『こうふく みどりの』 西加奈子 著 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

 

 

グラーグ57』で海外ミステリーを満喫したので、次は気分を

変えて。日本は大阪のとある町に暮らす女の子と家族の、

全編大阪弁で繰り広げられる物語。悲鳴をあげたくなるよう

な拷問シーンもありません(笑)。

 

中学生の緑の家の課長はおばあちゃん。おばあちゃんの

娘(緑の母親)と、その兄の子(緑の従兄妹)、その子供。

家族の女たちの名前は全部おばあちゃんが色の名前を

つけました。緑の母親は茜、死んだシゲ叔父さんの子供で

年の離れた緑の従兄妹は藍、まだ小さい愛の子供は桃。

おばあちゃんの旦那さん(おじいちゃん)は終戦後に「しゅっ

ぽん」、喧嘩っぱやかったシゲ叔父さんは飲み屋で隣の

席にいた客と喧嘩になってカッとなった相手に喉切られて

死亡、茜は妻子ある男性の子供(=緑)を産んで、藍ちゃん

はまだ離婚していないけれどDV夫から逃げて出戻ってきた。

 

ことごとく「男運がない」と言われる女系一族が住む家は、

野良あがりの二匹の猫と一頭の犬までみんなメス。

おばあちゃんに話を聞いてもらいたくて(ただ、聞くだけで

別に人生の蘊蓄を説いたりするわけではない)、近所の

女の人はいつも勝手に家に上がり込んで、藍ちゃんの

美味しい料理をがんがん摘みながら、話したいだけ話して

帰っていきます。

 

緑の一番の仲良しは、べっぴんさんでおませな明日香。

常に彼氏が途切れない、ちょっとはすっぱで男子からモテ

まくりだけれども女子の友達はあまりいない明日香。

二人の学校に転入してきた、やたらと背が高くて目つきの

するどい不愛想なコジマケン。ちょっとクセのある人達に

囲まれた緑の日常と、家族の女たちそれぞれの物語。

大阪の下町ってこんな感じなのかなぁ、と新鮮で楽しく

緑の生活にしばらく密着させてもらいました^^。

 

面白かったのが、緑の学校のブサイクで汚い暴力教師の

オッサンのあだ名(不潔とブサイクっていうのは、女子中

学生に間違いなく嫌われますよね^^;)が、「ガマガ」という

ところ。「ガマガエル」の「ガマガ」ですが、東京の学校だった

らきっと、「ガマ」だったと思う。マクドナルドが東京では「マック」

だけれど大阪では「マクド」のように、大阪の方が東京より

一文字分、多く進むのってアルアルなのかな~?^^

 

基本的に緑ちゃんの視点の一人称で書かれていますが、

文脈と関係なく、街や学校や家で目についた張り紙や

広告、ポスターなどの一文が突然挿入されます。最初は

んん?っと思ったのですが、自分も日常、誰かと話をしな

がらふと近くのポスターに目線がいったりするように、緑の

視線の動きの臨場感を添える効果があって、本当に緑の

目を通して、その風景を眺めているような仮想体験ができ

てますます親近感というか、愛着が湧いてきました。

 

緑の物語と交互して、別の大人の女性の独白のような章

も挿入されます。だんだん、その「語り」の主が一人ではく

複数の女性がいることがわかり、そしてどのエピソードが、

誰のものなのかが少しづつわかってきて、女たちの人生が

大きく繋がっていくダイナミックさもあり、最後に明かされる

秘密にはちょっとびっくりしますが、色々なことが納得でき、

そしてあくまでも、終わりはあったかい感じでよかったです。

緑の日常と人生は、これからもこの調子でto be continue。

西さんの作品では、『漁港の肉子ちゃん』に少し雰囲気

近いかもしれません。肉子ちゃんのポップさとはちょっと違い

ますが。

 

それにしても西さんの感受性豊かなことにはいつも感心し

ます。ポスターやらの文章が突然挿入される手法もそうですが、

西さんらしい、あったかくてやわらかくて優しい表現がいっぱい。

特に好きなのは、夕方の太陽についての描写。

「少しづつ姿を隠す代わりに、昼間そこいら中にあったたくさん
の音を、お土産に持って行ってしまう。音がどんどん減ってい
って、光もどんどん減っていって、それでうちらの心も、夜を
迎える準備をする」って、なんて情緒あるれる表現なんでしょ。
 

おばあちゃんが、茜、藍、緑、桃と名付けたときのその色

の説明も、ひとつひとつとびきり素敵ですので、是非本を読んで

その箇所を味わってほしいです^^。