RELUCK! 中編



大切な人は皆 私から去っていく

昔からずっとそうだった。

だから、敦賀さんと別れる日が来ても諦めなければならない。

これが私の運命だから。



敦賀さんと恋人同士になって2度目の春を迎えたある日

彼の夢だったハリウッド映画に出演が決まった。


「キョーコ、俺と一緒に来てくれませんか?」


夢にまで見たプロポーズは、とてもロマンチックなもので

髪と瞳を元の色に戻して跪いている姿は、王子様そのもの。

なのに私は、素直に喜べなかった。


最初は不幸でも、いつか迎えに来た王子様が、

幸せにしてくれると信じていた幼い私は、大人になり、

自分の力で幸せになれる術を覚えてしまったから。

例えどれだけ好きな相手であっても、作り始めた自分を捨てて、

また尽くすだけの女には戻りたくなかった。


「ごめんなさい・・・・」


指輪の箱をそっと閉めて、敦賀さんに押し返した。


「やっぱりそうか・・・キョーコなら、そう言うだろうと思っていたよ。」


立ち上がり、零した笑みは寂しそうで、決心が揺らぎそうになる。

見ているのも辛くなって、顔を逸らすと、静かに左手が持ち上げられた。


「・・・・・敦賀さん・・・私・・・これは受け取れません。」


薬指にはめられた指輪に手をかけて外そうとすると、

その上から大きな手が邪魔をする。


「外さなくていいよ。」

「でも・・・・」

「これは、俺の気持ちが変わらないという誓いの証だから、キョーコに付けていて欲しいんだ。キョーコが自分でこっちに来たくなるまで、ずっと待ってる・・・別れるなんて絶対に許さない。」

「でも・・・・私・・・いつになるかなんて約束できません。」

「それでもいいんだ。過去も現在もこの先も、俺が愛するのはキョーコしか考えられないから・・・キョーコにも、そうであってもらいたい。」

「敦賀さん・・・・」


求めることを恐れ、ひた隠しにしていた私の枯れた愛に、潤いを与え、信じる素晴らしさを教えてくれた貴方


離れてもきっと大丈夫

貴方を信じてる・・・


若葉の緑が目にも鮮やかな季節、素性を明かした私の王子様は

一人、自分の国へと帰っていった。



早く 一人前の女優になりたい

焦る気持ちが先を急ぎ くるくると 同じところを廻っている



『自分は自分。他人は、他人。』


何度も言い聞かせて、嫉妬を戒め、焦る気持ちを抑えていた。


モー子さんが主役に抜擢された映画が公開されたのは、夏の暑い盛りで、評価も上々だった。

自分は主役すらまだ、演じたことがなかったのに、随分差が空けられた気がして落ち込んでしまう。


「日本で頑張って、立派な女優になります。」


別れ際にあれだけ堂々と宣言したのに、全然前に進めてない。

情けないな・・・


「キョーコちゃん、久しぶり!元気だった?」

「社さん、どうされたんですか?まだ撮影中の筈では?」


敦賀さんと一緒に渡米した社さんが、いきなり目の前に現れて、いるわけないと分かっていても周りをキョロキョロと見回してしまう。


「残念ながら戻ってきたのは、俺だけ。こっちにちょっと用事があって、一人で帰国したんだ。」

「そうなんですか・・・お疲れ様です。敦賀さんはお元気ですか?ちゃんと食べてますか?」

「ああ・・・元気だよ。撮影も食事も、キョーコちやんの言いつけを守って、あいつは頑張ってるよ。」

「よかった・・・・」

「あっ、そうそう、あいつから預かってきたものがあるんだ。今、少し時間ある?」

「はい。」


社さんが言付かってきたものは、ノートパソコンとウェブカメラだった。


「よしっ、設定完了!すぐにクオンと繋ぐね。」

「えっ?」


スカイプで繋がった画面には、少し陽に焼けて逞しくなったコーンの姿の敦賀さんが笑っていた。

久しぶりに見る大好きな笑顔は眩しくて、しっかり目に焼き付けたいのに、滲んでよく見えない。


「なんだか・・・元気でました。やっぱり敦賀さんは、すごいですね・・・」

「うん・・・何が?少し元気がないみたいだけど、何かあったの?」

「もう・・・いいんです。忘れました。」

「そっか・・・キョーコが今笑っているなら、これ以上は聞かないよ・・・・でも、何かあったら、いつでも俺に話して欲しい。」


敦賀セラピーは最強で、抱きしめて貰えないのは寂しいけど

凹んだ気持ちは、いつの間にか無くなっていた。


それからも

抱えきれなくて 不安に押しつぶされそうになった日は

いつも貴方の笑顔と言葉で元気を貰っていた。



いつまでたっても敦賀さん

キスをしても 肌を重ねても

コーンの姿に戻っても

どんなに彼が求めても

この呼び名だけは変えられずにいた



「クオン!何考えてるの!!!」


敦賀さんと、先生と、先生の奥さんと、本物の家族のように過ごした

LAでのお正月休み。


浮かれた気持ちが抜けきれないまま挑んだ初めての主役で

大きなドジを犯してしまった。


「キョーコの初スキャンダルは俺のはずなのに、どうして貴島くんなんだ。」

「だから、何度も説明してるでしょ。あれは、誤解なの。周りにも人はいたし、酔って転びそうになったのを支えて頂いただけで、何も後ろめたい事はなかったんです。」

「わかってる・・・でも、またこんな事があるかもしれないだろ?」


ジェラシーキングと化した彼の暴走は、誰も止めることができない。

わかってた・・・・

それでも言わずにはいられなかった。


「だからって、貴方自ら恋人宣言しなくてもいいじゃないですか!」

「だって・・・俺もキョーコとスキャンダルになりたかったから・・・」

「変な所で、張り合わないで下さい!!」

「ほら、いい感じで記事になってるだろ。」


画面に映し出された記事は、アメリカのゴシップ雑誌の一面に載った、二人の買い物デートの写真だった。


「いつの間に撮られていたんだろう・・・?」

「キョーコが、セーブル焼きのコーヒーカップに見蕩れていた時じゃない?」

「気づいていたんですか!?」

「まぁね。」

「クオン!!!」

「この記事に嘘は書かれてないし、全部本当の事だ。気にする程の内容じゃないよ。」

「何を呑気な事言ってるんですか!こんなスキャンダル、貴方の仕事に支障が出ます!」

「どうして?こっちでは皆、ステディの彼女がいるし、この位で影響の出るような仕事はしてないよ。キョーコの方は、たかがこの程度で仕事がなくなったりするの?」

「なりません!!」


完全に掌で転がされているとわかっていたけど、

女優のプライドが邪魔をして、「はい」とも言えず

ムキになる気持ちのまま認めてしまっていた。


気づくと「クオン」と呼び捨てにしたまま、会話は進んでゆく。


「今度、映画のプロモーションで日本に帰るから、一緒に指輪を買いに行こうね。」

「いりません!もう・・・頂いてます!」

「あれは、ペアじゃないからダメだよ。お揃いの指輪がいいな。」

「クオンもするんですか?」

「もちろん!虫除けにもなるしね。」

「やっぱり・・・向こうでも、モテてるんだ・・・」

「心配?」

「知りません!」


プイッと顔を背ける私を嬉しそうに見つめている貴方。

モテていたのは昔から

皆に優しく接しているけど、決して自分の内側に入れる事はない。

許されたのも、求められたのも私一人。


信じているけど、この離れた距離が不安を募らせる。


きっと彼も同じ気持ちなのかもしれない------



あと少しで 貴方に追いつけるかもしれない

チャンスの神様の足音が聞こえてくる



「私、最優秀主演女優賞にノミネートされたんです!」


興奮のままに一人で喋っている私を

嬉しそうにただ頷くだけのクオン。


「あの賞が獲れたら、自分を一人前の女優と認めてあげようと思うんです。そしたら・・・クオンの所に行ってもいいですか?」

「本当に!」

「はい・・・だから、もう少しだけ待っていて下さい。」

「ああ・・・楽しみに待っているよ。」


自信もあった・・・・

ハリウッドからのオファーも来ている。

今なら、クオンの隣に立てるかもしれない・・・・・



予想は絶対じゃない

どれだけいい演技ができたと思っても

評価するのは他人

認められない事だってある・・・・・



「悔しい・・・自信あったのに・・・・あれだけ頑張って、皆も絶対に私が獲るって言ってくれたのに・・・」

「キョーコはすごく頑張った。本当にいい演技だったと思う。賞は時の運だから、仕方ないんじゃない?またチャンスもあるだろうから、あんまり拘るのは良くないよ。」

「ダメなんです・・・・私、クオンと同じあの賞が今欲しいんです。でないと、貴方の隣に立てない気がするの・・・お願い、クオン、あと一年、あと一年だけ、私にチャンスを下さい。」

「そんな・・・もう君の住む部屋も準備しているし、仕事だって、後はこっちで契約するだけなんだろ?」

「そうですが・・・・でも・・・こんな気持ちで、日本を離れるわけにはいきません。」

「どうしてだ!?やっと一緒に暮らせると楽しみにしていたのに・・・」


初めて言った我侭は、貴方をひどく悲しませるもので、罪悪感と少しの意地が私の心をまた固い殻の中に閉じ込めていった。


少しずつ狂っていく歯車が二人の溝を広げていく。

気持ちは昔と少しも変わっていないのに

どうして上手くいかないんだろう・・・



答えはいつも 自分の中にある

自分で見つけて 答えを出さないと 前には進めない



物憂げに映る表情も、今のこの場の雰囲気には似合っている。


暗くなった会場内を緊張が走り、ドラムロールが鳴り響く中、ノミネートされた女優の表情が一人一人カメラに映し出されていく。

それは数秒間の出来事だったのに、ひどく長い時間に感じられて、頭の中に今までのクオンとの思い出がいくつも蘇ってきた。


私は確かに、クオンに愛されていた。

一人で立っているつもりだったけど、ずっとクオンに守られていたんだ。


照明が自分の所で止まり、一瞬の沈黙に息を呑む。


「最優秀主演女優賞は、「冷たい女」京子さんです。」


あんなにも渇望していた賞なのに、その瞬間は意外と呆気ないもので、よくわからなかった。



後編へ



わかりづらい文章で申し訳ございませんm(_ _ )m

発表前に二人の今までをモノローグのように、瞬間瞬間を切り取ってキョーコの脳裏に映像で流した感じを表現したいと思ったのですが、

非常に難しくて、こんな訳のわからないものになってしまいました。

背伸びしすぎの自爆で、恥ずかしいY(>_<、)Y


反省して、締めを頑張りますm(_ _ )m


厳しい意見でも構いませんので、このお話の感想など頂けると嬉しいです。
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