ひと月まえの読書会 その2 | pinoの読書日記

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『黄泉の河にて』には10の短編が収録されているのですが、読書会でとりわけ人気を集めたのは「流れ人」と「アギラの狼」でした。


「流れ人」は追われる者の焦燥感、畳みかけるような迫力ある描写が読みどころ。

人間もまた動物であるということを、この短編でわたしとしては強く感じました。

だからいいんだとか悪いんだとかそういうことではなく、自然のなかの一部にすぎないんだなと。


「アギラの狼」も死に向かっていく描写の美しさで、ほとんどの方が惹きつけられた一編でした。

人種間のうめられない溝も描かれているのではないかというご意見も。


わたしは表題作の「黄泉の河にて」にも強く心を動かされました。

夫婦の関係がちょっとした変化で揺らいでいく。

男のつまらないプライドがどんどん状況を悪化させていく。

そこに人種問題や地方と中央の格差問題がからみ、さらには善意から生じた行動が、危ういバランスで保っていた平和を壊していく。

善は悪にもなりうるという皮肉な切り口が鮮やかでした。


短編集全体としては、ひと言でいえば、死を色濃く感じさせられました。

けれど、ただ暗いとかそういうわけじゃなく、人生の本質や、善悪、男女の関係を見つめ直すきっかけになるような作品だなと。


というわけで、シリアスな作品を扱ったものの、読書会は終始とてもなごやかな雰囲気で進行しました。

集英社の編集者のかたも来てくださって、東江さんと仕事をご一緒された当時の話など聞かせてくださいました。

そう、その流れで出た話ですが、東江さんは20年以上まえにこの『黄泉の河にて』を訳しはじめていたようですよ。お蔵入りにならず、出版されることになって本当によかったです。

それからもうひとつ。じつは9月6日は東江一紀さんが御存命なら63歳になるお誕生日でした。二次会では「先生、お誕生日おめでとうございます」と一同グラスを合わせました。


西東京読書会のスピンオフ企画、今月も開催します。

近いうちにそちらもご案内しますので、よろしくお願いいたします(*^▽^*)