今回は、どうもうまく書けずに苦しんだ回でした。

ここで書かないと、お話が進まないのですが、蓮キョでないものを書くのはやはり気が重いです汗

(なら、書くな!と自分に突っ込み入れてしまいましたが・・・)

暗いし、オリキャラ目立ってるし、ピコの妄想が暴発していますが、それでもOKという方は、どうぞです。



氷の仮面 ~消滅と誕生~ 19


流されるままに彼と寝たあの夜から、私はここから出て行かなければいけないと、ずっと思っていた。


でも、出来なかった・・・


クオンの優しさを知ってしまった今、彼から離れて一人になる勇気は持てなかった。

敦賀さんを裏切った私が、クオンと幸せになるなんて、許されるわけないのに・・・

レイナの仮面を被ってあと少し、もう少しと、彼の部屋で自分の気持ちを誤魔化しながら暮らしていた。


でも彼もまた、レイナとは違う誰か別の女性を思っているようで、私に誰かを重ねて見ているのに、私は気づいていた。


私だって、クオンに惹かれながらも、敦賀さんを忘れられないでいるのに、自分の事は棚に上げて、やっぱり私は、ここでも誰かの代りなんだなと情けなく感じている自分が、あまりにも身勝手で呆れてしまう。


*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆


撮影も終盤にかかったある日、いつものように一緒に帰ろうとするクオンを引きとめた。


「クオン、今日は一緒に帰れないの。悪いけど、先に帰ってくれる。」


「それは、別に構わないけど、何か用事?なんなら、俺も付き合おうか?」


「ありがとう・・・でも、いいの。今日は、誠一とディナーを一緒に食べる約束したから・・・ごめんね。」


どうして俺を置いて彼と行くの?

俺より彼の方がいいっていうの?

行かないで・・・俺を置いていかないで。

彼は君が好きなんだよ。

そんな奴と二人っきりになんてならないで。


決して口にできない言葉が、ぐるぐると頭の中を駆け巡り、自分勝手な思いを押し付けて、レイナを責めてしまいそうになる。

嫉妬に震える心を穏やかな笑顔で押し隠し、どこまでも温厚紳士な仮面を被り続ける。


「そうなんだ・・・うん、わかった。彼はここまで迎えに来てくれるの?」


黙ってうなづくレイナの頭を撫で、腰をすこし屈めて俯く彼女の顔を覗き込んだ。


「気を付けて行っておいで。帰りは、彼にちゃんと家まで送ってもらうんだよ。

もしそれが無理なら、俺に連絡して。迎えに行くから。」


お願い・・・俺を呼んで

どこでも君を迎えに行くから

俺が部屋で待っている事を忘れないで


「心配しなくても、ちゃんと彼女は家まで送るから安心して下さい。」


突然降りかかる声にどきっとして、後ろを振り返った。


「誠一!」


彼を見つけて、表情が緩んで嬉しそうに微笑むレイナに胸が締め付けられる。


「レイナごめんね、遅くなって。さあ、レストランの予約の時間に遅れるから、急ごうか。」


軽く頭を下げると、駆け寄るレイナの腰を抱いてさっさとスタジオを出て行った。


俺は今どんな顔をして、彼を見ているんだろうか?

射殺しそうなほど恐ろしい表情で彼を睨んでいるのではないだろうか?


彼は、彼女の主治医であるから、これも治療の一環かもしれないが、やはり心穏やかではいられなかった。


『彼女を愛してる・・・』


そう俺に断言した男と嬉しそうに横を歩く彼女なんて見ていたくないのに、目を逸らすことができなかった。

苛つく感情を抑えきれず、ただじっと二人が立ち去ったドアを見続けていた。


あの夜から、レイナが俺と距離を置こうとしているのは気づいてたが、俺もキョーコにどこか後ろめたくて彼女に再び近づくことができなかった。

もしかすると出て行ってしまうのでは?とも不安になっていたが、レイナは出て行かなかった。


まだ嫌われてはいない


その思いに今は縋るしかなかった。


*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆


「レイナ、彼と何かあった?」


食後のデザートを楽しんでいる時に、高橋は唐突にレイナに問いかけた。

一緒に食事をし、話をしていても、心ここにあらずでぼんやりしているレイナに、高橋は見ていられなくなって、彼女の心を悩ませているであろう人物について、

ストレートに聞いてみた。


「ど・・どうして?そんな事を聞くの?」


「それは、レイナ自身が一番よくわかっているはずだよ。」


「・・・・・・・・」


黙り込むレイナに、それ以上は何も聞かないで、黙ってコーヒーを口にした。


ここは、スタジオ近くにあるせいか、業界人らしき人も多く出入りしていて、店は大賑わいだった。

自分たちのテーブルが静かになったからか、隣のグループの会話がはっきりと聞こえてくる。

彼等も彼女と同じ業界のスタッフらしく、いろんな役者や監督の噂話、今日組んだセットについてなど、様々な話題がなされていた。



「おい、お前知っているか!敦賀蓮って、いま行方不明らしいぞ。」


「えっ本当(マジ)かよ!

確か・・・ちょっと前に、いきなり何も言わずに引退したんだっけ?」


「ああ~、お前はアメリカにいたから、日本での騒ぎは知らなかっただろうが、あの時も凄かったぞ。重病説に、女性関係、薬物疑惑まで、ありとあらゆる噂がまことしやかに飛び交っていたな・・・」


「敦賀蓮って、ドラッグまでやってたのか!?」


「いや、噂だけで、何も証拠らしいものは出てこなかった。事務所は、否定していたし、それらしい話もなかったので、それはすぐに否定されたよ。その後も色んな噂が出ては消えとしてたけど、どれもでっち上げで、結局引退の真相は藪の中さ。

本人が何も言わないんだから、どうしようもないよ。マスコミはずっと敦賀蓮を探しているんだけど、全然見つからないしね。あれだけのいい男が、目撃談一つ出てこないのは可笑しいって・・・」


「で、行方不明ってことか?はた迷惑な噂だよな!ハハハ・・・」


「本当に!でも、一部の話によると、実は敦賀蓮には、恋人がいて彼女にフラれたことが原因で、演技できなくなったっていう奴等もいるんだぜ。」


「嘘だろwwあんなイケメンが女にフラれたからって、自分の人生放り投げるような馬鹿な真似しないだろ!ハハハ・・・すぐに新しい女見つけて、リセットするさ。

羨ましい限りだ!」


「本当に!ハハハハ・・・まっ、どうせ話題作りか何かで、しばらくしたら、ひょっこり顔出したりしちゃうんだろうなww」


「絶対、そうだって!ハハハ・・・」


隣の席での会話に真っ青になって震えるレイナを促して、急いでレストランを出た。

レストランを出た後も、彼女は何もしゃべらず俯いて、左手の甲を右手で強くこすっている。

止めさせようと、右手を離してもまた高橋の手を振り払って、何かに取りつかれたように、必死でこすり始める。

もうすでに左手は、真っ赤になっていた。


「その辺で止めないと、傷がつくよ。」


そう言って、もう一度やめさせようと右手を離そうとしたが、彼女は何かぶつぶつ言って、左手をこすることは止めなかった。


「私は、汚い、汚い、汚い・・・

とれないの・・・いくらこすっても染みが・・・広がっていく。」


「まずいな・・・また、揺り戻しか・・・」


高橋は眉をひそめて、あたりを見回した。

近くの公園のベンチに彼女を座らせると、すぐそばの自動販売機で冷たい飲み物を買って、強引にキョーコの手を離し、両手で缶ジュースをはさみこむように持たせた。


何をするのかと訝しむように顔をあげ、向かいに跪いていた高橋を見つめると、彼は穏やかな笑顔を浮かべ、そっとキョーコの手を両手で包み込み宥めるよう優しく諭した。


「落ち着いて、汚れはもう消えている。あまりこすって、傷がついたら大変だろ。

君は女優だから。」


はっとなって、赤く腫れた左手に目を向け、困ったように眉尻を下げみるみる表情が曇っていく。

高橋は、キョーコの手に持たせた缶ジュースをそのまま持ち上げ左手に当てると、その上からキョーコの右手を優しく包み込んだ。


「冷たい・・・」


「しばらく、こうやって冷やしていたら、腫れは引くから、少しだけ我慢していてね。」


「うん・・ありがとう。」


まだ肌寒い夜風が、キョーコの髪を揺らしパニックになっていた頭を冷やしていく。


「誠一・・・さっきの話、本当なの?敦賀さんが引退したなんて、嘘よね?あんなに演じることが好きな人が、役者を辞めるなんてありえないわ。どうせまた根も葉もない噂を面白おかしく話しているだけでしょう!」


縋るような目をして、高橋が違うと笑って否定してくれるのを待っていた。

でも、期待していた答えを返されることはなかった。


「嘘じゃないよ・・・彼は、敦賀蓮は3か月前に日本の芸能界を引退した。

その後、どうなったかは、知らないけどね。」


「そんな・・・信じられない・・・

でも、もしもその話が本当なら、その原因は・・・私の・・・私のせいだわ!

私が勝手に彼の前から姿を消したから、責任感じたのよ!

彼は、優しい人だから・・・彼のせいじゃないのに、自分を責めて、きっと辞めちゃったの・・・

どうしよう私・・・彼を、私から解放して自由にするつもりが、逆に彼を苦しめて、

彼から演技を取り上げてしまったんだわ!やっぱり、私は疫病神!

呪われているんだ!私なんかに、関わったばかりに、敦賀さんの人生を無茶苦茶にしてしまった!」


ぼろぼろと零れる涙を拭いもせずに、両手を強く握りしめ嗚咽するキョーコの涙を高橋は自分のハンカチで拭ってやり、震えるか細い肩を抱き寄せて、隣に座った。


「レイナ・・・今の君はキョーコだね?戻ってきたの?レイナは、どうしたのかな?」


ばれた・・・やっぱり先生には嘘はつけない。

最初にレイナを見つけてくれたのも、そういえば先生だったな・・・

私が彼女の陰に隠れている間も、ずっと私に話しかけてくれた。

先生には、もう・・・仮面を被るのは止めにしよう。


「レイナもキョーコちゃんも消えてしまいました・・・今は、私・・・一人だけ。」


「そう・・・でも、消えてなんかいないよ。ちゃんとキョーコの中にいて、君を見守っているよ。」


ポンポンと頭を撫でる先生の手が温かい・・・

こんな罪深い私に、そんなに優しくしなくてもいいのに・・・


顔をあげて先生の目を真っ直ぐに見つめていると、

ふいに抑えていた思いが溢れだしてくる。


「先生・・・私は、どうしたらいいんでしょうか?私は、敦賀さんを不幸にして、演技を奪ってしまったくせに、今もこうやって自分は女優として生きている。その上、クオンに大切にされて幸せだと思っている自分もいる・・・そんな資格ないのに!

私は、幸せになってはいけないの!

それに・・・このままだとクオンまで不幸にしてしまう。あんなに優しい人を私のせいで苦しめたくない!早く離れないと!彼を不幸にする前に、早く!」


「敦賀くんが役者を辞めたのは、君のせいじゃないよ。彼にも、いろいろ事情があったんだと思う。それに幸せになる資格のない人間なんて、この世にはいない。みんな幸せになりたくて、がんばって生きているんだから、あまり自分を責めてはいけない。」


「でもやっぱり私は・・・クオンと一緒にはいられない・・・」


絞り出すように出た言葉は、自分の心を深くえぐっていた。

先生は、私の辛い決心を察したのか、それ以上、この事には触れることはしないで、話題を変えて、また話を続けだした。


「そう・・・実は、今日君を食事に誘ったのは、話したいことがあったからなんだ。」


彼女の手から缶ジュースを取り上げると、隣に置いて、そのまま彼女を引き寄せ、そっと抱きしめる。

驚いて強張る彼女に苦笑いしながら、彼女の頭を自分の胸の中に抱き込み何度も優しく髪を撫でていた。



「長い間、話し合いを続けていた妻と正式に離婚が決まってね・・・彼女との約束で、ここを離れてNYにいく事になったんだ。」


「えっ、どうして急に!」


「まあ、以前から誘われていた事も理由の一つだけど、彼女は離婚を了承する代わりに娘とは2度と会わせない、偶然でも会わせたくはないから、この街を出て行ってほしいと言われたからかな・・・」


「そんな乱暴な・・・先生は、それでいいの?娘さんと一生会えないってことでしょう?」


「寂しいけど、仕方ないよ。僕は、娘にとってもいい父親ではなかったしね。

このままズルズルと話し合いを長引かせる方が互いの為にも良くはないと思ったから、彼女の条件をのむ事にした。」


少し身体を離して顔をあげたキョーコは、悲しそうに微笑む高橋と目が合った。

堪らずキョーコは手を伸ばして、彼の頭をそっと撫で、同じように寂しく微笑み返した。


「先生は、優しすぎるんですよ。」


「そんな事はないよ。もう少し、家族にも愛情を注いでいれば、こうならなかったと思っている。ねえ、キョーコ、もし君が、本当にクオンの元から離れたいと思っているなら、俺とNYに一緒に行かないか?あそこでも役者は続けられるし、また新しい土地で一からやり直すのもいいかもしれないよ。」


「そうかもしれません・・・でも、だからといって、そこまで先生に甘えるわけには・・・私は、一人でも大丈夫です。今までだってずっと独りぼっちだったから、一人には慣れてるんです。」


「そんな寂しいこと言わないで、僕に、甘えてもらいたい。僕は、君の主治医だからね。」


「先生は、やっぱり優しすぎますww

普通、一患者にそこまで親身になりませんから。」


熱く見つめる高橋から目を逸らして、しばらくの間、黙り込んで考えていたが、

大きく息を吐いてもう一度ゆっくり顔を上げた。


「少し・・・考えさせて下さい。」


「うん、ゆっくり考えて答えを出せばいいからね。出発は、君が撮ってる映画のクランクアップの翌日だから、それまでに返事をくれればいいよ。」


「はい・・・」


「あと、今度は絶対に逃げては駄目だよ。出て行くのなら、ちゃんとクオンに話をして、堂々と彼の部屋から出ていく事!出来るね?」


「うっ・・・・頑張ります・・・」


「いい子だ。さあ、あまり遅くなると、クオンが心配するから、そろそろ帰ろうか。

家まで送るよ。」


立ち上がり、差し出された右手を、掴もうか戸惑って右手を出しかけたまま、先生の笑顔をぼんやりと見つめていた。


先生は、いつも私の欲しい言葉をくれる。

決して無理強いしないで、待っていてくれる。


寂しい者同士、二人で新しい町に行くのもいいかもしれない。


先生は私の先生だから、一緒にいても許される?


でもその前に・・・


今度は、ちゃんとクオンと話をしよう。

もう逃げたりはしない。


そして、今の映画がクランクアップを迎えたら、あの部屋を出よう。


今度は、逃げずにちゃんとお礼を言って、お別れをしてから出て行こう。


だから、その日まであと少し・・・クオンと過ごす時間を楽しむんだ。

彼の笑顔を忘れないように、しっかり心に刻むために・・・



20へつづく



早くUPしたいのに、なかなか書けなかった。

そして、息抜きに出かけた魔人様のお宅で逮捕&生贄として強制ドボン!

ひえええ~~!

何、やってるの私!とんだお間抜けさんです(((( ;°Д°))))


本当は、最近色々と自信を失くしてて、すべてを書き終えたら、またこっそり読み専に戻ろうかと思っていた矢先の出来事!

まだそれは駄目ということでしょうか・・・

時間は、まだゆっくりあるので、のんびりとゴーイングマイウェイで書きます♪


こちらのお話もあと少し、8月中には何とか終わらせたいなと頑張り中ww

(あくまで目標ですがあせる



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