④
さらりと口にされたその言葉。
―やり直したいんだ―
先輩が先に別れたがったくせに、とか
彼女と別れたからって私の方に来ないで、とか
言いたいことは山ほどあった。
でも何も出てこなかった。
ただ、お腹の中でぐるぐると渦巻いていた。
馬鹿みたいに呆然として先輩を見つめ返すことしかできなかった。
なんとなく、そんなことじゃないかと思ってはいたけれど。
いざ目の前で言われるとどうしていいかわからない。
好きだった人。
もう過去の人だけれど、今も嫌いなわけじゃない。
まっすぐ見つめられて、動揺しないわけがない。
それがもっと悪意に満ちた目だったら。
私を弄ぼうとするような目だったら。
すぐに突っぱねてしまえる。
けれど先輩の瞳は澄んでいて、だから私は一歩も動けなくなってしまう。
それでも。
私にはもう、他の人がいる。
恋人でも友達でもない人。
―そんな奴より俺を選んだ方が良いよ。
―大切にするから。
私は首を振り、そのまま背を向けた。
片思いか両思いかなんてどうだっていいのだ。
この胸にある気持ちだけで私は十分幸せなのだから。
帰りに買った小さなお菓子の詰め合わせ。
藤山君へのお礼。
色々迷ったけれど、ずっと残るものより、なくなってしまう食べ物の方が良いと思ったのだ。
贈り物は、あげた人より貰った人の心に強く残る。
そして、風邪をひいた私。
渡せないまま机の上にあるそれ。
明日こそは、とベッドの中で意気込みつつ、賞味期限が心配だった。