シドニーでアイエンガーヨガを教えて30年近くなるという、オーストラリアのシニア・ティーチャーピーター・トムソンのワークッショップがシンガポールのリトルインディアに程近いスタジオOASISにて行われました。


アイエンガー氏もAGモーハン氏も近代ヨガの父、クリスナマチャリアの弟子なのですが、ヨガのスタイルはだいぶ異なります。特にアイエンガースタイルは身体のアライメントにとても注意深く、プロップといわれる小道具を色々使うことが知られています。欧米でヨガがここまで広まった功績は、アイエンガー氏に負うところが大きいと思います。サンフランシスコで始まったヨガ雑誌の老舗「ヨガ・ジャーナル」も、もともとはアイエンガー系です。


さて、8日間のワークッショップは全てアーサナ。特に講義の時間は無かったものの、日に何度かは全員輪になって集まり、ピーター氏の話を聞く機会がありました。その中で心に残った言葉をメモ風にまとめてみます。


●Do Your Work (=Practice)

理論よりも実践が大事。


●Do not be end-gaining. The process is very important.


●毎朝マットに戻ってくるたびに、ゼロから始めよ。初心に戻ることの大切さ。


●頭で考えるのではなく、身体のセンセーション、感覚がスタート地点。


●足の裏からポーズの土台をしっかり作っていくことが重要。足の裏(ポーズによって親指の付け根 or かかとの内側)足の内側面、ふくらはぎ、腿、腰、背骨、最後に頭や腕。というように下から上へと構築していく。


●一回のセッション内では、始めに下から積み上げて作った土台を変えずに、上へとポーズが広がっていくように。

 例えばトリコナサナ(三角のポーズ)では、足の向きをスタンバイしたら、前足の親指の付け根から足全体、次に後ろの足、かかと、そして後ろ足全体と上向きのエネルギーを意識し、それによって腰や骨盤が正しい位置に決まり、その土台から背骨が伸びる。そこから腕を伸ばし、首や顔の位置がきまるのは一番最後。深く身体を曲げようとして、(形を追うばかりに)せっかく作った土台を変えてはいけない。


●プレイン=頭が働くと、表面的な形のみ追うことになり、そのポーズの本質を現すことができない。


●Asana must be beautiful.

ポーズは美しくなければならない。身体の外見も心の内側も。


最後の言葉を自分なりに補足しますと、道具や工芸品の世界で言われる「用の美」に近いのでは。


つまり、美しいポーズとは、ダンスのように観客に見せるためのものではなく、むしろ無駄な力がそぎ落とされることによって、結果的に見る人に美しさを感じさせる動きである。身体の使い方が適切なため、本人もエネルギーが全身をめぐるのを感じ、身体の感覚も気持ちの上でも、すっきりと気持ちよい状態。


このように私は理解しました。


ピーター氏のすごいところは、こういった理論的なことを説明するのではなく、私たちに身体でわかるように、本人の「気づき」を促すような教え方をしてくれるところです。


何事も、一番深い理解というのは、説明(つまり人の話や書物)からではなく、経験をつうじて得られるものです。体験のあとに、上のような話をしてくれたことで、頭での知識が身体レベルでの知恵となり降りてくる、そんな中身の濃い8日間集中ワークショップでした。