前回説明不足で日本的な働き方が経営の足枷になる可能性があると書いた事に対して疑問を持たれた方がいらっしゃったようなので、ちょっと説明しますね。

 日本のパイロットは基本的に前回書いた通りサラリーマンです。なので、所定労働時間は定められていないものの、スケジュールに定められた時間に決められた場所に出頭します。そしてそこから飛行準備(気象解析をしたり、その他必要な情報を収集したりフライトプラン確認したり等のブリーフィング)を開始します。つまり、ここからが勤務時間と言う考え方です。従って私達には労働時間と言う考え方とフライトタイムと言う考え方と二つの時間の概念があります。基本的に1日の制限は法律で定められた基準よりも更に余裕を持った会社と組合との協定時間により1日に行ってよい勤務時間、フライトタイム、着陸回数の制限が定められています。このうちどれ一つたりともその制限を越える事は基本的に出来ません。例えば、1日に行ってよいのが勤務時間11時間、フライトタイム6時間、着陸回数4回と定められていたとすると、仮に勤務時間が8時間だったとしてもフライトタイムが7時間と言うのは許されないのです。逆に短距離ばかり飛ぶ場合で1路線が30分くらいの場合、フライトタイム2時間で4回の着陸は終わってしまいます。そうするとフライトタイム的にはあと4時間飛べるのですが、着陸回数の制限にかかってその日はもう御役御免となります。

 また、フライトとフライトの間のインターバルも厳しく律しられています。本人が元気だと言ってもこのインターバルは決して短縮することはできません。あくまで時間単位で働くサラリーマンなんです。

 それに対して外人パイロットの場合、完全に個人事業主。なので、時間単位で仕事をしているのでなくて、フライト単位で仕事をしています。なので勤務時間もブロックアウトからと言う所が多いようです。それまでは勤務時間でなくて、あくまでフライトのための準備時間。個人事業ならばなにか仕事で結果を出す前に下準備しているのは当たり前です。その下準備に対して料金の請求はしません。あくまで結果に対して請求するのです。外国はこの点が徹底されています。なので、居住地も皆さん自由です。飛行機で通勤なんていうのはよくある話です。そこまでの交通費込みでの給料ですから。逆に言えば交通費込みの給料ならば交通費はケチる事になります。従って、殆どの方が自家用車通勤とのことです。日本はタクシーと言うのが一般的です。これは日本が恵まれている点だとは言えます。ただ、正直言えば人にもよるのでしょうけど、多分交通費定額制なら皆さんタクシーなんて使わないと思います。本音を言えば。。。

 またフライト単位での給料なので、例えば予期しない事態が起きた場合の対処が違います。例えば、天気が悪くて羽田から千歳空港行きが函館へ目的地変更してしまった場合を考えてみましょう。仮に、函館へ到着した時間が勤務時間の制限をオーバーしていたとしましょう。勤務の完遂と言う考え方はあるので、上空で勤務時間制限が来たからと言ってフライトを放棄したりはさすがにしません。ただし、問題は函館へ着いた後です。飛行機はそのまま燃料を再搭載して千歳空港へ向かうとします。その時、日本の場合、勤務制限の為あらたなフライトを行う事はできず、スタンバイ乗員が羽田から函館へ到着するのを待ち、それから千歳へ向かうことになります。最初のクルーはあくまで勤務時間をオーバーした便で終了です。

 それに対して外人の場合羽田~千歳便と言うのを仕事として請け負っています。従って、その後の函館までの便も乗務します。勿論、追加のペイもありますけどね。この考え方が徹底しているためあまり勤務制限と言う考え方が強くありません。勿論法令で定められている制限があるので、それは超えないのですが、日本で働く多くの外国人パイロットは物凄く過酷な勤務をこなしています。なぜならば彼らは1ヶ月のうち2週間とかだけ私達には考えられない過酷な勤務で働き、残りは母国へ帰っているのです。

 どちらが安全かと言えば正直日本スタイルの方が安全だとは思います。これが長所です。ただ、経営サイドからみると前述の通りかなり融通が利かないのも事実です。

 また、どうしても航空会社の場合、景気によって収益に大きな影響を受けます。乗員計画と言うのはその点難しく、日本的な体制だと常に余剰人員を抱える事になります。路線拡大しているときは人員不足するのですが、そこに人員を調整してしまうと日本型の雇用はレイオフ出来ない為、一旦景気が下向くと大幅な余剰人員を抱える事になるのです。これは経営的には非常に大きなリスクです。結果、ギリギリの人数で回す事を考えますので、いざ急に景気が良くなっても便を張るだけのパイロットはいないのです。何しろCAとかと違って養成するのに非常に時間がかかりますから。その点、海外の航空会社景気が悪くなったらすぐにセニョリティ順位の低い順に解雇です。個人事業主と考えたらよくある話です。そういう点では海外の航空会社は必要な人員だけ常に採用すれば良いので身軽だとは言えます。

 ただ、日本のパイロットの給料が高いと言うのはちょっと誤解があります。平均で考えた場合そうなのかもしれませんが、それは一昔前日本でも大手3社だけが幅を利かしていた時代の話です。そうなると大手3社で大型機から小型機まで運航していたので、その平均値は世界的に見て高いと言う話です。それに対して最近は会社により運航している飛行機のサイズが細分化されつつあります。大型機を持っているのは大手だけであって、小さい会社は全て小型機での運航となっています。例えば、B747-400単体で見た場合、日本の航空会社より米国の航空会社の方が遥かに賃金は高くなります。特に米国では飛行機文化が大衆化されており、小さいセスナみたいな運航便からジャンボまでの平均値を採ったら日本より安いだけです。ジャンボに乗るのあちらではエリート中のエリートですから。そのエリートな彼らに比べると同じジャンボ乗っていても私達なんてって感じです。なので、日本のパイロットの給料は決して高くはありません。パイロットとしては普通だと思います。ここはグローバルスタンダードな訳です。物価指数とか考えるとむしろ安い位です。昔のパイロットをイメージされると全く異なりますので、もしもパイロットになりたいと思っている方でも金銭的な物が主目的ならならない方が良いと思います。もっと良い仕事沢山ありますから。

 と、言う事で今日はこの辺で。それでは、また!