参考:「産業カウンセリング」第6版p109

 

精神分析療法について、あれこれ。

 

書籍:『ヒステリーの研究』、『ヒステリー研究

(原題:Studien über Hysterie、英題:Studies on Hysteria

ジークムント・フロイト と ヨーゼフ・ブロイアーが執筆し、ドイツで1895年に出版された本である。1893年以降に執筆された入門的な内容の論文からなる本で、ブロイアーが治療にあたった症例アンナ・O(本名:ベルタ・パッペンハイム)や精神分析の発展に関する論文が含まれている。

日本語訳版『フロイト全集』では第2巻に収録されている。

 

 

症例アンナ・O(本名:ベルタ・パッペンハイム)

O.アンナ嬢には『解離性障害(解離性同一性障害)』と類似した二重人格の症状も現れており、『上品で高い教養と共感性がある正常な人格』『下品で無教養な態度や卑猥な発言をする病的な人格』とが交互に出現したといいます。

1881年4月に看病していた病気の父親が死去すると、O.アンナのヒステリー症状は更に悪化していきましたが、J.ブロイアーとの間で過去の記憶や情緒を回想していく『談話療法』を行ったところ、次第に症状は回復に向かっていきました。

J.ブロイアーはO.アンナに行った心理療法のことを『催眠浄化法(hypno-catharsis)』と呼びましたが、その心理療法の作用機序は抑圧された記憶(心的外傷)を感情を伴って言語化することによる『除反応(abreaction)』でした。

 

尚、頭脳明晰で社交性と行動力に秀でていたベルタ・パッペンハイム(O.アンナ)は、ヒステリーを克服した後に、児童・女性の社会福祉の充実に尽力する先駆的なケースワーカー(慈善活動家)として活躍しました。

ベルタ・パッペンハイムは『ユダヤ婦人連盟』を結成して、女性の参政権獲得運動も精力的に行ったことで知られています。

1954年には、西ドイツで彼女の社会事業・社会福祉活動・ソーシャルワークを賞賛する記念切手も発行されています。

 

除反応 abreaction

 

抑圧され無意識になっているかつて体験した苦痛な経験の記憶を復活し,言語ないし動作によって表出し,過去の情動の緊張を解放することをいう。

これによってクライエントは自分の非合理的な行動の原因を知り,洞察が得られる。

治療として応用したのが精神療法としての除反応である。

誘導方法には,催眠法と薬物を使用する方法がある。

無意識的なものを意識化する過程はカタルシスであり,その結果が除反応である。

 

 

『精神分析』

 

S.フロイトは『ヒステリー研究』を発表した翌年の1896年から『精神分析』という言葉を用い始め、受け容れたくない不快な欲求(性欲)・記憶が『無意識の領域』に抑圧されることで神経症が発症するという仮説を唱えるようになります。

つまり、『無意識』へと抑圧された激しい感情や性的衝動が、『四肢の麻痺・手足の振るえ・情緒不安定・知覚障害・運動障害(失立失歩)・不安感・対人恐怖・強迫観念』といった神経症症状に転換されるというメカニズムをフロイトは主張したのです。

 

自由連想法

 

フロイトは、種種の神経症の原因は無意識層へ抑圧されている感情、記憶であると考えた。はじめ催眠による治療法をとったが納得のいく効果が得られず、自由連想法とよばれる方法をとることとなる。

自由連想法とは、精神分析医が患者に対して任意の単語を与える。患者はその単語から想起する単語へと自由に連想していくという方法で、これにより無意識、潜在意識を顕在化しようと試みた。

TVや映画のワンシーンで、精神科医らしき人物の前の寝椅子に横になった患者が、なかばもうろうとしたまま次々に発想をつなげて、やがていまわしい過去の記憶にたどり着くといった光景を見たことが無いだろうか。おおよそあのようなものと思っていただければいいと思う。

 

現在でも応用される形で患者の治療に用いられているというこの方法だが、フロイトは自由連想法での治療を重ねるにつれ、患者が自由に思い出すということは困難で、むしろ思い出すことを妨げている理由原因を明確にすることが問題と考えるようになった。精神分析という用語が生まれたのもそのためである。

 

 

夢分析

 

夢分析(ゆめぶんせき 独: Traumdeutung)とは深層心理学において、無意識の働きを意識的に把握するための技法である。

ジークムント・フロイトの創始した精神分析学における夢分析と、カール・グスタフ・ユングの分析心理学では、夢分析の意味も解釈の方法論もまったく異なっている。

 

精神分析学の理論では、夢の世界は無意識が意識に混入してくるため、意識の側から無意識を理解するのに適している。ジークムント・フロイトは、夢(独: Traum)とは抑圧されていた願望を幻覚的に充足することによって睡眠を保護する精神の機能であると考えた。

夢を思い出すためには自由連想を行い、夢を構成していた場面や要素をたどってゆく。そして前日の体験、本人の性格、生育歴などを考慮しながら浮かんできた夢を分析する。

 

夢分析において分析の対象になるのは無意識の内容(エス、欲求、願望、衝動)と夢の表現を歪める傾向(超自我、自我の防衛機制)のふたつである。

夢において願望は形をかえて現れることがある。たとえばペニスは蛇、剣、銃。ヴァギナは穴、窪み。母親は家などである。

 

分析心理学(あるいはユング派)においては、夢は無意識、特に集合的無意識あるいは元型から意識に向けてのメッセージである。そして、そのメッセージをセラピストが抱え、必要に応じてクライエントと共有するなどして、メッセージをクライエントが受け取れるように行われる一連の作業のことを夢分析と呼ぶ。ちなみに、覚醒している状態での想像や空想、あるいは芸術的な表現なども夢と同じように無意識からのメッセージを含むと捉えられているが、夢分析こそがそれを理解するための最も重要であり中心となる方法であるとされる。

 

ユング派の夢分析は、一般のいわゆる“夢分析”のイメージと異なり、夢の意味を収束的に一つの解釈に導くのではない。夢に対して「拡充法」という技法を時に適用しつつ、対話などを通じて夢からもたらされるさまざまなイメージおよびその持つ意味などを膨らませ、意識と夢(ひいては無意識)とのつながりを再構築し深めてゆく、といった作業を行う。これは無意識からのメッセージと向き合うことによって自己実現に至るための方法であるとされている。

 

 

幼児期への退

 

高度に発達した精神が、以前に経過してきた地点に回帰する現象を退行(Regression)という。

フロイトだけでなく、多くの治療家は、クライエントを幼児期へ退行させ、そこで無意識の欲求や願望の源泉を見つけ、それを意識化させることで治療を試みている。

 

退行の原因にはいろいろあるが、固着(Fixation)と大きな関係があるとされている。固着はリビドーの相当の量がある発達段階に残されている事を意味するので、固着が強い人ほど内的や外的圧力に容易に屈し、その時点に退行しやすくなり、それだけ自我が脆弱だと言える。健康な人間でも睡眠時、食事、排便時、入浴時などリラックスできる時には軽い退行が起きる。

 

健康な退行と病的な退行は、その固着点から正常な精神状態に立ち返る事が出来るかどうかで決まる。また、面接過程において自然と精神は未熟な精神の発達段階に退行する事がわかっており、これを治療的退行と呼び、精神分析の治療に欠かせない要素となっている。治療的退行時には患者が平生感じることのない感情や衝動に駆られる事が多い。また動物にも退行が生じることが知られている。

 

 

転移の処理

 

フロイトは、面接過程において、患者が過去に自分にとって重要だった人物(多くは両親)に対して持った感情を、目前の治療者に対して向けるようになるという現象を見いだした。これを転移(Transference)という。

 

転移は、患者が持っている心理的問題と深い結びつきがあることが観察されたことから、その転移の出所(幼児期の性的生活)を解釈することで、治療的に活用できるとされた。

 

転移の解釈は、精神分析治療の根幹とされている。

 

この概念は精神分析における臨床現象として特に区別される。

この現象には同一視と投影、置き換えと退行などが同時に複数発生する。

 

 

逆転移

 

フロイトは、治療者の側に未解決な心理的問題があった場合、治療場面において、治療者が患者に対して転移を起こしてしまう場合があることを見いだした。これを逆転移(Counter Transference)という。

 

逆転移は治療の障害になるため排除するべきものであり、治療者は患者の無意識が投映されやすいように、白紙のスクリーンにならなければならないと考えられた。

 

例えば、クライアントが診察に訪れる機会を楽しみに感じてしまう。

この時点では、既に意識化されている。

治療者は逆転移を足がかりにして、自身の中に想起する感情を自己点検し、コントロールする必要がある。

 

しかし、そうした治療者の中立性に関しては、弟子の中にも異議を唱えたものが多かった(フェレンツィなど)。

現代の精神分析では、逆転移の定義はさらに広げられ、面接中に治療者が抱く感情の全てを含むものになっている。

 

そして、逆転移の中には患者側の病理によって治療者の中に引き起こされる逆転移もあり、そうした逆転移は治療的に活用できるとする考えが主流を占めるようになっている。

 

 

抵抗の処理

 

心理的問題の解決のために治療者のもとを訪れたにもかかわらず、患者が治療過程が進むことを無意識的に拒んでしまうことを抵抗(Resistance)もしくは治療抵抗という。

これは、無意識に目を向けることには苦痛が伴うため、自我が自然と無意識の表出を防衛する事によって起こると考えられている。

この抵抗を乗り越え、いかに無意識を解明するかが、治療過程の重要な局面となる。

 

 

防衛機制の解釈

 

面接をしていくとクライエントがある特定の話題を避けたり、あるいは逆に固執したりすることに気づくことがある。

このようなことが起きたら、どのような防衛機制が働いているかカウンセラーは解釈してみて、クライエントに尋ねてみるとよい。

クライエントがそのことに気がつけば、意識化され、葛藤の解消とともに症状も消えていくことになる。

 

防衛機制(ぼうえいきせい、英: defence mechanism)とは、精神分析で用いられる用語であり、欲求不満などによって社会に適応が出来ない状態に陥った時に行われる自我の再適応メカニズムを指す。

広義においては、自我と超自我が本能的衝動をコントロールする全ての操作を指す。

 

元々はジークムント・フロイトのヒステリー研究から考えられたものであり、後に彼の娘のアンナ・フロイトが、父の研究を元に、児童精神分析の研究の中で整理した概念である。

 

ジークムント・フロイトにおける厳密な定義によれば、あらゆる欲動を自我が処理する方法が防衛である。よって人間は常に欲動を防衛している事になる。人間の文化的活動や創造的活動は全て欲動を防衛した結果であり、その変形に過ぎないとされている。

 

しかし一般的には防衛は、自我(あるいは自己)が認識している、否認したい欲求や不快な欲求から身を守る手段として用いられると理解されている。

 

最初にフロイトが記述した防衛機制は「抑圧」である。

アンナ・フロイトは主要な防衛機制として、退行、抑圧、反動形成、分離、打ち消し、投影、取り入れ(摂取)、自己への向き換え(自虐)、逆転、昇華の10種類を挙げている。

またフロイトの弟子であるメラニー・クラインが、分裂、投影同一視、取り入れなどの「原始的防衛機制」の概念を発展させた。

 

 

参照:精神分析的心理療法(Psychoanalytic Psychotherapy)-理論と実践-について

 

追伸:

 

現在の共通認識では、精神分析家が行う週4回以上のものを精神分析と称し、それ以下の頻度のものを精神分析的心理療法と称することが一般的になっています。

 

参照:パーソナリティ理論(精神分析的)