羽生選手-責任を引き受ける人 | ロンドンつれづれ

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イギリス、スケートに興味のある方、お立ち寄りください。(記事中の写真の無断転載はご遠慮ください)

余力があれば、人は誰でも優しくなれる。お金をいっぱい持っている人、人よりいい仕事についている人、運が良くて、何をやっても成功する人、幸せであふれている人。たくさん持っているものを人に分け与えることは、たやすいはずだ。


ところが、実際にはお金持ちほどケチだということがよくある。逆に自分も大変な思いをしているのに他人のことを思いやれる人たちもいるのだ。


「桜」の記事に登場した、ウオルムズレイ侯爵夫人は、その称号は持って生まれたものではなく彼女の社会貢献に対するご褒美のようなもの、元々は、小学校の教師だった人だ。講演をお願いする時、「我々はチャリティなので、講演料はお支払いできませんが、交通費、ホテル代などはカバーします」と言って頼んだ。「講演料はもとよりいただこうとは思っていませんけれど、それなら交通費とホテル代をアフリカのレイプ被害の幼児の支援のためのチャリティに寄付してください」と言われた。


こういうことは、英国ではよくある。自分に直接かかわりの無いところで起きている不幸、不正、理不尽、不公平に対して、責任を引き受けようとする人々である。チャリティの歴史が長い文化だからだろうか。大きな責任でなくとも良い、しかし常に気にかけていて、支援を持続させる。チャリティだけではない。自分のまわりの友人、近所の人、たまたま通りすがりの人、迷子の子供、社会の中で、自分の損得にかかわらなくとも、その相手の幸、不幸に対し関心を持ち、かかわろうとする人たちだ。こういう人たちを私は本当に尊敬してしまう。


毎日の忙しさに疲労困憊していると、とても他人のことには目がいかない。自分の持っている時間、体力、エネルギー、お金には限りがある。しかし、そんな中でも社会に対して責任を引き受けようとする人たちがいる。友人は5歳の息子と2キロのマラソンをして完走することを目標に寄付を募った。「子供の癌リサーチセンター」のためである。友人に癌の子供がいたわけではない。一般的な、社会的責任のためにとった行動である。彼女からメールを貰った友人たちは、一斉に2000円ほどの寄付をした。オンラインでクレジットカードで簡単にできるサイトがあるのだ。寄付した人は、一言ずつこの親子にメッセージを送る。「3年も会ってないけどサイモンは大きくなったね!」などと。そして、5歳の息子は寄付をしてくれた人たちとの約束どおり、マラソンを完走したのだ。


今回、フィギュアの世界選手権で満身創痍、力をふりしぼってフリースケートを踊って見せた羽生選手を突き動かしたものは何だろう。単に「勝ちたい」という本能だけではなかっただろう。本能に従えば、「休め」と体はいったに違いない。では何が彼をそこまで駆り立てたのだろう。それは、責任感だったに違いない。直接的にはオリンピックでの3つの枠をとること。応援しているファンを失望させないこと。そして故郷の人に「頑張っている自分」を見てもらうこと。しかし、彼が見据えているものは、もっと大きく、もっと先にあるのではないか。彼は広く社会に対して責任を引き受けることのできる人なのではないだろうか。


スポーツ界にも、バレエや演劇界にも、「有名になりたい」「金が儲かる」などの理由で、素晴らしい演技や結果を出す人たちはいるのだ。しかし羽生選手と彼らの違いは16歳にして社会に対する責任を引き受けることを宣言してしまい、そしてどうやら本気でそれを背負っていく覚悟が見えるところだ。今たった18歳。彼の細い肩に負わせるには、痛々しいほどの大きな責任。もう、そんなに頑張らなくてもいいよ、と皆で言ってやりたいほどのけなげさ。あんなに若い子が、これほどの覚悟と責任感で、自分の人生の先を見据えているのに、大人は何をしているのだろうか。


私たち大人も、できることから、身の回りから、少しでも社会で起きていることの責任を引き受ける覚悟をした方が良い。自分に関係のないところでも困っている、苦しんでいる、孤立している人たちがいるとしたら…。自分ひとりで全て引き受ける必要もないし、できないことだ。しかし、情報を広める、届ける、声をかける、少しでもいいから持続した支援をする、気にかける、話しかける…、そして繋がることは、たぶん誰にでもできることなのだ。一歩踏み出して、勇気をだしさえすれば。それをこの18歳の少年に教わっているような気がする。責任を引き受ける覚悟をすること、それを伝えること、そして、声を出せない人たちの声になること。


いつも読んでくださる皆さんにはしつこいようですが、今日初めて私のブログを見る皆さんに、特にお願いします。


東日本大震災で親を亡くした孤児、遺児、阪神の震災の孤児、遺児、そしてその他の災害、病気,自死などの孤児、遺児を支援し、学費をサポートする「あしなが育英会」への寄付は、クレジットカードでも、郵便為替でも簡単にできます。自分たちの苦境を語る声をもたない子供たちの少しでも幸福な明日のために、お志のある方の寄付をどうぞ宜しくお願いいたします。


募金の方法など
http://www.ashinaga.org/support/entry-374.html


私は「あしなが」の回し者ではありませんが、贅沢をなるべく控えて貯金をし、少しずつですが寄付をしています。社会の中で一番の弱者であり、支援無しには将来にわたって弱者でありつづけてしまう、親を失った子供たちへの優しい心、ありがとうございます。子供たちの10年後、20年後が少しでも良いものでありますように。


(資料)

東日本震災により親を亡くした児童については、震災孤児数241人(岩手県94名、宮城県126名、福島県21名)、震災遺児1,372人(岩手県481名、宮城県749名、福島県142名)の確認が行われている(平成24年3月28日現在)。


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