺症が残るような副作用があった例は、ほんの数
例。でも、その事例を、ひとつひとつ説明されました。

この手術に伴う後遺症や事故のリスクについての説明が、コーディネーターや調整医
師にとって辛いところではないかと思います。ドナー候補者本人は、事前にそのリス
クについて説明を受けた上で最終同意面談に臨むのですが、ドナーの家族は、そのと
き初めてリスクについて耳にします。ここで、リスクについて知った家族が提供を反
対し、移植できなくなる(=コーディネートを終了する)ケースがかなり多いと、K
さんは話していました。それでも、KさんとU先生には、発生しうるすべてのリスクを
ドナーとその家族に説明する義務があるのです。

Kさんは、常に何件もの移植のコーディネートを進めていて、1年に数十件のコー
ディネートを受け持っているそうです。そのうち、実際に最終同意面談で同意を得ら
れ、また患者さんの都合も合い、実際に移植手術が行なわれた数は1年に10件程度
だそうです。
Kさんは、「ドナー本人の厚意が、家族の反対で叶えられないとき、ドナー候補者の
気持ちのやり場がないのです。それを見るのが一番辛いですね。」とおっしゃってい
ました。

でも、それは仕方ないのかも知れない・・・自分の家族が手術を受けることで、少な
くとも手術を受けなければ絶対に負うことのないリスクを負うことになるのですか
ら。健康な身体にメスを入れるのですから。
同意が得られなかったからといって、責めるわけにはいかないのです。

でも、彼らがほんの少し想像力を働かせてくれたら・・・
もし、自分が、自分の愛する子供が、夫が、妻が、ドナーの善意による骨髄提供に頼
るしか生きる道がなかったとしたら・・・

反対する方は、そこまで思いを巡らせることができないのかもしれません。
それにしても、家族から反対を受けたときの、ドナー本人の気持ちを考えると、切な
くなってしまいます。

さて、話を私のケースに戻して・・・
母は、ありがたいことに、上京する前から同意することを決めていました。
「あんたは子供の頃に入退院を繰り返して色んな人にお世話になったし、色んな治療
を受けて苦労したからな。これも何かのご縁であり、役割やな。」とのこと。きっ
と、母も病気の子供を持つ家族の気持ちを、身に染みて感じていたのでしょう。

同意書類に署名と捺印終えると、何か質問はありますか?と聞かれました。
そこで、ここぞとばかりに、以前から興味があって聞きたかったことを色々と質問し
てきました。
教えていただいた回答をここに要約します。

現在、骨髄バンクには30万人を超えるドナーが登録しています。日本は古くから単一民族国家
であったため、HLA型が似ている人が多く、年間2000人程度の患者さんが骨髄移植を必
要としている中、8割強の患者さんがHLA型の一致するドナーを見つけています。一
方で、いまだ2割の患者さんが、HLA型が一致するドナーを探している状況だそうで
す。また、HLA型が一致したドナーが複数見つかったとしても、先に書いたように、
最終面談で家族の反対を受けて移植できなくなったケースや、ドナー本人が辞退した
ケースもあるため、まだまだドナーは十分だとは言えない状況だということです。

また、骨髄移植は、化学療法(抗がん剤)や放射線治療では病気を治すことができな
い患者さんの、最後の生きるための手段であり、そのリスクはとても大きいのです
が、それでも、移植を受けられるということ自体がとてもラッキーなのだ、とU先生
がおっしゃっていました。U先生の診ている患者さんの中には、移植さえ受けられず
亡くなられる方もたくさんいらっしゃるのだそうです。そう話す、普段はひょうきん
なU先生の厳しい表情を見て、思わず目頭が熱くなって、目をそらしてしまいまし
た。

また、コーディネーターのKさんは、ドナー(私)の最終同意が得られたことを、そ
の足で当日中に骨髄バンク経由で患者さんに報告するそうです。患者さんは、ドナー
の最終同意をもらって初めて、やっと移植を受けられる、と少しほっとするそうで
す。と、同時に、主治医の先生方にとっては、これからが本当のスタートだ、と感じ
るそうです。この最終同意を受けてようやく、移植に向けた新しい治療法を患者さん
と共に計画できるのだそうです。

ドナーにとっては、提供すればそれで終わりのことであっても、患者さんは移植後
も、拒絶反応や再発のリスクと闘います。ドナーに患者さんのその後の状態を一切知
らせてもらえない理由は、そこにあるのではないかと思います。

新しい骨髄を移植された患者さんの身体の中には、100%ドナーの血が流れます。血
だけを見れば、ドナーそのもので、中には血液型さえ変わってしまう患者さんもいま
す。
ドナーの血液中の遺伝子はそのまま患者さんに受け継がれ、ドナーの持つアレルギー
やアルコールに強いか弱いかなどの体質も、すべて受け継がれます。中には、移植後
に性格も変わったように感じる、という患者さんの報告もあがっています。

・・・人間の身体ってすごい!
考えてもみれば、自分が健康であることが誰かの役に立つ(いのちさえ救えるかもし
れない)なんて、他に例があるでしょうか。

さて、ドナーになると決まった私の次なる宿題は、採取前健康診断です。実際に骨髄
採取を行なう医師(別の病院で別の調整医師が行なう)による、血液検査、肺活量、
詳しい問診、麻酔のテスト、などなど半日がかりで全身の検査を受けます。
この内容について、また後日報告します。

どうか、無事移植できますように。
そして、移植後もすべてがプラスの方向に向かいますように・・・