沈黙 - サイレンス - | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。


2017年 アメリカ、イタリア、メキシコ
マーティン・スコセッシ 監督

遠藤周作さんの原作をおさらいした余韻の残るうちに早速観て
来ました!もう劇場公開始まった~と思うと、ウズウズしてしまって、
予定変更です(笑)。大まかなあらすじや物語の内容に関する
感想などは、先日Blogアップしたばかりですのでよろしければ
ソチラをご参照ください。

スコセッシ監督が、あの『沈黙』をこのタイミングで映画化!
どんな作品になるんだろう、という期待と同時に、一体誰があの
キチジローを演じるんだろう?と好奇心と一抹の不安があり
ました。演じ方も難しい役ですが、あまり若くて年を取りすぎて
ていてもいけない。卑屈で軽薄で卑怯で矮小でみすぼらしい、
”ヨゴレ”を体現できる役者・・・舞台じゃなくてスクリーンだから、
演技力だけじゃなく見た目も・・・となると、誰だろう?例えば浅野
忠信さんあたりだと、演技力はあっても体格が立派すぎそうだし、
佐藤浩市さんとかの世代だとちょっと年上すぎ、かといって
山田賢人さんあたりの世代だと若すぎるしだいたい皆スマートで
ハンサム過ぎるし・・・と勝手に悶々と悩んでいたら、窪塚洋介
さん。そうきたか~。完全ダークホースでした。そして、想像する
に・・・アリだな、うん。よく見つけたな、スコセッシ監督!(笑)


でもやっぱり、原作のキチジローよりはちょっと(見た目も振る舞い
も)格好良すぎた感は・・・もっともっと、どうしようもなく、だらしなく
薄汚くないとね・・・って、どんだけキチジローにとって酷い読み方
してるのか、自分(苦笑)。

他のキャスティングも、お見事としかいいようがありません。
フェレイラ神父がリーアム・ニーソン。アンドリュー・ガーフィールド
のロドリゴもまさにぴったりハマリ役だったし、相棒のガルペ(アダ
ム・ドライヴァー)もバランス良かったです。キチジロー役以外の
日本人キャストも抜群。浅野忠信さんはロドリゴの取り調べの
通辞役で、これもまたよかったですし、ロドリゴとガルペが最初
に出会うキリシタンの村のモキチ役の塚本晋也さんもよかったし
後にロドリゴが連行され拘置された牢で出会った、片目が潰れた
ジュアン役の加瀬亮さんも印象的。役人にたたっきられて転がっ
た生首もリアルで・・・若干後遺症に^^;。モニカ役の小松菜奈
ちゃんは、どんなに汚しメイクしてもどうしたって可愛すぎまし
た。可愛い子ちゃん偏差値高っ(笑)。井上筑後守のイッセー尾形
さんは小説からそのまま出てきたのかと思うほどでした。


やっぱり素晴らしい、リーアム・ニーソン。


甘いマスクでロマンチックな気質が覗くロドリゴと好対照の、
やや短期な情熱家だけれど生真面目でストイックなガルペ。
キャスティングのバランスもバッチリでした。


通辞役は当初、渡辺謙さんがキャスティングされていたけれども
スケジュールの兼ね合いで降板となったとか。結果的に浅野忠信
さんで全体のバランス的にもよかったのではないかと思います。

ハリウッド映画とは思えないほど、しっかりと「日本」が描かれて
いました。エキストラまではわかりませんが、セリフがある役は
名前が載らない小さな役でも全員ちゃんと日本人の役者さんが
採用されていたように思われました。未だに、ハリウッド映画では
どうにもおかしな日本人や日本の風景、風習が平気で描かれて
いるしカタコト日本語のChinese AmericanやKorean American
が演じていることが珍しくないし、いちいち目くじらたてることもない
けれどやはり一回はガッカリしちゃいます(-_-;)。

キャストやロケーションだけではありません。音響効果も素晴らしく、
実はそこに一番感動しました。山中の虫の声、鳥の声、沢を流れる
水の音、葉ずれの音、、、ちゃんと、日本の音なんです。目をつぶ
って耳を澄ませば、ちゃんと日本の夏の山の中の景色が広がって、
もちろん感じませんが映画の中に流れる太陽と空気すら、本物の
日本の温度と臭いを漂わせていそうです。

遠藤周一さんが小説を発表してから50年、スコセッシ監督が
初めて小説を読んでから28年。長年ずっと構想を温めてきて心血
注いだ作品だけあって、本当に丁寧に、原作の世界感を映像化
していて、ただただ圧倒。3時間近く長尺ですが最後まで引き込まれ、
映画に没頭するあまり観おわった後は、日頃の鬱陶しい些末事
などがすっかり取り払われて頭の中がいい意味で空っぽになって
いました。ストレス疲労がたまっている時に運動など体を動かして
スッキリさせるのと、似たような効果を発見致しました。

ラスト部分、小説では役人の覚書という資料形式でその後の
宣教師たちの人生を推し量らせる演出ですが、映画では唯一
貿易を許されたオランダの貿易商の回想という視点で描かれて
いて、そのエピローグもよかったです。映画ならではの視覚的
な演出も上手に活かして、原作の解釈をより解かりやすく示され
ていました。

イエス・キリストの時代は、民たちの代わりに自身が十字架を
背負って処刑されることが、信仰であり殉教でした。体制に逆らって
処刑されたといってその当時はそれを英雄と評されることはなく、
(社会全体からは)うら捨てられる存在だったのが、信者たちに
語り継がれ世紀を重ねるうちに、信仰の為に死ぬことが美しく
貴いことだと評され一種憧れの対象となりました。ロドリゴたちが
生きた時代の日本では、信者の為に自分が死ぬことではなく、
逆に、彼らの代わりに自身が棄教し生き残ることが十字架だった
んですよね。

「我々の正義はどの世界でも必ず正義である」と純粋に信じ理想
を追い求めていた彼らが、深い泥沼のように、何者もその根を腐
らせ自分たちの風習や文化に少しづつ変態させていく怪物のよう
な日本という未知の性質に出会い、挫折し、教会の正義を超越し
たところで、本当の信仰とは、神と共にある生き方とは、ということ
を見出していく過程を描いた物語、と言えるかもしれません。
その他、観る人によって様々なことを、宗教とか関係なく、感じさせ
る映画だろうと思います。

最後に。この映画で私が一番、素晴らしいと感じた箇所は、オープ
ニングとエンディングです。音響効果が素晴らしい、との上述に
カブりますが・・・真っ黒な何も映し出さないスクリーン。そして徐々に
微かな虫の声が聞こえ始め、草が風に揺れる音、何か小さな動物
が動く気配、などの夜の山林の音がだんだん増幅されていき、
白抜きのタイトルバックが浮かび上がる・・・。(エンディングは、
クレジットが流れると共に、水音が強くなり、海の波の音へと変化
していきます)すごく静寂で、厳かで、美しいオープニング/エンディ
ングでした。スコセッシ監督、やっぱすごいな。
DVDも欲しくなりますが、ぜひ、一度は大きなスクリーンでご鑑賞
ください。