正月のときから3月の上旬までの間に、ブルガリアの街を歩くと、怖い仮面を被っている獣のような姿を見かけることがありますが、それはブルガリアのクケリというものです。
毎春、冬の寒さや悪霊を追い出し、春の暖かさを迎えるために準備する習慣があります。国のところどころの町や村では「クケリ」という、怖い仮面を被っている男性の集団が道を歩いたり、広場で踊ったりします。このようにすることで、悪霊を追い出したり、これから迎える一年の幸せや健康を祈ったりします。実は、「クケリ」は日本の節分や秋田県のなまはげの習慣と数多くの類似点があります。節分となまはげも悪霊を追い出し、春を迎える習慣で、特になまはげには怖い仮面を被る伝統があるという点でクケリと非常によく似ています。
クケリの言葉の由来は不明ですが、サンスクリット語では「ククラ」という単語が「犬・動物」という意味を持っているそうです。「クケリ」も犬・動物・獣に扮装するので、サンスクリット語に由来しているのではないかと推測されます。仮面は衣服の一番大事な要素なので、一年を通して作られています。普通、木で作った仮面には色とりどりの飾りが付けられます。例えば、ヤギなどの皮・カラフルな糸・キラキラしたビーズ・鏡の破片なども使用されます。古くて、伝統的な仮面は牡羊・犬・牡牛などに似ています。ある仮面には二つの顔があり、ひとつは優しくて・愉快な顔で、もう一つは怖くて、醜い顔です。これは世の中の善悪の対称を表しています。仮面の色にも意味があり、黒は土・復活する自然・火の意味を持ち、白は水・明るさの意味を持っています。仮面以外の衣装も面白くて、カラフルです。衣装の特徴はベルトです。特に、ベルトのベルが非常に印象的です。ベルの大きな音が悪霊を追い出す役割を果たします。鈴の大きさはいろいろあり、一番大きいものは3キロにもなります。ベルトにはベルが多ければ多いほどいいので、衣装の総重量は60キロにもなる場合もあるらしいです。
この面白い習慣は大昔、トラキア人の時代からブルガリアの地域にあったと言われています。そのときは、ディオニソスという葡萄・ワインの神の祭りで、それは冬を見送り、春を迎える祭りでした。実は今日、ルーマニア・セルビア・マケドニア・ギリシャ・イタリアやポーランドにも似ている習慣が同じくトラキア人の時代から昔のままに残っています。
少し意味は離れますが、西洋のカーニバルの仮装的な感じでしょうか？あと、見た感じは、スター・ウォーズのイウォークか、チューバッカです。（笑）もう一つは、ブルガリアでは「タングラ」という、日本の「神道」に近い概念で森羅万象のものに神がいると信じられていた自然崇拝による民俗信仰があり、クケリのお祭りの起源はタングラという民俗信仰の祭事で神聖なものだったそうだというのもあります。
クケリの団体のリーダーは年長者で、また既婚者でなければなりませんが、それ以外は必ず独身でなければなりません。団体のメンバーはさまざまな役割、例えば、王様の役・老婆の役・嫁の役・婿の役などを果たします。衣服や仮面は羊・ヤギ・シカの皮で作られます。仮面を被っていないメンバーは顔に真っ黒の化粧をします。皆が大きなベルのベルトをつけ、踊るとき、悪霊を追い出すために大騒ぎします。広場に集まる前にクケリが家を訪れ、各家の悪霊を追い出し、家族の健康を祈ります。それから、広場でにぎやかに踊ったり、ときどき愉快に王様が団体に殺され、復活する荒事もしたりします。ある地域では「種をまくシーン」も見られます。王様が種をまいたり耕したりする真似をし、豊作を祈ります。昔はブルガリアの全国でクケリが見られましたが、今現在は限られた町や村でしか見られません。ラズログ、シロカ・ルカ、ドゥプニツァ、スリボビク村、ドゥルガン村などでフェスティバルとして今も残っています。伝統が保存されていて一番有名な町はソフィアの近くにあるペルニクです。毎年、1月の下旬に、ペルニクでは「スルヴァ」というフェスティバルが行われ、そこにブルガリアの各地、そして、世界中の多くの国からの伝統芸能団体が参加します。ヨーロッパ・アジア・アフリカ、60国から約5000人が集まり、三日間パレードをしたり、踊ったりします。フェスティバルの最後の日に一番衣装がよい団体を決めるコンテストも行われます。この大きなフェスティバルのおかげで2009年にペルニクは「ヨーロッパのフェスティバルの首都」と名づけられました。
今年は、ペルニクでは、２０１４年１月２４日（金）－２６日（日）クケリ祭り開催予定だそうです。