アワーミュージック(2004年 80分)

監督:ジャン=リュック・ゴダール

出演:サラ・アドラー、ナード・デュー、ジャン=リュック・ゴダール

 

高校1年くらいの頃、初めてゴダールの気狂いピエロに触れて、意味不明だったんだけどなんだかずっと忘れられずにいた。一年後、ゴダールを再び見返してみるとなんだこれ映像がめちゃくちゃ先鋭的でかっこいいぞ色彩も美しい台詞も自己矛盾を孕んだ詩のようだ、とどっぷりハマってしまってから手当たり次第に見てる時期があった。

 

アワーミュージックもその時に見ていたはずなんだけど、内容すっかり忘れていたということで、改めて見た。

 

 

見た記憶を忘れるほどだから、当時の印象は全くないんだけど、今回改めて見てみて今まで見たゴダールの中でもテーマみたいなものはトップクラスにわかりやすい。

ゴダールが戦争を一つの大きなテーマとして物語は進んでいくんだけど、その他にも、個人と国家、生まれてくる場所と向かうべき場所などについてもこの映画では語られている。

 

三部構成でこの映画は展開していく。

 

第一部は地獄編では、ドキュメンタリーの手法で延々と戦争風景がやたら彩度の高い映像で第三者の目線で淡々とコラージュされていく。

 

第二部煉獄編では女学生をカメラが追っていく。

いつものことなんだけど、もう画面が綺麗すぎて話を追わなくても面白い。個人的に、ゴダールの評価方法として、ストーリーがどうこうと言うのではなく、自分の好きなシーンや演出、台詞がいくつあるかで決めてもいいと思うんだ。

登場人物全員が、やけに観念的で象徴的で寓話的、それでいて普遍的なことを話す。今回でもどこからか引用された詩みたいなものが反復して使われている。

ぶっちゃけ、こんだけ実生活とは乖離した思想や道義みたいなことを登場人物全員が目まぐるしく話すと、下手な学生が撮影した自主製作映画みたいになってしまうんだけどゴダールの映画ではそうなっていない。単純に映像美的なところでそれを補っているのか、適度なカット割りで補っているのかとにかく常に画面に惹きつけられる。今回は全体の時間が80分しかないのもその要因ではあると思う。

 

逆光がかっこいい演出の映画を初めて見た。前見たときは全く印象に残っていなかったけど、この映画くらいじゃないか。逆光なのにかっこいいの。

この第二部ではゴダール自身の映画論みたいなものについて語る箇所もあったりしておもしろい。自分の映画の中で映画論を語るなんて度胸あるなこの人なんて思いながら見ていた。

 

それと、音楽の使い方。ゴダールの映画の音楽の使い方ってミュージカルに共通している部分も多分にあるような気がする。いつも見終わった後なんだかミュージカルみたいだったなって思ってしまう。編集テンポとかが気持ちいいからなのかなんてこと思ったりしてた。

 

続く第三部は天国編で、もうここからはお得意の映像美が幅利かしてくる。もう最高に美しい。天国は水辺の近くなんだね。

常にステディーカムで移動しながら撮影されていてより空間的にこの天国を堪能できる。

 

死体で満ちた第一部、理屈で満ちた第二部、美しさで満ちた第三部。

 

今まで見たゴダールの中で、一番体感時間が短かったような気がする。(実際上映時間も短いけど)戦争や死生観を取り扱っているので、難解になりそうなイメージはあったけど、必要最低限の台詞と映像美、そして果ては映画論みたいなところに帰着するので堅苦しくなかった。

 

ドキュメンタリーとフィクションの境目は曖昧でそれをクロスオーバーさせても面白いものはできるんだと思えた映画だった。ゴダールの中でも結構好きな一作になった。

 

あと、まったく関係ないけど、相対性理論+渋谷慶一郎名義でリリースしたアワーミュージック、この映画のタイトルが元ネタなのかな。曲がめちゃくちゃかっこいい。やくしまるえつこソロ曲っぽいけど、相対性理論の中でもかなり好きな一曲だ。なんてどうでもいいことを思い出した。相対性理論について語り始めると止まらなくなるのでこの辺でやめときます。

 


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