ロンドン・マラソン | ロンドンつれづれ

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気が向いた時に、面白いことがあったらつづっていく、なまけものブログです。
イギリス、スケートに興味のある方、お立ち寄りください。(記事中の写真の無断転載はご遠慮ください)

 

先週末に、ロンドン・マラソンが行われました。

 

これは、イギリスで一番知名度の高いマラソンで、そして一般の人が大勢参加するので有名です。

 

昔はただ走ることを楽しむだけだったかもしれませんが、今のロンドンマラソンは、チャリティなどのファンドレイジングの意味合いがすごく大きくなっています。また、それぞれのチャリティの社会的役割を広く知ってもらうための良い機会にもなっています。

 

日本にはまだ寄付文化は根付いていませんが、イギリスは貧しい学生でも毎月自分の支援するチャリティに定期的に寄付をしたりしていて、社会は一般の人の寄付や善意でずいぶんと成り立っています。

 

え、こんな団体までチャリティなの?というぐらい大きな組織、例えば、テイト・ブリテンとか、大英博物館、イングリッシュ・ナショナル・バレエまでが、チャリティなのです。 そして、これらの組織は企業や市民の寄付で成り立っています。 (イギリスの博物館、美術館は入場無料ですよ!)

 

良く知られているのは、児童虐待に対応するNSPCC (ナショナルソサエティフォープリベンションオブクルエルティトウチルドレン)で、これなど政府を動かして、児童虐待防止のために先導してきた組織として有名です。(同じように、動物愛護協会も)

 

今年のロンドンマラソンは、ロイヤルファミリーの王子たち(ウィリアム、ケイト、そしてハリー)がリーダーシップをとって、メンタルヘルス・イシューに一般の人の注意を向けようということになったらしく、当日のだいぶ前から、ウイリアムやケイトがテレビや新聞で寄付を呼び掛けたりしていました。

 

「なぜ、メンタルヘルスなの?」ということを3人が話し合っているショートフィルムがこちらにあります。美しいロイヤルイングリッシュと共にお聞きください。

 

イギリスの王室の人々は、実に多くのチャリティの理事や代表になっていますが(英国ではこれらはすべて無償)、「私たちのかかわっているどの問題にも、メンタルヘルスは関係してくる。ホームレス、薬物中毒、退役軍人の問題、大切な人を亡くした時・・・。メンタルヘルス問題は、なかなか人に打ち明けられない。でも誰かと話すこと、打ち明けることが治療につながることもある」 とケイトは話します。 そういった活動をしているチャリティ、Heads Together (ヘッド・トギャザー)を支援しよう、と3人のロイヤルたちが、話し合っているところです。 

 

ウイリアムは「特に子供たちの間のメンタルヘルスが問題になりつつある。試験のストレス、友人関係、ソーシャルメディアによるストレス・・・。」と。 ハリーも「この社会では他の人の人生は、パーフェクトだと思わされがちだけれど、実は違うんだよね。心の問題を抱える人は大勢いる。家族でメンタルヘルスについて話し合うことができること、それだけで学校生活も職場でも、なんとか頑張ることができる」と。

 

「例えば、最初の子供を育てるときだって、不安になるでしょう、何冊本を読んだって・・・」とケイト。

 

「例えば退役軍人、体の負傷ならわかりやすいけれど、心の傷は家族だってなかなかわからない・・・」とハリー。

 

と彼らの会話は続いていきます。

 

 

ヘッド・トギャザーの応援ハチマキをするウイリアム、ケイト、ハリーの三人。

 

 

 

沿道に立って、ランナーを応援するウイリアム王子、ヘンリー王子、ケイト妃。

 

 

 

その他にも、キャンサー・リサーチ(がん研究)などを支援するランナー、子供の病院を支援するランナーなど、ロンドンマラソンは、チャリティの応援をするランナーであふれました。チャリティとは、日本ではNPOという言い方をします。

 

 

 

思い思いの扮装で自分の応援するチャリティをアピールして、26キロ強の道のりを走る市民ランナーたち。

 

 

 

 

私が福島で被災した子供たちの応援をする、ジャパン・ギビングも、もともとは英国で始まったシステムです。こちらでは、ジャスト・ギビングと言います。 このように、ロンドン・マラソンなど、市民の参加するスポーツイベントは、ジャスト・ギビングなどを利用したチャリティへの応援のために参加する市民がほとんどです。 普通の人が自分の得意分野でないことにあえてチャレンジして、社会のために頑張るチャリティを支援する・・・。

 

こちらでは、子供のためのホスピスなども、チャリティという形の組織になっていることが多いので、そのために走ったり泳いだりする子供たちも多くいます。 親は、そういう子供たちに伴走し、自分たちの知り合いにメールを送ったり、フェイスブックで支援を頼んだりします。 子供のうちからチャリティの支援に積極的になる下地があります。

 

 

寄付をすることで、社会の中で弱者を支援する活動をするチャリティを応援する。 そういう文化が、長い歴史の中で根付いている、そんな英国が私はとても好きです。

 

そして、仕事の合間をぬっては、ロンドンマラソンのための準備にランニングの練習をする会社員や大学の先生たちが、この週末おおぜい参加して共通の問題意識を持ったことは、とても重要なことだなと思いました。

 

今年の大きなテーマは、メンタルヘルス。 でも、それだけでなく、それぞれの参加者が、自分の大切にしているチャリティの応援のために走りました。

 

 

新聞には「ついこの間、テロ行為のあったロンドンのウェストミンスターの界隈を、大勢の市民が社会をもっとよくするために走った。強いきずなのあるロンドンを示したのである」と書かれました。

 

 

大切なことを考えるのに、楽しいことを通して行うこと。 

 

社会が弱者を切り捨てにしないこと。

 

持っている人が、持たない人に手渡すこと。

 

 

 

ウイリアム王子、ケイト妃、そしてハリー王子がロンドン市民と共有した思い。

 

少しずつの愛情とお金を、多くの人が差し出すこと。 それによって社会が少しでも住みやすい場所になること。

 

 

自己責任ということを強く言われる日本の社会。 話題にできないタブーが多くて、なんだか言葉のあげあし取りが目につくことも多い社会です。 

 

 

本質はなにか、強い気持ちをもって、何が大切かをぶれずに主張できること。 手を差し伸べることも、助けを求めることも、勇気がいります。  まだまだ、英国の文化から学ぶことが多いなあ、と思った週末でした。