徴兵体験 百人百話/17出版

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聞き手である著者は昭和10年生まれ。プロの物書きではなかったが、退職後、タウン誌に写真日記の連載を持っていた。その縁で、地元の元兵士から徴兵時の体験談を聞くことがあった。これが発端となり、平成14年から15年に掛けて、実に110人もの徴兵経験者から話を聞くことになる。
本書にまとめられたものは、過去に地元紙などで発表されてきたものだが、本書刊行にあたり、原稿段階に遡って再編集がなされている。最初に聞き取りをして発表をした際には、字数制限があったことから、語られた話を十分にまとめきれず、語り手からの叱責もあったそうだ。いっそもう一度、聞き取り・加筆ができないかとも検討されたが、語り手が亡くなったり、高齢になりすぎたりで叶わなかったとのこと。

それぞれの体験談は見開き2頁ずつ。語り手の写真が1枚付く。淡々とした筆致でまとめられている。
語り手の出身地域は山形・置賜地方とごく限られているが、110人という数は、さまざまな立場・生活環境の人を含む。
徴兵はされたが前線は体験していない人、特攻出撃直前で終戦となり辛くも生き延びた人、敗戦後にシベリアに収容された人。
兵隊になりたかった人、兵隊検査に合格するとは思っていなかったのに合格してしまった人、兵役が終わって除隊するはずだったのに開戦で延期となり、結局戦地に赴くことになった人。
派兵先は相当広範囲だ。満州、ボルネオ、マーシャル諸島、ビルマ、アリューシャン列島。見返しの地図を眺めてため息が出る。
広島で被爆したり、原爆被害者の救護にあたった人も複数いる。広島周辺に軍関連の施設が多く、またここが中継地となって海外に派兵された例も多かったということか。長崎で被爆した人もいるが、広島ほど多くない。

開戦まもなくこの戦は負けると断言していた人がいるという話も印象深い。
が、もちろん、全体が見通せていた人ばかりではない。その分、個々人の見たもの・経験したことがクローズアップされる。語り手も聞き手もいわば「素人」なので、洗練されたスマートな語りではない。記憶のバイアスもあるだろう。それらをひっくるめて、個人の体験した戦争風景が描き出される。
何だか不思議な話もある。宮古島で任務に当たっていた。上陸した米兵が手を挙げて近づいて来たため、てっきりアメリカが負けたのだと思った。腹ぺこだったので手真似で食べ物をくれといったら、武器を置けと手真似で返された。物々交換ということかとニコニコしたがった。翌日、隣の島から連絡兵が来て、ようやく日本の敗戦とわかったという。
敗戦後、連合国軍の捕虜となり、ベトナム軍と戦うことになった人もいる。これとは逆にベトナムの甘言に乗って脱走し、その結果、連合国軍側と戦うことになった兵士もいた。日本兵が敵味方になって戦ったことになる。
ちょっと怖かった話。当時、古参兵とはいばっているものと相場が決まっていたが、度を超した意地悪はやはり相当恨まれたという。終戦後、語り手は病院で意地悪古参兵と再会する。そのとき何かをしたわけだが、何をしたかは「言えない」というのだ。
これに限らず、別の人でも「とても言えない」という話はいくつかあり、戦時という非日常の闇を思わせる。

資料としての価値も高いと思うが、通読してやはり実体験の語りの重さが印象に残る。
そして、望むと望まざるとに関わらず、どんな立場の人でも、戦争に引きずり込まれる、そのことの怖さを思う。