スノーピアサー(2013年 125分)

監督:ポン・ジュノ

出演:クリス・エヴァンス、ソン・ガンホ、ティルダ・スウィントン、ジョン・ハート、エド・ハリス

 

現段階でのほえる犬は噛まない母なる証明で知られるポン・ジュノ映画で最新作ということで、スノーピアサー見た。

これで、2週間前くらいから見始めた、ポン・ジュノ映画を制覇した。

 

 

今作は今までとは異色作であり、グエムルを超えた、ポン・ジュノ印のSFとなっている。

制作にオールド・ボーイや復習三部作のパク・チャヌクがクレジットされている。

 

2013年に人類は地球温暖化の脱却を図るため、大気圏から凍結剤をばらまいたところ、極寒の時代が到来し、選ばれた人間が列車の中で生活を余儀なくされる。列車内では階級によって住居空間が決められており、最下層の人たちが最上位の人たちを打倒しようとする話。

 

まず、この映画、開始2分で地球上の生物が全て絶滅する。そこに腹抱えて笑った。多分この映画で一番笑ったと思う。

 

ディストピアものに分類できると思うんだけど、今までの過去作の手触りとは全く違って、コメディ要素が少なめ。その代わりに、物語前半から中盤にかけては、テリー・ギリアムの未来世紀ブラジルやゼロの未来を思い起こさせるような、アイロニカルでブラックな笑いみたいなものに転化している。

途中で登場する列車内での教育シーンはガキの使いみたいで笑った。パロディのパロディみたいになってる。

 

列車内での拷問シーンも新鮮でよかった。腕輪を付けられて、穴から車外に手を出させるというもの。列車内での活劇ということで、今までには見たこと無いタイプのアイデアがたくさん登場していて、他にも、列車のカーブに差し掛かる際の銃撃戦だとかは初めて見た。

 

こういう世界観重視の映画大好きなんだよな。さっきも言った未来世紀ブラジルだとか、キアヌリーブスの悪魔祓いのコンスタンティンだったり、物語では描かれない余白みたいなものを考えたりするのも楽しい。

列車の中に庭園だとか水族館だとか謎の寿司屋だとかが登場したりして、次の扉を開けたらどうなるんだろうと思えるような推進力にもつながっている。

橋を渡るたびに一年が経過したことを知るだとかそういう細かい設定も大好きだった。

物語が進んでいくに連れて、主人公がこの世界の根幹に関わる真理を知ったり、大きな選択を迫られるのはマトリックスなんかを思い出したりした。こういうマトリックス的話も詰まったりなんかしていて、僕自身の好きなSFの要素がたくさん詰まっていて最高だった。

 

役者陣が結構豪華で、殺人の追憶、グエムルなどで登場したソン・ガンホはもちろんのこと、クリス・エヴァンス、ティルダ・スウィントン、中には結構なキーマンとしての役割でジョン・ハートも出演している。中でもティルダ・スウィントンとジョン・ハートはおいしい役やってた。

ティルダ・スウィントンは今までには見た事無いようなタイプ(この人あんまり年齢や性別が曖昧で多義的な役多い気がするけど今回は真逆)の女性支配者を演じている。ジム・ジャームッシュのオンリーラヴァーズレフトアライブとはまるで対照的でもう最高。前歯取るシーンとかどうやって撮影したんだろう。

ジョン・ハートは相変わらずの名優ぶりを発揮していて、近年の映画では最高峰にかっこいいジジイを演じていた。小汚いジジイのはずなのになんだか最高にかっこ良く見える。眼鏡を外すのがやたらかっこいい。

 

それにしても往々のハリウッドスターに引けを取らないソン・ガンホすごいな。過去作の殺人の追憶だとかグエムルとは全く違う、擦れ切ったダンディでヤク中のおっさんとして登場するんだけど、やたらクールで艶っぽくすらある。初登場シーンで主演を食う感じなんかも過去作とは違ったベクトルで最高だ。

 

今作でも寓話的側面から映しだされる階級制度批判なんか過去作から通底する風刺的な暗示みたいなものも込められているけれど、今までよりは少なめ。ハリウッド第一作ということもあってかポン・ジュノ映画の中でも一番大味だったと思う。(その点グエムルは大味になるかと思いきや、社会批判だったり、コメディ要素もふんだんに盛り込まれていてマジですごい)

そういえばグエムルのヒョンソ役の女の子がまたソン・ガンホの娘役で登場していてニヤニヤした。

 

何気に、オクタヴィア・スペンサー演じるターニャの死に際の演技すごい。最近見た映画の中でも一番リアルな死だ。表情の固まり方が職人芸だ。本当に死んだんじゃないかって思えるくらい。

 

とまあこんな感じで大味なハリウッド的映画でありながら、B級映画のようなカルト感を残しつつ(それとツッコミ具合も)相変わらず変な映画であったことは間違いない。

こういう奇妙なバランスで世界観没入型の映画が大好きな自分としては大いに満足できる映画だった。

 

2018年にポン・ジュノ脚本監督で新作が公開するらしい。楽しみだ。

 

B+