唐松岳と白馬連峰の一角、天狗岳との間に峻険な峰々を連ねる不帰ノ嶮は、大きく全部で4つのピークで構成される。中腹の八丁池から見ると、そのギザギザが際立って、恐怖感を煽る。
それぞれ、3峰、2峰の南峰、2峰の北峰、1峰と名付けられ、2峰の北峰から1峰への鞍部が特に険しい。
不帰キレットといった場合、1峰と天狗岳の鞍部を言うらしいが、実際には、この不帰のピーク全部を指して不帰キレットとも言われる。



この峰々の通過は、破線ルート。いわゆる上級ルートになっているが、それは全て1峰と2峰の北峰の鞍部から、2峰の北峰までの急な岩場の登下降の難易度故である。
逆に言うと、それ以外は一般登山道と何の違いもない。

通常、岩場の通過は登りの方が下りより安全といわれているが、このルートについては、特にその傾向が強いように見える。

登りの場合、体力的なものが一番の要素だが、この難路の標高差は高々100m程度、登りとしてみた場合には、それほど大きな登りではない。(同じコース中の『天狗の大下り』と呼ばれる、天狗尾根の急登の方が標高差が大きい)
下りに取った場合、気の抜けない危険箇所が続く難ルートになる。
とくに登下降が連続するわけではなく、登り(下り)一辺倒なので、その傾向は強い。
ただし、何カ所かある鎖のトラバースは、登り、下りに関係なく慎重を期すべき場所で、それらの通過には細心の注意を払った方がいい。

不帰の嶮概略図
不帰の嶮概略図 posted by (C)picotan

2峰の北峰から鞍部までの下りは、大きく3つのパートに分類される。
・山頂直下の鎖が連続する岩場
・中腹部
・下部の鞍部からの取り付き

危険度からいくと、上部が高く、次いで下部。中腹部は技術的に見ると大分易しい。

不帰3峰は山腹を巻くため、それほど神経を使う箇所はない。3峰から急降下し、登り返した岩峰が2峰の南峰。ここはピークを踏む。
ここからが岩峰帯になる。
北峰への吊尾根は、短いが、ナイフリッジの岩稜で、決して気を抜ける箇所ではない。(とはいえ、一般路である八峰キレットと、技術的にはさほど違わない。)

不帰2峰の吊尾根
不帰2峰の吊尾根 posted by (C)picotan

狭い2峰の北峰の山頂を過ぎると、すぐに核心部になる。
まず落差のある大岩に鎖が這う、足場が少なく、思い切って下る。
おそらくここのことを言っていると思うのだけれど、ガイドブックなど、「頂上直下に梯子がある」、とあるのだけれど、それらしい梯子は見かけなかった。

不帰キレット上部鎖場1
不帰キレット上部鎖場1 posted by (C)picotan

次に現れるのは、緩い傾斜のトラバース(鎖)。
5mほどの短いトラバースだが、緩いとは言っても、もちろん普通に歩けるほどの緩さではなく、何かしらの手がかりが必要な程度の傾斜はある。目線を移すと、樹間に遙か下に鞍部が見える。
もっと傾斜が急な方が、トラバースは歩きやすい(崖側に手を置けるので)。

非常に中途半端な傾斜で、足がかりが少ない。荷物が軽ければ、何の問題もなさそうな斜面だけれど、荷が重いと、足下取られそうで怖い。雨が降っていたら、絶対歩きたくないトラバースだ。

たとえ鎖をつかんだとしても、手が宙ぶらりんの状態で、足下の不安定な場所を歩くというのは、かなり精神的には堪える。この傾斜では手を置こうとすると、かえって、滑る可能性すらある。

たが、実際歩いてみると、意外にフリクションはしっかり効いた。

不帰2峰上部の鎖場2
不帰2峰上部の鎖場2 posted by (C)picotan

トラバースが終わると、一気に標高を落とす。
その取り付きが、岩溝を回り込みながら下る鎖場で、ここの下りが一番難儀した。
細い岩溝は大きなザックに引っかかり、身動きがとれない。結局鎖を頼って力ずくで通過した。

不帰キレット上部トラバース
不帰キレット上部トラバース posted by (C)picotan

その後、やや傾斜のきついスラブの下降となる。
鎖の通りに行っても、足がかりが少ないので、よく岩を見て、どう通るのがいいか見極めた上で、三点支持で確実に下っていく。




不帰キレット上部鎖場2
不帰キレット上部鎖場2 posted by (C)picotan
不帰キレット上部鎖場3
不帰キレット上部鎖場3 posted by (C)picotan


不帰2峰上部
不帰2峰上部を見上げる posted by (C)picotan

下りきったところに道標がある。

不帰キレット中部の指導標
不帰キレット中部の指導標 posted by (C)picotan

道標から先は平坦になり、歩きやすくなる。
相変わらず岩稜の下りなどあって、やや荒れてるが、危険度はだいぶ落ちる。
中腹域のイベントは、短い三段梯子と、アンクル橋の通過。

まずテラス(岩棚)の通過。鎖が張ってあるが、横ばいになるようなトラバースはなく、正面向いて歩ける位の道幅のある岩棚。ただ、片側がすっぱり切れ落ちているので、高度感はある。

不帰テラスの通過
不帰テラスの通過 posted by (C)picotan

その後、短い三段の梯子。三段梯子のあと、開けた平坦地に出る。ここは休憩出来る場所。眼下に岩峰と、その陰からせり上がる1峰が見渡せる。




不帰キレット中部の三段はしご
不帰キレット中部の三段はしご posted by (C)picotan
不帰休憩適地から
不帰休憩適地から posted by (C)picotan


荒れた道を少し下ると、先ほど休憩適地で見た岩峰の基部に至り、それを信州側に巻く。

不帰岩峰を巻く
不帰岩峰を巻く posted by (C)picotan

岩峰を回り込んだ先に、アンクルの橋がある。

橋は数メートルの短いものだが、手がかりとなるべき山腹が遠く、その代わりに鎖を使って歩く。
通過の難しい場所ではないが、そういう心理的なものもあって、やや恐怖感を感じる。さっきの緩い斜面のトラバースと同じような恐怖感だ。

不帰キレット中部のアンクル橋
不帰キレット中部のアンクル橋 posted by (C)picotan

アンクルの橋を越えると、下部の岩場となる。
眼下に鞍部が見えていて、すぐにも降りられそうなんだけど、しばらく鎖の連続する岩場の通過となる。

まず、足下の狭いトラバース。二つの鎖に渡り、20mほと続く。
足場が狭く、高度感がある。

そのあと、手がかり、足がかりのやや少ないスラブの下り。鎖が断続的に続く。
一部、手がかり・足がかり間の距離が長いところがあって、身体が伸び切りそうになる(危険な状態)。
何度か手足を置き直しながら、慎重に下る。(一切鎖には頼らないのが基本方針)




不帰キレット下部の鎖場1
不帰キレット下部の鎖場1(左下の足と比較すると。。。) posted by (C)picotan
不帰キレット下部の鎖場2
不帰キレット下部の鎖場2 posted by (C)picotan


下りきると、滑落注意の脱力系看板を見て、鞍部へと至る。

不帰2峰基部
不帰2峰基部 posted by (C)picotan

1峰の登りも、息の上がるような段差の、大きなガレ場だが、問題箇所は無い。
それなりに登り返すものの、程なく1峰にはたどり着ける。

私は朝の極めて早い時間に通過したので、対向者をやり過ごすことなく歩けたが、対向者がいる場合、やり過ごせる場所が非常に限られているので、余計に時間がかかることは十分考えられると思う。

ちなみに、おもしろいことに、Webを漁ると、いろんなページで不帰キレットを紹介しているが、大体どれを見ても、同じ場所が撮影の対象になっている。
これはつまり、安全に撮影できる箇所が限られているので、似たり寄ったりになってしまっていると言うこと。
不帰キレットはそういう点で見ても、危険箇所の続く難所であるのが分かる。


今度は荷を軽くして、また歩いてみたい、変化のある、おもしろいコースではあった。