初恋のきた道 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

 

1999年 アメリカ、中国

チャン・イーモウ 監督

原題:  我的父親母親/The Road Home

 

私の初めてのチャン・イーモウ監督作品、チャン・ツィイー

のデビュー作品で、映画の内容の素晴らしさとまだ若かった

チャン・ツィイーの可愛らしさに感動した忘れられない作品。

 

スマホである映画の上映時間を調べようとしてサイトに

アクセスした際に、うっかり別の映画館を選択してしまった

のですが、そのお陰で『初恋のきた道』が1日1回、10時~

上映されていることを知りました。こっこれは!観たい。

でも週末は基本朝寝坊の私が朝早くから日本橋・・・(とい

うほど早い時間ではありませんけれど;)一瞬悩みまし

たが、いや行けない時間ではない!(当たり前)よし、行け、

行くんだ、こむらがえりを超えて・・・!と自分でも呆れる

ほどに大げさな覚悟でチケット購入(苦笑)。

 

なにせ、一番最初にこの映画を見たのは、レンタルDVDの

新作コーナーに並んだ時で当時は実家の自室の小さめ

な(15インチだったかな)ブラウン管テレビで鑑賞でしたので。

その後、32インチ液晶テレビに少しレベルアップしましたが、

スクリーンで観られるチャンスは大変魅力的でした。

やっぱりよかったです~。大画面いっぱいに広がる、中国

山間部の大自然と、あどけないチャン・ツィイーのはにかんだ

笑顔。やはりこの頃の彼女はソウゼツ可愛い。あるブロガー

さんの言葉をお借りすれば、神憑り的に可愛い。この映画の

あとあっという間にスターダムを駆け上がってよくいがちな

普通のハリウッドセレブ美女になっちゃいましたけれどもねー。

 

山いっぱいの黄葉の黄色とチャン・ツィイーの黒髪、赤とピンクの

洋服のカラーリングがとにかく印象に残ってますね。

季節が秋になり冬になりの変化に伴い背景の自然も、雪の白と

灰色になったり、緑に覆われたりしますが、ヒロインの心情とも

リンクします。

 

物語は、小さな農村の教師を長年務めてきたルオ・チャンユー

(チョン・ハオ)が古くなった校舎の建替えの陳情をし街へ出かけた

先で心臓発作のため急逝し、訃報を聞いた息子のユーシェン

(スン・ホンレイ)が急いで帰省するところから始まります。

「もうお父さんに会えないんだよ・・・」と母親は泣き崩れます。

久しぶりに実家に戻ったユーシェンは、父母の新婚当時の写真

に目にとめて、両親の思い出を辿ります。息子の語りによる、

若き日の父母、ルオ・チャンユーとディ(チャン・ツィイー)の出会い

の色鮮やかなカラーの物語と、旅先で亡くなった夫を、昔ながら

の習わし通りに弔うため老体に鞭打って棺にかける布を織り、

街から家まで棺を担いで持ち帰ると主張する、もはやディにとって

輝きも色彩も失ったモノクロの”現在”の物語が交錯していきます。

 

二人が出会った時、ディは18歳、ルオは20歳。ディは盲目の母親

と二人暮らし。村一番の美人に成長しましたが、どんな縁談も断り

続けていました。そんなある日、ディが住む山間の貧しい小さな村

に初めて学校が作られることになり、大学を卒業した若いルオ先生

が街から派遣されてきました。村中が大喜びでちょっとしたフィー

バーが巻き起こりディも皆と一緒に、馬車に乗ってやってくる先生

を見に出かけて、一目惚れしてしまいます。一方ルオ先生の方も、

自分を出迎えに集まった大勢の村人の中に可愛い女の子の姿を

しっかり見つけており、あれは誰だろうと気になったようです。

 

当時は自由恋愛なんてほとんどなかった時代、ましてやディの

住む田舎の村では前例のないこと。先生のことが気になっても

気軽に話しかけるきっかけもなく、モジモジと遠くからただ先生の

姿をひっそり眺めるばかりの日々のディ。先生が授業で朗読する

声を聞くために、もしかしたら先生の姿が見えるかもしれないし

と毎日の水くみを、わざわざ遠い学校の側の井戸に通ったり、

先生が家が遠い生徒たちを送り届けると聞くと、下校する彼ら

が山道を通るのを少し離れたところで毎日待ち伏せしたり。

 

毎日待ち伏せしてるのに、やっと彼らがきても離れた場所で

見るのがせいいっぱい。何日も何日も何日も遠くから見送って、

やっと”たまたま用があってこの道を通っているところです”と

いうフリをしてただ道ですれ違うまでにもすごく時間がかかります。

 

やっとこの距離で近づくまでにどれだけの時間が・・・(苦笑)。

 

奥ゆかしすぎてじれったくてもどかしいくらいですが、その割に

通りすがりにハンカチを落とす的なド定番・・・でも、ハンカチは

ともかくこんな籠を道のど真ん中にうっかり忘れるかーいっ。

とか、ディが井戸にいるのを見かけると慌てて、わざとらしく

自分も水くみに行こうとするルオ先生、それを見てもう帰るところ

だったディはせっかくくみ上げた水を井戸に戻して時間稼ぎ、

ドキドキウキウキしていたら、無粋な村民が「先生、水くみなら

おいらが!」としゃしゃりでてきて台無しに。などのド定番が

なんとも微笑ましい。そんなに奥手なくせに、ルオ先生がきのこ

餃子が好物、と言った瞬間に「午後つくるから食べに来て!」と

いきなり積極的だったり。とにかく不器用でひたむきなディちゃん。

 

田舎の村娘にすぎないディと、街で高等教育を受けたインテリ

階層のルオ先生とは別世界の人間、報われることのない恋だと

ディの母は娘を心配し警告しますが、若いディは耳を貸しません。

さらに、ディの村ではほとんど実感のない遠い噂話のような文化

大革命の騒乱に、ルオ先生が巻き込まれて街へ呼び戻されて

二人は引き裂かれてしまいます。若いまっすぐな想いは突っ走る

ばかりで色々と無茶をしてしまいます。それでも色々な障害を

払いのけ、想いを貫き続ける二人は村始まって以来の大恋愛

事件として後々までの語り草の伝説となります。

 

ディのひた向きな想い、ルオ先生の思い、ディを想う母親の思い、

二人を応援する村民たちの想い、時が経っても父への想いは

変わらず40年側に寄り添い続けた母を想う息子の気遣い、ルオ

先生のかつての教え子たちの想い、、、全ての人たちの、それぞれ

の想いが本当に暖かくて、ひとつひとつかけがえのない宝物が

集まったような映画です。特に、ディのお母さんの、娘への想いは

格別です。そら、泣きます。泣かないわけがありません。

そして思い出しました。自宅での映画鑑賞のよい点のひとつは、

人目を憚らず存分に大爆笑したり、ぎゃあっとビックリしたり、

わんわん泣いたりが気兼ねなくできるということだった、と・・・。

一生懸命グっと堪えて、ハンカチで目元を何度も拭う程度になんとか

押さえました^^;。最初っから最後まで危険ゾーンだらけです。

 

ちなみに、息子が語る両親のエピソードの数々をベースに再現

される若い二人の恋愛物語は、基本ディ側の視点で映し出される

のですが、ちょいちょい、結構な割合で父が息子に語って聞かせた

相当なノロケ話が挿入されてきて、ディちゃんばかりが初恋まっし

ぐらかと思えば、そっちも大分メロメロやな!と微笑ましいツッコミ

を何度も入れたくなりました。もう、羨ましすぎ。そんな相手と

巡り合ってずっと寄り添い続けたディとルオ先生も、そんな両親を

もった息子のユーシェンも^^。心が洗われるってこういうことなの

かなーとしみじみ感じる、何度観ても色あせない感動の名作です。

観終わった側から、すでにまた、もう一度観たくなっています。