もし朝が来たら
グリーングラスは霧の中で調教するつもりだった
こんどこそテンポイントに代わって 
日本一のサラブレッドになるために

もし朝が来たら
印刷工の少年はテンポイント活字で
闘志の二字をひろうつもりだった
それをいつもポケットにいれて
よわい自分のはげましにするために

もし朝が来たら
カメラマンはきのう撮った写真を社へもってゆくつもりだった
テンポイントの
最後の元気な姿で紙面を飾るために

もし朝が来たら
老人は養老院を出て もう一度じぶんの仕事をさがしにゆくつもりだった
「苦しみは変わらない 変わるのは希望だけだ」 ということばのために

だが
朝はもう来ない
人はだれもテンポイントのいななきを
もう二度ときくことはできないのだ
さらば テンポイント
目をつぶると
何もかもが見える
ロンシャン競馬場の満員のスタンドの
喝采に送られて出てゆく
おまえの姿が
故郷の牧草の青草にいななく
おまえの姿が
そして
人生の空き地で聞いた
希望という名の汽笛のひびきが

だが
目をあけても
朝はもう来ない
テンポイントよ
おまえはもう
ただの思い出にすぎないのだ
さらば
さらば テンポイント
北の牧場には
きっと流れ星がよく似合うだろう