少し前、「ゲーム脳」は怖い

という話題がありました



ゲームをすると

 無気力になる

 暴力的になる

 コミュニケーションがとれなくなる

 集中力がなくなる

 前頭前野の機能が低下する

と言われたりもしましたが、

それらを立証する

科学的な根拠はほとんどありません




そもそも前頭葉は

新しいことをするときに活動し

何度もやって慣れた作業をするときは

あまり活動しないので

ゲームを繰返しやって

反射的な作業になると

前頭葉の活動が見られなくて当たり前

という見方が大勢だと思います



Matsuda G & Hiraki K (2006)
"Sustained decrease in oxygenated hemoglobin during video games in the dorsal prefrontal cortex: A NIRS study of children."
Neuroimage 29: 706-711.






「脳トレ」など

テレビゲームで認知能力を

訓練しようという試みもありますが、

2010年の Nature では

11,430人の被験者を使った調査で

テレビゲームで脳の機能は向上しない

という論文まで出ています



Owen AM, et al. (2010)
"Putting brain training to the test"
Nature 465: 775-778.






形勢不利な、脳トレ。。




ところが、

ここにきて形勢逆転の結果が

同じく Nature で報告されました



Anguera JA, et al. (2013)
"Video game training enhances cognitive control in older adults"
Nature 501: 97-101.




$プラスサイエンス ~ 科学が気になるあなたのために-NeuroRacer

Nature の表紙



Natureの表紙まで飾っています




高齢者ほど認知能力が落ちてきますが

その指標として

複数のことを同時に行なう

多重課題が難しくなることが

知られています



これは、推論や作業記憶といった

他の認知能力の傾向と同じです




今回の論文では、

174名の被験者を、20代から70代の

6つのグループに分けて、

多重課題として

同時に2つの課題に注意しながら

進める課題を使って

テレビゲームの認知能力向上に

対する有効性を調べたのです



実験に使ったテレビゲームは

この実験のために作ったゲームで

NeuroRacer といいます



基本的には、

車でドライブをするゲームで

曲がりくねった道の真ん中を

ちゃんと走らないといけません



そして、

その途中でいろいろな色の丸が

サインとして表示されて、それが

緑色のときだけすぐにボタンを押す

という課題です




多重課題での難しさをコストとして

ドライブとサインの多重課題と

サインだけの単独課題の

成績の差を算出します



実験の結果、

被験者の年代を横軸に

コストを縦軸にしてグラフを書くと、

コストは年を取るごとに

坂道を転がるように下がりました



つまり、

20代を超えると

複数課題の同時処理能力が

次第に難しくなっていくことが

確認されました





次に訓練の効果を調べています



60歳から85歳の46人を

 多重課題(ドライブとサイン)

 単独課題(ドライブかサイン)

 特に何もしない

の3つのグループに分け、


1ヶ月間で、

1日1時間を、週に3回

計12時間、訓練します



訓練後の評価は

訓練後1ヶ月と、訓練後6ヶ月




実験の結果、

多重課題訓練者も

単独課題訓練者も

反応時間が短くなり

技術的な進歩はみられました


しかし、

多重課題の負担、つまりコストが

減ったのは多重課題を訓練した

被験者たちだけでした



そして、

多重課題訓練者の成績向上は

6ヶ月後も維持されていたのです



しかも、そのレベルは

20代と同程度だったとのこと



これらの認知能力の向上が

このテレビゲームだけのものなのか、

それとも、

他の一般的な認知能力にも

影響しているかを調べると



多重課題訓練者だけ

他の課題でも成績の向上が

みられたそうです



単に処理速度が速くなったのではなく

作業記憶と持続的注意が向上した結果

と考えられます



また、

訓練後の被験者が多重課題を

している間に

前頭葉正中部の脳波を調べたら

シータ波(4-7Hz)が

強くなっていたとのこと



前頭葉正中部は

作業記憶や持続的注意などに

関わる領域です




これまで、テレビゲームをして

認知能力が高くなったというのは

訓練したゲームの成績だけで

他のゲームなどでは通用しないことが

ほとんどでした




今回の結果から

テレビゲームによる認知能力向上には

多重課題が鍵なようです



そう遠くないうちに

認知能力向上を目的として

多重課題の発想をベースにした

テレビゲームが開発されるでしょう



(おしまい)






文:生塩研一




お読みいただきまして、ありがとうございました。
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