午前3時
テーマ:ポエムどうせなら鼓膜が壊れそうなくらいの音で聴きたいから
外で荒れ狂う風や雨の事は知らない
大して会話もしないのにチャットの相手は切りたくない
繋がっただけでお互いに少しだけホッとしている
午前3時
泣きそうな夜なのに
独り
どうしようもなく真っ暗な心は誰も知ることは無い
でも
また明日が来たら笑顔で
なんとなく日々が過ぎていくんだ
つまらないものをたくさん背負って
欲張りだからたくさん背負って
いつかゆっくり休める時
なんて馬鹿なんだろうって思うのかな?
どうせなら鼓膜が壊れそうなくらいの音で聴きたいから
外で荒れ狂う風や雨の事は知らない
大して会話もしないのにチャットの相手は切りたくない
繋がっただけでお互いに少しだけホッとしている
午前3時
泣きそうな夜なのに
独り
どうしようもなく真っ暗な心は誰も知ることは無い
でも
また明日が来たら笑顔で
なんとなく日々が過ぎていくんだ
つまらないものをたくさん背負って
欲張りだからたくさん背負って
いつかゆっくり休める時
なんて馬鹿なんだろうって思うのかな?
彼女は泣きました
キラキラした目をした人を見て
彼女は泣きました
自分の不自由を
彼女は泣きました
何も恐れず前に進んでいる人を見て
彼女は泣きました
自分の優柔不断を
小さな出来事が
いつの間にか
細い糸が絡まるように
自分の身体にまとわりついて
雁字搦めにされてしまう
もがけばもがくほど
肉に喰い込んで
今にも裂けて血しぶきが飛びそう
自由になりたいのでしょう?
そんな声が聞こえても
ただ彼女は無表情でそこに立っているしかない
糸切鋏は
いつだったか
彼女の右手から
滑り落ちて
奈落の底に
沈んでしまったの?
長い事分からずにいた事
長い事考えずにいた事
長い事忘れたふりをしていた事
もしも、心を自由にできたら
一気に爆発するのでしょう
身体の芯からめらめらと炎が燃えるように
「生」と「死」を感じれるのでしょう
そして、地球をも飛び出して
宇宙へと広がって行くのでしょう
彼女は泣きました
貴方の事を誤解していたと
貴方の発する言葉の洪水と
頭の中でのイマジネーションとの化学反応
刹那的な昇華
彼女は泣きました
一瞬の中にある真実を悟って
暫く咽ぶように泣きました
そして彼女はにっこりと微笑んで前に歩き出しました
私は震える指で久しぶりに実家のチャイムを鳴らした。
結婚して引っ越しを2度ほどした。
最後の引っ越し先の住所を両親には教えず、両親からしてみれば行方知らずと同じような状況にあった。
どんな顔をするだろう。どんな言葉を最初にかけるのだろう。
予測不可能。緊張感だけが妙に高まっていく。
「はい、どなた様です?」
インターホンからは母の声が聞こえた。
「…あの、優子です」
震える小声で言った。
「ゆっこ?」
しばらくすると急いで玄関の錠を開ける母の姿がすりガラス越しにぼやけて見えた。
カチャンとやけに乾いた錠の開く音が聞こえると緊張は最高に高上った。
カラカラと勢いよく玄関が開いた。
「ゆっこ!」
母は名前を呼ぶなり私を思い切り抱きしめた。
まるでそれはもうどこへも消えるな、と言うようだった。
「ただいま。ごめんなさい」
「馬鹿ね、ほんと、馬鹿な娘」
その夜、私の少し後に父が帰宅した。
私が思っていた以上に両親は優しく迎え入れてくれた。
今までの事を全て両親に話した。両親は私の愚かさを諭しながらも最終的には許してくれた。
話が一段落したところで、気になっていた事を両親に尋ねた。
「中学の時に同級生だった、みっちゃんっていつ帰ってきたの?」
両親は奇妙な事を聞いたような顔をして見合わせた。
「いつって、ねえ…全く手がかりも掴めなくて、ご両親はずっと今でも待ってみえるわ」
そんなはずは…。
確かに私は今日みっちゃんに会ったのだ。
つい数時間前、私の助手席に座り、彼女は結婚の報告を両親にするために家の前まで送ったのだ。
私が送ったのだ。
「気の毒よね。事故なら事故で発見された方があきらめもつくだろうし…」
いや、勝手に殺されてはたまったもんじゃない。
ついさっき、私はこの目で見たのだから。
「ほんとなの?それ」
両親は悲しそうに見合わせて小さく頷くだけだった。
私は咄嗟に行かなくてはいけないと感じた。
もう、本当に二度と彼女に会えなくなるのだと感じた。
「ちょっと出かけてくる。すぐ戻るから」
もうすっかり辺りは真っ暗で、畦道を車のヘッドライトが照らしている。
冬の澄んだ空気の星空は都会のものとは比べようがないほど煌めいていた。
5分もたたずにあのT字路に着く。そのまま真っ直ぐ、そう、そこから5分もたたずに走ればみっちゃんの家だ。
確認しなくては。
みっちゃんがちゃんと両親に会いに行ったのか。
私の車を見送った後、みっちゃんはさっき私がしたようにチャイムを鳴らし胸が緊張で高鳴るのを堪えながら家の玄関が開くのを待って両親と再会出来たのか。
確認しなければ。
そんな思いで車を走らせていた。
T字路に差し掛かった時、目の眩むような光が頭上から降り注いだ。
「きゃ!なに?これ」
まぶしくて目を開けていられない。
必死に何が起こっているのか確かめようとするも出来ない。
車を止めた。
目が眩んで頭もクラクラして意識も遠のきそう。
――ゆっこ、私、帰る事にしました。会えて良かった。
みっちゃんのそんな声がどこかから聞こえた気がした。
光が消え急に暗くなった。
ふと空に目を向けると規則的に瞬く星の光とは別に、不規則に移動しながら点滅する光があった。
「あっ」
思わず私は声を上げた。
直感であの光の中にはみっちゃんが居るのだと思った。
そして、何故かきっとまた会えると思った。
あれから数年が経った。
少し私の人生は前進している。
またみっちゃんと再会できると確信していたのに今の所はその直感はハズレてしまっているようだ。
そして考えれば考えるほどみっちゃんの謎は深まるばかりだ。
中学の時にみっちゃんはUFOにさらわれ、宇宙人と結婚し子供を二人もうけた。
そういう事なのだろうか?
でも、何故さらわれたのだろうか。
いや、さらわれたのではなく、もともと宇宙人だったのかも。いや、そんなことは無い気がする。
子供は地球人と宇宙人のハーフ!!??
普通に出産できたのだろうか…。
そんな考えが時折ぐるぐる頭の中で廻る事がある。
そしていつも思考回路が停止した所であはははと大声を出して笑ってしまう。
今日もあの日と同じ師走の夕暮れ時の海に来ている。
数年が経った今でもあの日のみっちゃんとの再会の記憶は消し去られていない。
このままセピア色の思い出に色あせていくのだろうか、と時々思ったりしているが、まぁ、それもいいのかもしれない、と思えるようになった。
これも前進している証拠なのだと思ったりしている。
おわり
興奮状態にあった私は冬の海風の冷たさの感覚も鈍くなっていた。
みっちゃんも同じたったのだろうか。
泣き出した私の背中をさすりながら、泣き笑いの顔だった。
お互いにひとしきり泣いたところで私はみっちゃんに車に乗るように促した。
助手席にみっちゃんが乗った。
お互いに何から話していいのか分からないとでも言うような沈黙が続いた。
その沈黙の口火を切ったのはみっちゃんだった。
「ゆっこ、元気だった?」
私はこくりと頷くだけだった。
「良かった」
みっちゃんはそう言ったきり、その次の言葉は無かった。
特に私からの質問を気にする様子でもなく、闇に包まれた海を眺めているだけだった。
私は決心して聞いてみる事にした。
「あのさ、覚えてる?中学の頃の事」
みっちゃんは私がしたようにこくりとだけ頷いた。
「あれからどこに行ってしまったの?とても気がかりで、ずっと心配してた」
「…ごめね。ゆっこのせいじゃないのに。ゆっこ、ずっと自分を責めてたよね。ほんと、ごめんね」
「何があったの?」
みっちゃんは少し考えているように見えた。
言いたくない事なのだろうか。
「酷い目に遭ったとか、そういう事は無かったのよ」
核心をはぐらかす様な返答だった。
やはり詳細は伏せておきたいのだろうか。一番の核心で聞きたい事は今はまだ聞いてはいけないのだろうか。
「ゆっこは結婚はしたの?」
突然話題ががらりと変わって内心びっくりした。
「4年前に1度したのだけど、駄目になっちゃったの」
「…そう」
「みっちゃんは?」
「したわ。子供が2人いるの」
「そう。良かった」
「…実はね。親には結婚の事まだ知らせていないの。だから報告しに行かなきゃいけないのだけど、勇気がでなくて。何と言われるか怖いのね、きっと」
結婚ならおめでたい事なのに…。喜ばれないような何かがあるのだろうか。
よく事情が呑み込めないままだが、どことなく自分と似た状況にいるのだなと感じた。
「私はね、実家に帰ってきたのは離婚した事を報告しに来たの。みっちゃんとは逆ね。だけど、私もなかなか勇気が出なくて。そのまま実家まで行けなくて何となくこの場所に来ちゃったの」
「私も。私なんて馬鹿みたいに歩いてここまで来ちゃった。久しぶりにこんなに歩いたわ」
お互いに顔を見合わせて笑った。
「私、両親に今夜会いに行くわ」
みっちゃんが意を決したように言った。
「じゃあ、送るわ。どうせ同じ方向なんだし」
極度の緊張はどこかに消え去り、ゆるい脱力感に変わった。
しかし、それは心地の良いものだった。
私は車を走らせた。中学の頃にみっちゃんと一緒に登下校した道を不思議な懐かしさを覚えながら今みっちゃんと一緒にまた通っている。
あのT字路が見えてきた。みっちゃんは右、私は左に曲がるのだ。
「あのT字路の所でいいわ」
「いいよ、家まで送るから。また消えてしまったら私嫌だし」
「…ありがとう」
みっちゃんは嬉しそうに言った。
私はみっちゃんの家の前まできちんと送り届けた。
また会えるのだろうし、敢えて今度会う約束はしなかった。きっと今までの時間を少ずつ埋めていった方がみっちゃんの為でもあるのだろうと身勝手な事を考えていた。
しかし、後で考えるとあの時しっかりとした約束を取っておけばよかったのだと後悔した。
みっちゃんは私の車が見えなくなるまで見送ってくれていた。
あの姿が私が見たみっちゃんの最後の姿となった。
今となれば、あれがみっちゃんの私への最期の「さよなら」だったのだろうと思えて仕方がない。
波打つ海は次第にオレンジ色に染まって行った。
日没のほんの数分の間のあの色。
太陽が水平線へ沈んでいくのをあの頃は何度も見た。
あの頃と変わらない風景の中に私は立っている。
数年ぶりに見た風景はあの頃と何ら変わりはしないのに、私は随分変わってしまったように思えて涙が止まらなかった。
師走の夕暮れ時、街はどこか忙しない空気に包まれているのを感じるのだが、ここは時間が止まってしまったようだ。
ふと思ってしまう。
ひょっこりみっちゃんが現れるのではないかと。
何故みっちゃんは消えてしまったのだろうか。
何故私は消えてしまわなかったのだろうか。
何故みっちゃんだったのだろうか。
何故、何故、何故…。
今まで封印していた思いが解けて負のスパイラルに飲み込まれそうになる。
忘れようとしていた訳じゃないよ。
ねえ、思い出すと辛くなるから。
みっちゃんの事はずっと覚えているよ。
生きているなら、もう一度現れて欲しい。
あの時の事件が私の心に棘を残してあれ以来うまく前に進めない。
どこか自分を責める気持ちを拭い去れない。
私はみっちゃんを助けれなかった。
誰かを助けると言う事。
そんな事は私の思い上がりだろうか。
第一、今の私が言えるような言葉ではない。今の私が誰かを助けるだなんて言える立場ではない。
自分を嘲笑うように声も立てずに右の口角を少しだけ持ち上げて笑った。
陽は沈み辺りは次第に深い闇に包まれ行く。
堤防にはぽつりぽつりと街灯が点り、少し離れた民家の集落にも灯りが付き始めていた。
停めておいた車に乗り込もうと運転席のドアを開けようとした瞬間、背後から声が聞こえた。
「あの…すみません」
どこか聞き覚えのある声のような気がした。
反射的に振り向くと、そこには私と同年代の女性が立っていた。
最初は薄暗くて細部までよく確認することが出来なかったが、徐々にはっきりと認識できるようになった。
ピントがきっちり合った時私の身体に電流が流れるような衝撃が駆け巡った。
声にならずにただ立ちすくんでいた。ほんの僅かな時間が、とてつもなく長く感じた。
「優子さんですよね?」
目の前の女性は少し不安げな表情で私の名前を呼んだ。
中学の頃はそんな呼び方ではなかった。私は「ゆっこ」と呼ばれていた。
「みっちゃん!」
「ゆっこ!」
二人はあの頃のように笑顔で呼び合い再会の抱擁をした。
信じられない事が起こった。
本当なのか?
この現実を疑ってしまう。
聴きたい事が山ほどある。
いつ帰って来たのか。
あの時、なぜ行方不明になったのか。
そうだ、帰ってきたのならば何故連絡をくれなかったのか。
雪崩のように頭の中に次々と質問が浮かび、言葉に変換する処理が追いつかない。
頭の中はパニックを起こし、それは情動として言葉にならない言葉を全身から発し始めた。
涙が止まらなかった。
「みっちゃん!?」
病室には私一人だけで心電図モニターやら点滴やらでベッドに繋がれている状態だった。
「みっちゃんは?みっちゃんは??!!」
意識も記憶も混乱気味で病室で狂ったように叫んだ。
すぐに看護師がやって来て何やら言葉を掛けられたが、何を言っているのか分からず手足をじたばたさせて困らせた。少しするともう一人看護師がやって来て点滴のチューブから注射器で何か薬を注入すると頭がぼぅっとして意識が途絶えて暗闇になった。
一筋の光も見えない暗闇をただ歩いて行った。
歩かなければ戻れない気がした。
ここは長いトンネルの中だと思って歩いた。
どれくらい歩いたのか分からないけれど、随分歩いた筈である。
少しの光を捉えた。ああ、やっぱりここはトンネルだったのだ。
出口付近なのだろうか。今までの暗闇から解放されるにはあまりに刺激が強すぎる太陽の光。
喜びよりも恐れが、希望よりも悲しみに出会う予感がした。
逆光の中に見かけた事のある影が。
―――あれは、みっちゃんだ!
トンネルの出口へ向かって走り始めると、みっちゃんは影のまま私を置いて走り出した。
私は悟った。
もう二度とみっちゃんに追いつけない。
心配そうな母親のぼやけた顔が徐々にピントを合わせてクリアに見えてきた。
同じように思考や記憶もクリアになってくる。
目が覚めたのだ。
みっちゃんと別れた後の記憶が無い。
意識が戻ってから数日後に警察が病室にやって来た。
星野光世、つまり、みっちゃんについていろいろ聞かれた。
みっちゃんと別れたあの日、私は道端に倒れている所をたまたま通りかかった人に見つけられたのだそうだ。
私の意識が無い事からその人は携帯で救急車を呼んでくれ、一緒に病院まで付き添ってくれた。
午後20時ごろ、なかなか帰宅しない我が子を心配に思いみっちゃんの両親がT路地の右側へ100m入った所で自転車だけ見つけ不審に思い、いつも一緒に帰宅している私の所へ電話し入院していることを知った。事件に巻き込まれたのでは無いかと思いご両親は警察に連絡したのだ。
警察の捜査は続いたが、何故か何の情報も得られず、事件の痕跡も見つからず、時間だけが過ぎてい行った。
私も何故あそこで倒れていたのかも結局分からず仕舞いで、心の中に消せない黒い染みが以降出来てしまった。
みっちゃんはどこへ行ったのか。何故突然消えたのか。事件なのか、事故なのか。
いくら考えても分からなかった。
今まで忘れる事は一度もなかった。
あれから15年の月日が流れた。
高校を卒業すると進学のために上京し、就職、結婚をし、故郷にはあまり帰る事は無かった。
必要以上に私も戻りたくはなかった。
戻るとみっちゃんの事を思い出してしまうから。
みっちゃんはあれ以来戻ってこなかった。
ひょっこり戻ってきそうな淡い期待がいつも心のどこかにあるが、多分期待は期待で終わってしまうのだろう。
――困った時には一緒に行くから、私が連れ去られる時には助けてね
ふとした時に何かの呪文のように思い出してしまう。
私が故郷に帰ってきたのは結婚生活が破綻したから。
4年の結婚生活だった。子供は出来なかった。
本当は実家へ帰りたくない。
反対されて結婚したのだから。
だから親にも頼ろうとしなかったし、苦しい時も頑張ってきた。けれど、もう駄目だ。様々な出来事に疲れてしまった。どこにも行く当てが無くて、ここに来るしかなかった。故郷とはこういうものなのかもしれない。
けれど離婚した事もまだ両親に話していない。
こんな大切な事も話せない馬鹿娘だ。
何と言って玄関を開ければいいのか。どんな顔で両親に会えばいいのか。
帰りたいのに、帰りたくない、そんな甘ったれた気持ち。
車をどんどん実家から離れて海へ走らせた。
中学の時、真冬の寒空の下毎年走った海岸線へ向かっていた。
堤防に車を停めた。
車一台ギリギリ通れるだけのスペース。田舎道にはそれだけで十分だ。誰もこんな所には来ない。
助手席からダウンジャケットを持ち出して暖かい車の中から外へ出る。
一瞬で身体の芯まで凍てつくような寒さ。頬を切る風は今以上心を痛めつけるよう。
海風に飛沫あげて繰り返すだけの波をポケットに両手をつっこんでただ見つめていた。
冬至に近づく師走の、どこと無く忙しいこの時期は一年で最も日が落ちるのが早い。
街中では日没を過ぎても街灯や店のネオンで彩られて、さほど暗さも寒さも気にならなかったけれど、田舎の実家に帰って来ると真冬の暗さと突き刺すような空気を実感する。
車のヘッドライトを点けて走っているこの道は中学の頃の通学路だ。
中学の頃は自転車通学で、この時期は真っ暗な田んぼ道を今では信じられないくらいのスピードで駆け抜けていた。
私には「みっちゃん」と言う親しい友達がいた。
みっちゃんとは、中学の部活動で陸上部に入ったのがきっかけで仲良くなった。
同じ種目の800mで毎日走っていたけれど、どうしてもみっちゃんには勝てなかった。
みっちゃんは背が高くて、長距離選手らしいすらっとした筋肉の付き方で、元々持った身体的な素質からも最初から敵わなかった。
地区大会でもみっちゃんはいつも勝ち進み県大会まで進んだ。しかし全国大会までは行けなかった。
私はみっちゃんの走る姿が好きだった。みっちゃんのフォームはきれいだった。大会の日はいつもみっちゃんを応援していた。
冬時期は地域のマラソン大会や駅伝に出場するため、日が暮れるまで毎日走り込みの練習ばかりだった。
毎年、年が明けると海に面した漁師町では町をあげての駅伝大会が開催される。毎年何故か雪の日に凍えるような海岸線を走っていた。
ランニングシャツと短パンのユニフォームで第一走者が位置につく。
10人で襷を回していく。
霙混じりの空の下、心地よい緊張と興奮を感じながら襷がまわってくるのを待つ。
襷を受け取り走り出す。
私は第九走者。みっちゃんがアンカーで待っている。
ここまでで、トップとは差が出来て何人かが前を走っている。
よし、一人ずつ捉えて行こう。
一人、二人、三人…自分の力を振り絞って無我夢中で走った。
吐く息も、心臓の拍動も、凍えるような寒さも、あの日の嫌な事も、あの日の悔しさも、何もかもスコッと頭の中から一時的に抜け出して真っ白。
腕と脚を交互に前に出す事だけ頭の中に描いている。
苦しくて、楽しい。ランナーズハイ。
もう駄目だ。
もう駄目だと思う時、みっちゃんの顔を捉えた。
襷を渡す。
スッと襷を肩から斜めに掛けるとどんどん走って走って一人、二人抜いていった。
みっちゃんの後姿は頼もしかった。
どんどん小さくなっていくみっちゃんの後姿を白い息を吐きながら見つめていた。
みっちゃんの家は私の家よりも遠かった。
いつも一緒に帰った。
帰る時は二人並んで自転車を漕いだ。
帰り道は部活と勉強以外の話をした。
昨日見たTVの話、連載中の漫画の続きの予想、金曜ロードショーで観た映画の話、好きな歌手の話、ちょっと気になる男の子の話…。
時々、話の途中で何の脈絡も無い所でみっちゃんは「はっ」と驚くような仕草をした。
どうしたのか、と尋ねても、ううん別に何でもないの、としか答えなかった。
何でもないはずは無いのだろう。真っ暗で、影を何かと見間違えているのだろうか。などと思ったくらいで、それ以上突き止めるものでもないと思いやりすごしていた。
あの日の前日の事だった。
私の些細な悩み事の話をしながら暗い道を一緒に自転車を漕いでいた。
悩み事は本当にちっぽけなもので今思い出そうとしても思い出せない。
だけど、みっちゃんの言葉は覚えている。
「その時は私も一緒に行ってあげるから。その代わり私が困った時はよろしくね」
ふふふ。あはは。と笑い声を上げながら自転車を漕いでいた。
その日もみっちゃんは何かを見て「はっ」とした。
いつもは少しびくっとするだけなのに、その日はキキキとブレーキをかけて止まってしまった。
「大丈夫?」
数メートル後ろで止まっているみっちゃんに声をかけた。
ほんの数秒、いや1秒も時間は経っていなかったかもしれない。
けれど、その沈黙は永遠のように長く感じられて私はもうその場から逃げ出したいような気分だった。
のろのろと自転車を漕ぎながらみっちゃんは私の隣に辿りついた。
「…あのね、私時々変なもの見えるの」
みっちゃんの言葉を聞いて私の顔は少し引きつっていた。
「幽霊とか?UFOとか?妖怪?悪魔?」
咄嗟に思いついた言葉を言葉にした。
みっちゃんは首を横に振りながら答えた。
「それが何かは分からないの。UFOなのかな。でも、よく分からない」
「矢追淳一だよ。マジェスティック12とか、キャトルミューティレーション、未知との遭遇?」
みっちゃんはまた首を横に振った。
「時々現れるの。多分、私の家の方向。星かな、って見ているとその光は点滅して消えるの。やっぱりUFOなのかな」
そんな怪しげな光があっただろうか。
記憶を辿ってみる。私には思い出せない。第一あのスピードで自転車を漕ぎながら空など仰いだりしなかった。
「もし私が連れ去られそうになったら助けに来てよね」
半分冗談のこもった笑顔と半分真剣な声だった。
あの笑顔がみっちゃんを見た最後の姿だった。
昨夜から降り出した雨は目覚めた時には匂いだけ残して
レースのカーテンから優しい朝陽が降り注ぐ
少し遅めの朝食をとって
好きなピアノの曲を流し
ソファにできた陽だまりで読みかけの本を開く
時間に縛られることなく好きなだけ本を読む
12月なのに暖かいからお散歩に出かける
ポケットには読みかけの文庫本を忍ばせて
携帯は持たない
置いていく
履き古したスニーカーでいつもは通らない道を選んで無目的に駅まで歩く
歩く、歩く、歩く
人混みの中、知り合いと一人も出会わない自由さを心地よく感じ
歩く、歩く、歩く
適当に入ったカフェでランチ
ちょっとした事が新しい発見に思えて顔が綻ぶ
ポケットに忍ばせた文庫本の出番はなく帰宅
携帯に新しいメールは届いていなかった
特に落胆することもない
TVをつけて夕飯の支度をする
さすがに日が落ちると冷えてくるので暖房を入れる
丁度夕飯が用意できたところでチャイムが鳴った
ドアスコープで覗いてみる
そこには貴方の姿
Amebaおすすめキーワード