警視庁が東京都や東京入国管理局と連絡会議を作り、入国管理局に虚偽の申請をして外国人の不法就労や偽装結婚に加担する行政書士の監視を強化している。事件への関与が疑われながら、出入国管理法違反容疑などで立件できなかった行政書士は少なくない。このため帳簿の不備について行政書士法違反容疑で摘発し、懲戒処分権限を持つ都に違法情報を通報して、業務停止に追い込む方針だ。【町田徳丈】

 警視庁は06年以降、不法就労を手助けしたとして、少なくとも5人の行政書士を入管法違反容疑などで逮捕している。だが捜査幹部によると「虚偽申請の疑いが強い行政書士は他にもいたが、本人が『虚偽とは知らなかった』と容疑を否認したため、立件を見送らざるを得なかった事案もかなりある」という。

 そこで警視庁が力を入れているのは行政書士法違反での摘発だ。同法は依頼者の住所や氏名、報酬額などを帳簿に残すよう定めているが、虚偽申請への関与が疑われる行政書士は帳簿を保存していないケースが多いことに着目。罰金100万円以下の罰則がある同法を積極的に適用したうえで、違反情報を都に通報し、業務停止(2年以内)などの懲戒処分につなげ「社会的制裁を与えたい」(捜査幹部)考えだ。

 警視庁は2月、都内の行政書士(59)を行政書士法違反容疑で書類送検した。この行政書士は08年1月~09年9月、複数のブローカーから計百数十万円の報酬を受け取り、日本人男性と偽装結婚した韓国人女性の在留資格の変更手続きを約20件代行していた。警視庁は入管法違反のほう助容疑での立件を検討したが、行政書士は「偽装結婚とは知らなかった」と主張した。このため帳簿が不備だったことに注目し、行政書士法違反で摘発した。

 警視庁は09年11月にも別の行政書士を行政書士法違反で書類送検し、同法違反での摘発を強化している。

 一方、日本行政書士会連合会によると、会員からは「行政書士法違反容疑での立件はやり過ぎ」という意見も出ているという。連合会は「指導を徹底したい」と話している。

 ◇「塀の上歩いてる」

 東京・池袋や新宿歌舞伎町で売られる中国人や台湾人向けの新聞には行政書士の広告が目立つ。「黒転白(特別在留許可)」「不法滞在的結婚手続」など、違法行為をにおわせる言葉が並んでいる。

 「黒転白」は日本に滞在する中国人の間で3~4年前に使われ始めた俗語で「違法状態のものを合法にする」という意味。不法残留の中国人が偽装結婚で在留資格を得る意味も持つという。「黒転白」と掲載していた東京都内の行政書士は「文面は中国人スタッフが書いた。広告としてインパクトがあるらしい。すべてが違法ではない」と説明した。

 都内の別の行政書士は、中国人の会社経営者から「仕事があるからうちの傘下に入れ」と誘われた。「こちらは金になるし、そちらも仕事が増えるからいいじゃないか」。行政書士は違法な手続きを代行させられる予感がして断ったという。

 取材に応じた複数の行政書士は「中国人に雇われている行政書士がいると聞く」と証言する。過当競争や不況で仕事量がここ数年で3割減った事務所もあり、安定した収入を求めるあまり虚偽申請に加担するのだという。

 日本語が分かる外国人なら入国管理局への申請手続きは本人でも可能だ。ある行政書士は「本人が申請せず行政書士に頼む外国人は後ろめたい理由があるか、ブラックな案件」と話し「いつ悪徳ブローカーに取り込まれるか分からない。仲間とは『我々は塀の上を歩いているんだ』とよく話している」と明かした。【前谷宏】

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