フィギュア・スケートのルール | ロンドンつれづれ

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気が向いた時に、面白いことがあったらつづっていく、なまけものブログです。
イギリス、スケートに興味のある方、お立ち寄りください。(記事中の写真の無断転載はご遠慮ください)


熱心なファンの方数名から長いコメントをいただきました。


他にも同様の気持ちでいる方もいらっしゃると思ってお返事はこちらに書くことにしました。




まず、フィギュアスケートのルール改正についてのうわさの件です。


スケートに限らず、水泳でもなんでも、ある選手が想像を絶する形で優勝してしまい、さらに今後もその形で勝ち続けるかもしれないとなると、「一人勝ち」を防ごうとしてルール改正を声高に言い出す人たちもいます。それがそのまま通ってしまうこともあれば、ひとつの意見として聞いておきましょう、ということになることもあると思います。


オリンピックなどでも「日本人の選手が勝った後に、必ずルール改正をする」という人もいますが、そうとばかりも限らないと思います。 日本人は日本人の選手に注目していますから、ほかの国の選手に関することは知らないことが多いだけだと私は思っています。


かつて、フィギュアスケートは欧米人のもので、白人以外の選手がどんなに頑張っても高得点がでない時期が長かった、という人たちもいます。スケート業界の人でもそういう人たちがいるので、本当かもしれません。今は日本人の体つきも、欧米人に負けないぐらいになってきていますから、バレエやフィギュアスケートなどの「形を見せる」タイプのパフォーミングアートでも、「損」をしないようになってきていることは確かです。そうはいっても吉田都さんのように、その演技力と技術でハンデを克服し、トップに君臨することができるのも芸術の一面で、体型が良ければ美しく見えるかといえばそうではありません。


またここ数年は、フィギュアスケートでトップクラスの選手に、東洋系の出自の選手が多いことは、あきらかに見て取れます。 欧米の国代表でも東洋系の人が多く入っています。まず、練習熱心という文化的背景があるのと、スレンダーで肉のつきにくい体つきという「得」があるのではないかと私は思っています。 バレエでもよく言われるようですが、「下半身が強い」こともあるかもしれません。ようするに、ジャンプの安定がいいのです。それに日本では子どもを教えるコーチ陣の質がたかく、メソッドが確立している印象を受けます。


抜群の確立で4回転ジャンプを成功させる羽生選手や、ボウヤン・ジン選手などがでてくれば、技術点でたたかう選手たちは、勝ち目がないでしょう。 大きなジャンプはひとつ跳んでも、大きく得点しますから。しかも、羽生選手はジャンプだけではありません。どの国の解説者もみな言うように、「ホール・パッケージ」、つまり他のエレメンツの質のたかさも、音楽にぴたりと合わせてくる演技も、テーマを伝える表現力も、すべてを兼ね備えています。


こうなると、一か八かで難しいジャンプを跳んで、たまたま成功させている選手は、表現やトランジションにエネルギーをつかうゆとりもありませんから、TESもPCSも低くなり、トータルなスコアでは何十点も差がついてしまうでしょう。 こうなると、ビッグ・ジャンプの得点を抑えて、ジャンプの不得意な選手にあまり差がつかないようにしよう、という人たちもでてくるかもしれません。


点数のインフレ、ということを言う人たちがいるようですが、たった3年ほど前の競技会の演技を見ても、当時のトップクラスの選手の演技が、ジュニアの試合のように見えてしまうということを考えても、今の選手たちが技術的にも、表現面でも、どれほど高いところで闘っているのかがわかると思います。


フィギュアの技術、そして芸術としての質に対する要求が、ジャッジからも観客からも高くなっているということだと思います。またその要求に応えられる選手がでてきているということでもあります。フィギュアスケートはあくまでスポーツですから、技術のしのぎあいがなくなるようなルール改正は、たしかに悲しいことかもしれません。



そして、そのレベルの高さは、浅田選手、荒川選手、高橋選手、安藤選手など、世界トップにたった日本人選手に負うところが多く、羽生選手にいたってまた一段と別次元のレベルにまでフィギュアスケートが高められたということなのです。ここ数年フィギュアスケートを牽引しているのは、日本人選手とソチ前後からはロシア人選手も、といえるでしょう。



ともあれ、フィギュアスケートにルール改正はつきもので、数年おきに必ずルールを改正していますから、どっちにせよまたあるでしょう。 面倒くさいですが、選手たちはそれに合わせた練習をして、ルール内で高得点をとれるような演技構成にし、技術などを修正していくしかないのです。


選手によっては癖がありますから、ルール改正が自分にとって得にならない場合もあるでしょうが、たとえば「エッジエラーに対して、厳しいルール」が新たに付け加えられたなら、エッジエラーをしないような練習が必要になるでしょう。今までは見過ごしていてもらったミスをこれからは厳しく減点するぞ、ということで、それで「損」をする選手はでてきます。今、ルール改正後の回転不足とエッジエラーで苦しんでいる選手たちはいます。


たしかに、ボーヤン・ジン選手のようなジャンパーがPCSをどんどん高めてくれば、羽生選手とふたりでスコア上限にぶつかってしまうでしょう。そうなると優劣をどうやってつけるか、という点で議論になっているのかもしれません。 どっちにせよ、ルール改正はあっても2018年のオリンピック後ということらしいですから、しばらくは心配する必要はないのではないでしょうか。



スコアについては、それぞれのスケーターのファンがソーシャルメディアを使って、好き勝手な意見を述べていますが、演技をしっかりみて、スコアのプロトコルを見れば、たいていの場合はインフレなどではなく、正当な評価がされていることがわかるはずです。しろうとが肉眼で見ていてもわからない部分で回転不足やエッジエラーをとられ、大きく減点されている場合もあります。「肉眼でわからないことを減点する意味があるのか」という意見はおいておくとして・・・。



自分のひいきの選手を守りたいために、良い演技をした選手の悪口を言うファン心理はかわいらしくもありますが、おそらくひいきの選手にしてみればありがた迷惑でしょう。 彼らは、ただ練習にあけくれ、「自分の納得のできる演技」をすることで、審査員に判断してもらい、観客の声援を受けたいと思っているだけだからです。


少なくとも、スコアに関して選手の悪口をいうのはお門違いです。こればかりは、選手のコントロールできることではありません。文句をいいたいのなら、現行のルールと審査員に対して言うべきです。高得点のでる選手にはそれだけのわけがあって、演技構成に工夫があったり、細かいミスを重ねていないことは、プロトコルをしっかり見ればわかることです。



スケーター同士はライバル関係にあっても、リンクを離れれば良き友人として付き合っている様子です。ファンもそれを見習って、根拠もなく人の悪口を言い散らしたりしないようにしたいものです。 私たちは所詮しろうとなんですから、スコアはジャッジに任せておけば良いのではないでしょうか。


ファンも、ソーシャルメディアで口汚くののしる人たちの多くあつまるサイトは覗かないことです。どぶのフタをわざわざとって、悪臭をかぐ必要はないのです。 世の中には残念ですがいろんな人がいます。 自分の情けない人生の憂さをはらすために、一番手っ取り早いのは「匿名で悪口を吐き散らす」ことでしょう。そういう卑怯な人たちを相手にするだけでも時間とエネルギーの無駄です。


自分のひいきのスケーターを他の人がどう思っているかファンとして興味もおありでしょうが、自分が誠実に応援しているのであれば、それだけで十分ではないでしょうか。「他の人がどういおうと、私はなにがあっても応援する」。それだけで、きっと選手たちにはその気持ちが通じると思います。




羽生選手についていえば、もう彼は不動の地位を確立し、ファンの数も世界で一番でしょう。ご本人はきっとなにごとにももう動じないだけの強さを身につけつつあると思います。実力も評価も世界でトップのアスリート。ファンも色々心配することなく「スポーツ観戦は最高のエンタテーメント」というゴールデンルールを守って、「楽しむ」ことをプライオリティにすればいいのではないでしょうか。スポーツ観戦をすることでイライラすることが増えるのでは本末転倒です。



もっとも瑣末なことまで「腹がたつわ!心配だわ!」とファン同士集まってキャーキャーやることも、楽しみのうちかもしれませんが・・・それがストレスの元になったりファン同士の軋轢にならないことを祈っております。




以上、皆さんのご心配のコメントの答えに少しでもなっていたら、幸甚です。