2012年 イギリス
ドミニク・クック 監督
原題: The Hollow Crown / Richard III
ついに劇場版「嘆きの王冠 ~ホロウ・クラウン~」もフィナーレ、薔薇戦争の終結、「リチャード三世」です(≧▽≦)。無事に上映期間中にコンプリートできたぁヽ(^。^)ノ♪ とにかくキャストもセットも衣装も映像も豪華なこのシリーズですが、トリを飾るにふさわしい一層豪華なキャスティング!特にこのお二人・・・。
リチャード三世を演じるのは、もうすっかり世界的名優の仲間入り、我らがベネディクト・カンバーバッチ(´ω`*)。
そしてリチャード三世の産みの親を演じるのはこれまたイギリス演劇界の重鎮、ダニエル・クレイグの007シリーズの「M」から「マリーゴールド・ホテル」「素敵なウソの恋まじない」まで幅広い活躍のジュディ・ディンチ。
シェイクスピアが世に生みだしたリチャード三世は史上最強、最悪の魅惑的なピカレスクとして今世に至るまで根強い人気を保っていて、役者にとってはハムレットと並んで演じがいのある役とされています。過去この役を名演した面々も、ローレンス・オリヴィエ、イアン・マッケラン、アル・パチーノ、ケネス・ブラナー、ケヴィン・スペイシー、レイフ・ファインズ、、、とまぁ豪華絢爛です。特にアル・パチーノは、この役を愛するあまりに、ドキュメンタリー映画まで作ってしまったほど^^。
リチャードを探して [DVD]
1,533円
Amazon |
いつか観たいなぁと思いつつまだ未鑑賞なんですよねー。これを機会に近いうちに探してみようかな♪ そして今回のリチャード三世、ベネディクト・カンバーバッチは2016年のナショナル・シアター・ライブでは「ハムレット」も演じました。これも、観たかったんですがスケジュールが調整できず逃しました(T_T)。
本編に触れる前に雑談が続きます(すみません^^;)。なんと2012年にリチャード三世の遺骨が発見されたらしく、その結果彼が脊柱側弯症であったことが判明し、劇中せむしの醜い姿であると描かれているのがあながち誤りではないと確認されたそうです。なにせ、高貴な生まれの女性ですら、足が悪くてびっこをひいていたら、それだけで美しくない、欠陥品として結婚できなかったような時代。今よりずっと外見的な差別が激しかった世の中で、そのハンディと激しい恨みをバネにしてリチャード三世とういう怪物が完成したのでしょうねぇ。
そして、根拠はよくわかりませんがイギリスではリチャード三世となんらかの血縁関係にある人間が100万から1,700万人ほどいるといわれているそうですΣ(・ω・ノ)ノ! 1,100人ものAllowanceも凄いなと思いますが、それほどリチャード三世という存在への関心が強いということかもしれません。日本でも、九州出身の人がやたらと”実はうちは平家の末裔なんだ”と口にするようなもの?(´ω`*)
さらに、リチャード三世の遺骨を調査した考古学チームは、ベネディクト・カンバーバッチはリチャード三世の子孫にあたる、しかも比較的近い血縁関係にあることが判明したと発表したそうです。事実どうかはともかく、なるほど、と納得するのがたやすいほどの熱演ぶりでした^^。今まではカンバーバッチといえばシャーロック、でしたがこれからはリチャード三世が真っ先に頭に浮かびそうです( *´艸`)。
さて(ようやく)本編ですが、前回の「ヘンリー六世 Part2」で陰日向に暗躍し見事長兄エドワード(ジョフリー・ストリートフェイルド)を王座に押し上げたリチャードはその後も次兄ジョージ(サム・トゥルートン)と共にエドワー四世の治世をサポートし続けて10年経過。王子王女も生まれ王朝は平和、兄たち一族は楽し気に栄華を楽しんでいましたが、平穏な世の中になるとリチャードの活躍する機会はなくなり、かといって醜い姿を怖れられている身では妻を娶ったり着飾って美味美酒を満喫したりの華やいだ楽しみからは無縁。くらーい鬱憤を溜め続け、ついにほの暗い井戸の底、ではなく日当たりの悪い居室から、のっそり這い出て光の下の王位を我が手に収めるべく用意周到な計画を練り上げて練り上げて、行動開始です。
チェスの駒をひとつひとつ進めるように、自分と王冠の間に存在する邪魔者を、決して自分が表立って手を下すことなく卑怯な方法で確実に排除して外堀を埋めていく、恐るべき執念のリチャード三世。その、黒い作戦のいくつかを例に挙げると、、、。
例えば、兄たちを仲たがいさせてみる。
エドワード四世の耳に噂が入るように念入りに仕込み、弟のクラレンス公ジョージが兄王に対し悪い感情を抱いていると思い込ませ、かくて反逆罪の濡れ衣を着せられたジョージはロンドン塔に幽閉された上で暗殺されてしまいます。毒にも薬にもならない、ただただ人のいいジョージだったのに。最後までまさか弟リチャードが黒幕だなんて最後までツユほども疑っていない様子があわれでした(/_;)。
例えば、バッキンガム公を悪事に誘ってみる。
王にも近しい宮廷の重臣バッキンガム公(ベン・ダニエルズ)の出世欲と悪人の素質を見抜き、さりげなく巧みに自分の腹心として抱き込みます。以後、このバッキンガム公が軍師となってリチャードのための黒い計画を次々と実行していく要となります。
このバッキンガム公と、同じくダーク・サイドに引きこんだロンドン市長が市民を扇動して、エドワード四世が病死した後(これについてははっきりとは描かれていませんでしたが、きっとリチャードが毒を盛ったに違いないと思います)、エドワード四世の悪政治を訴え、あまつさえ少年王エドワード5世は王妃エリザベス(キーリー・ホーズ)の不義の子だと噂を広め、”聡明で控えめで人徳者で真に王となるべき尊き魂の持ち主”リチャードを救世主として仰ぎ、どうぞ我らが王になってください、と直訴しにいくシナリオもぶったてます。
「自分、芸能界とかぜんっぜん興味なかったんですが、友達に頼まれて付き添いでオーディションにいったらたまたま自分が受かっちゃって」的に、いや、私はただ静かに祈りを捧げたいだけです・・・と、これみよがしにドアからすぐ見えるところに祭壇をしつらえて「いやいや、そんな・・・無理です無理、カンベンして」と無欲なフリをする三文芝居が、笑っちゃうほど白々しいので必見( *´艸`)。
例えば、王妃と王子(若き新王)を引き離して無力化してみる。
幼い新王エドワード五世とその弟君を保護するという名目のもと、ロンドン塔へ護送(という名の幽閉)して母である王妃エリザベスや叔父たち親族との面会を遮断し、自分の反対勢力である王妃一族を無力化します。
あっという間にその権勢を奪われ何もできない、一人の母親としてすら無力の状況に追いやられてしまうエリザベス。義母のセシリー・ネヴィル(ジュディ・ディンチ)は、自分が悪魔をこの世に産みだしてしまったことを深く悔やみ、息子リチャードに呪いの言葉を唱えます。優しい夫と末息子はヘンリー六世の妃マーガレット(ソフィー・オコネドー)により惨殺され、夫の無念を晴らし王位についた長男も次男も失い、唯一残ったリチャードは、その姿以上に恐ろしい存在になってしまった・・・悲劇の女性です。
例えば、自分が殺した男の妻と結婚してみる。
自分は女性とは縁がないもの・・・と恨みつつ諦めていたリチャードでしたが、よりによって自分を仇として心底憎んでいる女性を口説きます。
「ヘンリー六世 Part2」でも登場した、ウォリック伯(スタンリー・タウンゼンド)の長女でヘンリー六世とマーガレット妃の間に生まれた皇太子ヘンリーの婚約者だったアン・ネヴィル(フィービー・フォックス)。ヘンリー六世の墓前でリチャードへの呪いを誓っているところに本人登場。義父と夫の仇、と荒れ狂うアンに「その美しさに心を打たれた、あなたの愛を得られなければ死んだ方がましだ」と、得意の口先と演技でめいいっぱい、自分の罪を心底悔いる恋やつれの男として必死の口説きに、アンもついほだされてしまいます。
よりによって自分の夫と義父を殺した相手にほだされて身を任すなんて、悪リチャードにとってはこれほど愉快なことはなかったでしょう(;´・ω・)。リチャード三世即位時、アンを王妃としますがもうとっくにゲームは終了していたので、用済みとなった途端に容赦なく暗殺してしまします。そう、まんまと王座を手に入れたリチャードでしたが、だからといって彼に安息は訪れませんでした。常に、新しい疑心と不安に襲われ、昨日の友は今日の敵、とばかりに殺戮も追放も止まらず、腹心のバッキンガム公との蜜月の関係すら破綻。人も人心もどんどん離れ一層孤独に苦しむばかりのリチャード。そんなリチャードに最大の敵として行く手をふさぐ大きな存在が2人現れます。
まずは、故ヘンリー六世の妃マーガレット、そうあの↑です。写真はヘンリー六世在位当時のものですが、今はすっかり薄汚れた老婆に。。。
彼女は結局処刑されず囚人として幽閉され続けていたらしいのですが、すっかり年を取り、かつての美貌も地位も失い半分狂女のような状態になり、さすがにもう害は及ぼさないと判断したのか、あるいはリチャードが何かの駒として利用する目論見があったのか、拘束は解かれ宮殿の敷地内を自由に徘徊していました。ヨーク王朝への恨みにのみ取りつかれ、髪を振り乱してぼろをまとった痩せさらばえた老婆の姿はまるで呪術を行う魔女そのもので、リチャードの呪いとして、王位についてからそれを失うまで始終、実体としても想念としてもつきまといつづけリチャードを苦しめ続ける存在となります。
現実の敵はこちら、反乱軍として挙兵したリッチモンド伯ヘンリー・テューダー(ルーク・トレッダウェイ)。
「ヘンリー六世 Part2」ではまだあどけない少年として一瞬登場します。ランカスター家の血を引く若い男子ということで、ヨーク派に敗れたランカスター派の未来の希望として大人たちに遠い地に匿われ保護されていた少年がこんなに立派に成長して、親や一族の無念を果たしにいざ立ち上がりました。神様の嫌がらせかと思う程、リチャードとはまさに真逆のキラキラなハンサム、まさに絵に描いたような王子様、部下の新任も篤く民衆にも絶大な人気の若き貴公子。よりによってリチャードを破滅させるのが彼だなんて、まったく残酷です(/ω\)。
かくして、稀代の悪王リチャード三世も、天使に祝福されたプリンスの手によりついにそのおどろおどろしい人生の幕を閉じることに。リチャード三世を倒したヘンリーはヘンリー七世として即位し、ランカスターであるヘンリー七世とヨークの皇女(ヘンリー六世とエリザベス妃の娘)エリザベス・オブ・ヨークという若々しい美男美女カップルも誕生し、ここに目出度く長年続いた薔薇戦争も集結し、ようやくイングランドに調和がもたらされます。
ヘンリー七世とエリザベス妃(それにしてもヨーロッパの王族って同じ皆して同じ名前を使いすぎでややこしい^^;)があまりにキラキラして美しいだけに、リチャード三世の闇との対比が強く、美しいハッピー・エバー・アフター物語のはずなのに、何か哀しいような、ザワザワとする後味が残ります。光が強ければつよいほど、闇は暗く、影へと封じ込められます。リチャード三世、人気が出るのはしごく納得です。
劇場版はこれでコンプリートですが、引き続きシェイクスピア版のおっかけ読書は続きます(´ω`*)。最終的には、ドラマ版DVDでおさらいするのが楽しみ♪ シェイクスピア劇はどうしても説明したいことがあれもこれもと出てきてしまい、毎回いつも以上に長い記事となってしまいましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございます<(_ _)>。読書感想の方も引き続きアップされていく予定ですので、よろしければまたお読みください^^。
唐突ですが「プリティ・リトル・ライアーズ」という海外ドラマが結構気に入っていて。いつもながらとても高校生に見えない美人揃いのガールズたちの友情と恋愛とミステリーのドラマなんですが個性豊かな主人公のガールズ4人組の一人、頭脳派で優等生キャラのスペンサー(トローヤン・ベリサリオ)というキャラクターがいます。
一番左からスペンサー、アリア、エミリー、ハンナ(ブログタイトルとえらいかけ離れた写真の挿入で失礼します^^;)
丁度この間観ていたエピソードで、このスペンサーがロンドン滞在中にシェイクスピア劇に誘われていて「(君は)シェイクスピアが好きって聞いたから・・・」とイケメンさんに言われて、「Shakespeare? I don't like Shakespeare... I do LOVE Shakespeare!! (シェイクスピアは好きなんじゃない。はっきりいって愛してるわ!)」と答えるシーンがありまして、丁度「嘆きの王冠~ホロウ・クラウン~」スタンプラリー真っ盛りのタイミングだったので思わず「おぉっ」と声をあげてしまいました( *´艸`)。
今回の歴史劇シリーズが終わったら、他の作品もまた久しぶりに読みたいなぁと思いました^^。できればいつか、原文をじっくり味わいたいなー。社会人講座とかカルチャースクールとか?どっぷり(本当は大学時代にやればよかったのに)英文学に浸るのを老後手前の目標として明日も”今日の仕事”を取りあえず頑張ります♪
追伸:
「嘆きの王冠 ~ホロウ・クラウン~」全編を通しての基礎知識的なメモは、予習編にまとめてありますのでご興味あればご覧ください^^。
こちら↓は、見づらいですが劇場版パンフレットに記載の相関図のページの画像です。ご参考まで。(クリックして大きくして見ないと見えないと思いますが^^;)
ちなみに今のところ、輸入版のドラマ・バージョンのみDVD購入可能です。リー損は日本と同じですがPAL方式な点に要注意。PCでなら再生可能なそうです。併せてご参考まで。