こちらのお話は、蓮キョであって、蓮キョではございません。
二人共、別にパートナーがいますし、関係はずっと先輩と後輩のままです。
切なくて焦れったい、ある種のハッピーエンドだと思うのですが
皆様が求めるハッピーエンドではございません。
不快に思われる方もいると思います。
それでも読んでみたいと思うチャレンジャー様はまず
『「アナザー・ハッピーエンド」を読む前に』 を読んでから
こちらのお話をお読み下さるようお願いします。
注意書きを読まずに読んで、「こんな酷い話を間違って読んでしまったじゃないか~」とは
言わないでくださいね。
さぁ、心の準備は出来ましたか?
本当にどうしようもないお話ですよ。
いいですね?
では、いってらっしゃいませ~~
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アナザー・ハッピーエンド ~side K~
深夜の事務所は静まりかえり、まるで別の場所にいるみたい。
唯一照明が灯る廊下を一人で歩いていると、
久しぶりに昔の自分を思い出した。
たった一度の裏切りで
愛する事も、愛される事も否定して
恋する気持ちを封印してしまった私が
愛する気持ちを取り戻す為に入ったラブミー部。
馬鹿みたいな事もいっぱいさせられたけど
楽しかったなぁ・・・・・・
あそこにいなければ
あの人にも、今自分を支えている演技にすら、出会えなかった。
泣いて、笑って、怒って
でも一生懸命で、色んな想いを経験した日々。
人の気持ちって、言葉や目に見える事がすべてではなく
裏には色んな気持ちが秘められている。
そんな簡単な事もわかってなかったのよね・・・
本当に、子供だったんだ。
人気のない事務所で、センチメタルになってしまったのか
久しぶりにラブミー部の部室に寄りたかったけど
部屋には鍵がかかって入れなかった。
そう言えば以前
今は物置となったこの部屋に来る人はほとんどいなくなったと
椹さんが言ってたものね。
皆、忙しいから、寄る暇もないか・・・・・
寂しいけど、無理は言えない。
『こんな時間に女の子が一人で、何してるの?』
やだ・・・幻聴?
ここにいるわけのない人の声が聞こえて、ドキッとした。
ちょっと感傷的になってたから思い出しちゃったのかな・・・
思い出す?
ふふっ・・・ キョーコの嘘つき
忘れた事なんて、一度もなかったくせに。
あの人の姿も声も匂いも、ふとした仕草でさえ、全部身体に染みついて
事務所へ来るといつも、いる筈のないあの人の姿を探していた。
「今更会っても、何も変わらないのにね。」
キョーコは、大きく息を吐いて、目の前の開かない扉をコツンと叩いた。
「さっ、いつまでも昔に浸ってられないわ。明日も早いんだから、そろそろ帰らないと。」
まるで自分に言い聞かせるように声にして、目を瞑り気持ちを切り替えると、後ろを振り返った。
長い髪がなびいて一瞬視界が真っ暗になり、見えたその先には・・・・・
「えっ・・・どうして・・・?」
思い浮かべていた人がすぐ後ろにいて、目を見開いた。
忘れられない黒髪に、神秘な色を秘めた黒い瞳。
30cm上の視線の先には昔と変わらない優しい笑顔があった。
「久しぶり。」
「お久しぶりです。いつ日本に帰ってらしたんですか?」
「昨日の夜だよ。」
「その髪・・・懐かしいですね。」
「ああ、これ?さっきミスウッズに染めてもらったんだ。
今回のオファーは敦賀蓮宛てだったからね。」
「そうだったんですか・・・」
「そこ・・・」
頭越しに指さした扉に、ふと笑みが溢れる。
「残念ながら鍵が締まっていて、中には入れませんでした。」
「そうなんだ・・・」
寂しそうに笑う貴方が、あの時と同じに見え、胸が締め付けられる。
「今は物置だそうですよ。」
「使う人もいなくなったから仕方ないね。」
「・・・・・・・」
隣を歩く敦賀さんは前を向いたまま話しかけ、私も前を向いたまま頷いた。
昔はいつも少し後ろを歩いて、前を歩く敦賀さんをずっと見つめてたのに
今は隣を歩いてる。
でもなぜか
すごく遠い・・・・・・・・・・・・
「最上さん、髪伸びたね。」
「はい、あっでも、次の撮影の時には、また切っちゃうんですけどね・・・」
視線が合わないようによそ見をして、さりげなく話を続ける。
「今度はどこ?」
「シンガポールです。ヤン・リー監督の作品なんですよ。」
「リー監督か・・・情景描写が繊細で素敵な画を撮る人だね。」
「ええ・・・つるっ、あっ・・・クオンさんは、日本にはいつまで滞在されるんですか?」
「敦賀でいいよ。どっちも俺だしね。」
「はい、すみません。」
頭を下げて、潤みそうになる瞳をそっと隠した。
震える語尾に気付かなかったのか、彼は前を向いたまま淡々と話を続ける。
「一週間程かなぁ、緒方監督の映画にゲスト出演して、それが終わったら、ハリウッドにトンボ帰りさ。すぐに次の撮影も控えてるしね・・・・」
「相変わらずお忙しそうですね。」
本当はもっと他に聞きたい事はいっぱいあったけど怖くて聞けない。
今こうやって、普通に喋れてる事だけで、十分嬉しい。
ずっと身につけていたペンダントも今は外されていて
その代わりに光る見慣れない指輪。
きっと知らない事が沢山あるんだと思うと、胸がチクリと痛んだ。
貴方の問いかけに目を合わす事もできずに、前を向いたまま頷いて
気づかれないように力を入れた掌に、爪が食い込む。
『大切な存在(ひと)は作れないんだ』
昔、言ってたあの人はもういない。
大切な人ができたんですね・・・
ちゃんと祝福してあげなければ。
勇気を振り絞って、隣を歩く人を見上げた。
再会して初めて絡む視線。
固まった無表情の貴方に、微笑む私。
動揺する気持ちを綺麗に押し隠し、私はきっと上手く笑えてる。
敦賀さんもすぐに表情は緩み、見つめる笑顔は、昔と変わらない。
高鳴る鼓動にまた、泣きそうになった。
もう・・・戻る事なんてできないのに・・・
堪らず、そっと視線を外して、問いかけた。
「結婚・・・されたんですか?」
「・・・・・・・・」
「その指輪」
「あっ・・・・・ああ・・・・・」
髪をかきあげた左手薬指に光る指輪を指すと
一瞬困ったような表情となり、ぎこちない空気が流れ始める。
『チーーーン』
エレベーターの到着音が
止まった時間をまた動かしてゆく。
「何階ですか?」
「あっ・・・一階で。」
「はい。」
一階のボタンを押すと静かにドアが閉まり、下へと降りていく。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「去年の・・・」
「えっ、あっ、はい。」
「去年の暮れに入籍したんだけど、一般人だし、まだ公表はしてないんだ。」
「そうですか・・・奥様は、お優しい方ですか?」
「ああ、俺の体調も気遣ってくれて、いつも美味しい料理を作ってくれるよ。」
「よかった・・・安心しました。」
「君は?」
「えっ?」
「誰か・・・付き合ってる人はいないの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・いますよ。」
「そっかぁ・・・・・・・・・」
「私も、まだ公表はしてませんけどね。」
「業界の人?」
「ええ・・・」
「優しくしてくれる?」
「はい、私の仕事を一番に考えてくれて、支えてくれる人です。」
「そうなんだ・・・・・・・・・・・よかったね、いい人に出会えて。」
「はい・・・・・・」
また続く沈黙も、エレベーターが一階に到着する音で、終わりを告げた。
「じゃあ、俺はこっちだから、またね、最上さん。」
「はい、また・・・あっ、つっ・・・お疲れ様でした。」
「・・・うん、お疲れ様。」
手を振って、自分とは反対の方向に歩く敦賀さんを見送った。
私は手を振ることすらできずに、
ただあの日と同じように、離れていく敦賀さんの後ろ姿をじっと見つめていた。
「あっ、そうだ。」
突然立ち止まって、振り返った彼に鼓動が跳ねる。
「もしも、あの時・・・・」
「・・・・・・はい?」
「いや、何でもない。」
濁す言葉に、安心したような、残念なような、複雑な気持ちが入り混じる。
彼が何を言いかけようとしたか、わかった気がしたけど、聞きたくなかった。
「ねぇ、最上さん。」
「はい・・・・」
「いつか・・・・・・・また、共演したいね。」
昔なら、最高に嬉しい言葉。
でも今は、本心を悟られずに、平気で演技を続ける自信がない。
大切にしまっていた鍵を壊されたくないんです。
「無理ですよ。」
「えっ?」
「だって私は、日本を離れるつもりはありませんから。」
咄嗟に誤魔化した、陳腐な言い訳。
日本でだって共演できるのに
相変わらず嘘が下手な私。
「そっかぁ・・・ちょっと残念だな・・・・・・・・・・・
じゃあ、もう行くね・・・・最上さん、元気で。」
これ以上突っ込まなかったのは、あなたの優しさですね。
「敦賀さんもお元気で、次の映画も頑張ってください。」
(もう会えないと思いますが、ずっと応援してます。
だから、いつまでも私の先を歩き続けてください。)
声にできない願いを込めて、深くお辞儀をした。
「君もね。」
「あのっ、敦賀さん・・・・・・・私、本当は・・・・・・・・」
「んっ?」
もう一度振り返って、こっちを見る彼に戸惑った。
私は一体何を言おうとしたの
今更、「好きだった」とでも、言うつもり?
この人には他に大切な人がいる
私にも
何かを期待するような目で、じっと待っている敦賀さんの視線が辛い。
ゆっくりと目を逸らして、下唇を噛む。
「すみません・・・やっぱり・・・いいです。」
「そう・・・・・・・・・・・」
寂しそうに笑うだけで、その後の言葉は続かない。
本当はきっと、敦賀さんもわかってるんだ。
だから、何も聞かない・・・・・・・・・・・・・・
肩にかけていた鞄の紐を握り締めて、下を向いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
二人の時に終わりを告げるように、敦賀さんは言う。
「じゃあ、今度こそ、本当に、さようなら。」
今度は立ち止まることも、振り向くこともせず、静かに去って行った。
私はさよならも言えず、顔を上げられないまま、一人取り残された。
潤みだす瞳から、涙が床に一つ、また一つ、こぼれ落ちる。
あの日、胸に刺さった棘が
また痛み始める。
もしもあの時、今くらいの自信が少しでもあったなら
きっと二人の未来は変わっていた。
何度も悔やんで流した涙は
もう--------
枯れたと思っていたのに、まだ流れる。
でも後悔はしない。
ちゃんと私は前を向いて、貴方が示してくれた道を歩いてきたんだもの。
これからもずっと・・・
貴方と同じ道を、私なりに頑張っていく。
それが自分の育ててきた気持ちへの答え。
確かに、あなたの中に私はいたのだから、もうこれ以上は望まない。
この名前のつけれない想いにはまた鍵をかけて
心の奥に大切に閉まっておこう。
まだ残る未練を振り切り、涙を拭うと
自分も背中を向けて歩き始めた。
入れ替わるように振り向いて、見つめる彼の視線には気づかない・・・・・・
エントランスを出た所でゆっくりと自分に近づいてくる車のヘッドライトに
思わず笑顔が零れ、身体の力が抜けてゆく。
小走りに駆け寄り、目の前に止まった車の助手席に、急いで身体を滑らした。
「迎えに来てくれたんですね。」
「夜も遅いから、女の子を一人にするのは心配だろ。」
「女の子というには年を取りすぎてますけどw」
わざと憎まれ口を叩いても、笑っているだけ。
泣き腫らして真っ赤になっている瞳を見ても、何も聞かない。
「俺にとってキョーコは、いつでも大切な女の子だよ。」
ポンポンと頭を撫でて、ハンカチを手渡してくれた。
「・・・ありがとう。」
「さっ、明日も早いから、家に帰るよ。」
ハンカチを目に当て、黙って頷いた。
(ねぇ、気づいてますか? 私は貴方に愛されて、救われたんですよ。)
「誠士さん」
「んっ?」
「愛してます。」
「知ってる。」
アクセルを踏み込んだ新開の車は加速して
携帯をいじりながら歩く蓮の横を通り過ぎていった。
「あっ、メールかぁ・・・」
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クーからの伝言です。
お土産に、『柿ピー』というものを買ってきて欲しいそうです。
私たちのお土産は何もいらないので、お仕事頑張ってきてください。
ティナ
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「くすっ、父さんは相変わらずか・・・お土産買う時間作れるかな・・・・」
溢れる笑みは、キョーコに向けるものとは少し違っていたが
それなりに幸せそうなものだった。
おわり
ど、どうでした?
ご気分を害されてはいないですか?
大丈夫ですか?( ̄ー ̄; ヒヤリ
この後、side R も書くつもりですが、皆様の反応によっては
くじけるかもしれません(>_<)
。。゛(ノ><)ゝ ヒィィィ
某様、
こんなお話なので、捧げたくても捧げられなかったんです~ ><
あんな素敵なお話から、こんな妄想が飛び出すなんて
本当、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
見捨てないでくださいm(_ _ )m
一応どんな感想も今回は受け付ける所存でいますので
思うことがあれば、拍手ボタンかコメントよりお願いします。