ヨウがお迎えに来てくれた時、我家の家族は、
お友達の好子ちゃんを含めての3人で、
泉南のスパに出掛けて留守だった。
でも、当然家に上がる事は無く、私は彼の車に乗り込んだ。
「久しぶりやね。」
ヨウが真っ直ぐ私を見詰めて言った。
「うん。お互い年いったね。」
笑う私の手を握って、ヨウは、
「いいや。弥生は相変わらず綺麗やで。」
臆面も無く言い放った。
お腹が空いていると言うヨウに連れられ、私達はファミレスに行った。
祭日なのに、思ったより空いていて、
私達の会話は私達だけのものにしかならなかった。
反ってその事が、お互いの気持ちをセーブしたのか、
今までより、口数少なく食事を済ませた。
そして私達は車に戻り、ミナミに向うことにした。
「弥生。ごめんな。」
いきなりヨウが謝って来た。
「なんで?何かしたの?」
「ううん。何も出来へんから謝ってるんや。
もっと早い時間に約束してたのに、
どっか行きたいとこあったんやろ?」
「うん。初めてデートしたサントリー博物館に行きたかった。
でも、今日は良い。ヨウの仕事の買い物のほうが大事やから。
遅くならないうちにそっちに行こ?」
それからもヨウは、何度も何度も謝っていた。
私も、逢えただけで本当に良いからと、何度も答えた。
ミナミに向う途中の小さな公園の脇に車を停め、
私達は抱き合った。
初めてのKISSをした時と同じ位、私は震えて、泣いた。
「長い間ほんまにごめんな。
もう絶対に別れたりせんと、ずっと一緒にいてくれる?
嫌って言うても、俺、絶対もう別れる事だけはしたないから。」
ヨウは、私を胸に抱き締めたまま言った。
「うん。けど、あの時別れようって言ったんはヨウの方やんか。
私がどれだけ泣いたか知らん癖に。」
「そうやな。けどな、別れんとおられん位、しんどかってん。
弥生の事、好き過ぎて。しんどかってん。」
「って、事は今はそれ程好きじゃないから、一緒におられるん?」
憎まれ口を叩く私の口を捻って、ヨウは
「アホ。違う事はお前が一番分かってるやろ。
別れてた時期、俺がどんなに寂しかったか、知ってるやんか。」
私達は、暫く車を停めたまま、何度も抱き合い、KISSを交わした。
まるで、お互いが飢えた子供の様に、相手を求め合った。
別れて、もう一度愛し合ってからも、こうして抱き合う事の無いまま、
私達は電話とメールが殆どの日々を過ごして来た。
やっと、相手の肌に自分の肌を重ね合える日が来た事が嬉しくて、
でも、恥かしい思いも有って、言葉では表現出来ない気持が、
涙になって流れ落ちた。
愛してる。愛してる。愛してる。
何度も何度も、お互いが呪文の様に耳元で囁きあった。
時間が過ぎるのを忘れて、私たちは狭い車内で抱き合い、
空白だった時間を取り戻した。
やっと、震える指が治まり、流した涙が乾いた私達は、
もう一度車をミナミに向けて走らせた。
ヨウが休み明けから仕事で使う道具を買いに、
道具屋筋に行く事が、デートの目的でもあった。
私は、懸命に働く彼が大好きで、道具を真剣に探す目が愛おしかった。
また、その目に逢えると思うだけで、心が弾んだ。