押入れのちよ (新潮文庫)/新潮社
¥620
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そろそろ真面目に婚活しないとやばい。
そんな管理人です。
 
一昨日は節分でしたね。食べましたか?豆。
かぶりつきましたか?恵方巻き。
思うんですけど、もし自分が神様で、
「誰か幸福にしてあげたいな~(*´∀`*)」って
対象を探している時に
こちらに向いて下々の民が恵方巻きほおばってたら
真面目に祈れや!と怒る気がします。
 
さて、本日の本は荻原浩さん『押し入れのちよ』です。
荻原さんを知らない人でも、この本は知ってる!
という人は多いんじゃないでしょうか。
文庫がよくフィーチャーされて平積みになってますよね。
荻原さんは『噂』を読んだときに
「読みやすいけど最後のオチがあんまりだったなー」と
それから敬遠してたんですが、
本作はいい!
 
切れ味が段違いにいい!
平凡な怪異譚に、現代的なトリックが凝らされて
大満足の短編集に仕上がっています。
 
怪異や幽霊の類の話はどうも苦手なんですが
たまーにある心温まる物語は大好きなんですよ。
そういう作品を「ジェントルゴーストストーリー」というそうです。
今まで漠然と好きだったジャンルに
そういう名前があると知ったのは大きな収穫でした。
このジャンルのほかの作品が解説で紹介されているので
気になる方はぜひ手にとってみてください。
 
以下一言ネタバレ感想
 
①お母さまのロシアのスープ
 
場所は満州、時は第二次大戦後。
ターニャとソーニャという双子は、母親と三人で
隠れるようにして暮らしている。
二人は体が弱いから、外に一歩の出ることは許されず、
たまにくる商人の顔を見ることすら禁じられている。
 
どこに秘密や恐怖があるのかわからないまま手探りで話が進むんですが、
母親の秘密→双子の異形→兵士の殺害→スープの肉
この一連の畳み掛けが見事だなぁと思いました。
 
②コール
 
これはほろ苦いジェントルゴーストストーリー。
男2女1の友情なんて、儚いもの。
しかし、ひとりの男が欠けることで運命はまた流れ出して……。
 
何の違和感もない一人称形式のお話かと思いきや、
途中「ん?」となって「え!」となる、
しかもそのトリックが本編の雰囲気にとてもマッチしていて
これもよく練られているなぁと感動しました。
 
③押し入れのちよ
 
表題作。主人公がかわいそうなくらい哀れw
仕事も恋人も失った主人公は
曰くつきの格安物件に転がり込む。
そこは怨霊が住み着いた幽霊アパートだった。
 
出てくる幽霊のちよはちょっと偉そうな明治の幽霊。
カルピスを飲んだり、
コンビニのおにぎりを袋のまま食べたり、とにかく可愛い。
萌えです。萌え(*°∀°)=3
 
しかしてその正体はからゆきさん。
怒ることすら思い至らないまま小さな魂になってしまった
少女なのでした。
これも最後にちょっとした仕掛けがあって、
いい感じに肩の力が抜けていいですね。
 
④老猫
 
不快な猫の描写が生々しい。
それから徐々に忍び寄る家族の不和も。
真綿で首を絞められるように追い詰められていく旦那さん。
だんだんと自分がおかしいのか……?と不安になってくる。
知らないうちに自分の考えが変えられているって、
実はとても恐ろしいことですよね。
 
⑤殺意のレシピ
 
筒井康隆さんの芳しい香りがするwww
水面下で交差する滑稽な夫婦の攻防。
奥さんは山登りで毒のある草を、
旦那さんは海釣りで毒のある海藻を、
それぞれ料理して相手に食べさせようとするのですが……。
たったこれだけのことをスリリングに引っ張っていくのは
作者さんの手腕だな~と思います。
ほほほほ、うひひひ。
 
⑥介護の鬼
 
介護というのは、本当に大変なものに感じます。
友人の祖母がこのおじいちゃんみたいにボケてしまっているのですが、
毎日毎日糞尿の世話。でも相手は人間だからそれを尊重しないといけない。
正直、この女の人の気持ちもわからいではない。
 
でもこんな行動に実際に出るのはやっぱり人として
思いとどまらなければならないし。
正気に戻ったおじいちゃんも、
何も言わずに暴力に訴えるのはよくない。
なんだかもやっとした作品でした。
 
⑦予期せぬ訪問者
 
もし人を殺したら。
多分管理人はちゃんと後始末なんてできない気がします。
血のついた凶器は、自分のアリバイの確保は、
死体の隠蔽方法は、考えることが多すぎます。
そこに予期せぬ訪問者が来てしまったらちゃんと対応できるのか……。
 
「やりすごしたー!」という後暗い達成感のあとに
待っていたのはもはや回避しようのない訪問者でした。
 
⑧木下闇
 
神隠しの怪異と現実の殺人事件がリンクしたお話。
田舎の閉鎖的な、都会を拒むような雰囲気がいいですね。
展開としてはよくあると思うのですが、
そこに至る雰囲気作りと、発覚のドラマチックな演出、
綺麗な収束と上手に見せるな~と思います。
 
⑨しんちゃんの自転車
 
ママとして毎日を生きる女性が、
幼い頃に体験した不思議な話。
実は死んでましたパターンなんだけども、
くすっとくるユーモアが散りばめてあるので飽きません。
誰でも小さい時の、人には言えない秘密ってひとつやふたつありますよね。