一家に一枚『タペストリー/キャロル・キング』

2015年、キャロル・キングが受賞した『ケネディ・センター名誉賞2015』のステージにおけるアレサ・フランクリンの歌唱が最近の話題となっています。
去年ご紹介したレッド・ツェッペリンの同賞受賞に際してハートが合唱隊と歌い演奏した「天国への階段」は、2012年の受賞の映像でした。ハートもスゴかったけど、アレサもスゴイ。

「ナチュラル・ウーマン」(原題: You make me feel like a natural woman)は、いうまでもなくキャロル・キングとジェリー・ゴフィンの共作です。この名コンビに加えて、この曲にはジェリー・ウェクスラーのクレジットも共作者として記載されています。

彼は作曲家でも作詞家でもなく、アトランティック・レコードのプロデューサーで、アレサによる1967年の初録音を取り仕切って、アレサを一躍R&Bの女王に仕立て上げた人。『私はリズム&ブルースを創った』という著書もありますが、ボクは読んでいません。
その理由はこの日本語タイトルに違和感を感じたためです。

一般的にジェリー・ウェクスラーは、ビルボードの記者時代に「リズム&ブルース」というチャートのカテゴリーを作ったことは広く知られています。それ以前は「レイス・ミュージック」と呼ばれた黒人のためだけのブラック・ミュージックの音楽ジャンルを、人種の壁を越えて、また世界にR&Bという名称を伝えた功績者であることに違いない
とは思いますが、「私はR&Bを創った」というのはちょっとね(苦笑)。本の原題は「Rhythm and the Blues/A life in American Music」なのですから、ご本人は決して「私は創った」といは言っていないのです。つまり、ボクは単にこの邦題に異議ありというわけなのです。

似たような話があります。ジャズが生まれてしばらくたってから、ビッグマウスで知られるジェリー・ロール・モートンが「俺がジャズを創った」と公言して笑いものになったことを思い出してしまうのです。


なにはともあれ、素晴らしいアレサ・フランクリンの歌唱です。ただ、毛皮のコートで歌ってるのが(途中で脱ぎますが)気になりますね。別にワシントン条約を持ち出すつもりはありませんが(笑)。 



観客席にクライヴ・デヴィスも見えますね。なによりキャロル・キングの喜ぶ姿が素直でチャーミングです。


そのキャロル自身も1971年のアルバム『つづれおり/Tapestry』に収録されており、そちらでこの曲を聴いた人も多いのではないかと思います。いまでいうとセルフカヴァーですね。

キャロル・キングのこのアルバム、当時ボクも買って愛聴していました。ベストセラーになっていましたね。アメリカに70年代に住んでいた人に聞いた話ですが、このアルバムは一家に一枚必ずあったそうです。70年代女性解放のシンボル的アルバムです。




90年代ヒップ・ホップの女王メアリー・J・ブライジも、なんと(笑)清楚な白いドレスでハッピーな野外撮影のMVを作っています。ずいぶんイメージが違いますね、姐御っ!!




哀しい最期を迎えたホイットニー・ヒューストン。このスタイルにビックリですが、元モデルですから驚くには及びません。




アメリカのソウル界の秀才、アリシア・キーズがこの歌に向ける知的なまなざしもステキです。




ジョス・ストーンの素晴らしい歌唱にも脱帽です。彼女も裸足です。これ関係ありませんね(笑)。14歳で注目を浴びたと知り、最初のアルバムから追っかけていますが、早熟が災いしたのか名アルバムに巡り合いません。

この2008年リスボンでのアレサ・トリビュート・コンサートの絶唱は素晴らしい。ようやく自分の表現に目覚めたか。こういう人材を生むのは、必ずイギリスですね。余談ですが、ジョスを聴くと、なぜかボクは露崎春女さんを連想してしまいます。




さてアメリカの本科、カントリー畑のケリー・クラークソンもいいですね。歌いっぷりに「ナチュラル・ウーマン」な香りを感じます。




いろいろ検索していたら見つけました。さきほど紹介した露崎春女さんがJ-SOULのディーヴァ吉田美奈子さんとデュエットしています。2番の冒頭の露崎さんの歌いこみ方が好きです。

伴奏のメンバーまで記録してありました。ギター:土方隆行、ベース:岡沢章、ドラムス:村上ポンタ秀一、ピアノ:倉田信雄、キ-ーボード:西脇辰弥。一世風靡したプレイヤーたちですね。




DIVAたちによる「ナチュラル・ウーマン」もスゴイ迫力です。アレサ・フランクリン、グロリア・エステファン、セリーヌ・ディオン、マライア・キャリー、シャナイア・トゥウェイン、キャロル・キングの計6名による圧巻のフィナーレです。




最期は、まるで「ナチュラル・ウーマン」のコンサートみたいな様相を呈してきましたね。でもアンコールには、これ。

キャロル・キングのアルバム『つづれおり』に収録された、そして日本では最も多く聴き込まれたヴァージョンです。




1971年といえば、その2年前のウッドストックでの若い世代間のロックによる連帯の絆は、一時の共同幻想に過ぎないと気付いたころではないかと思います。

共同幻想の後に生まれたのが、「ミーイズム」。私(わたし)主義、とでも訳しましょうか。皆でエスタブリッシュメントに対抗して、勝利を勝ち取りましょうというモードではなく、私個人の主義主張による行動様式に従うこと。


なんだか、今の時代のわが国にシンクロしますね。出でよ、Natural Women!!