氷の仮面 ~消滅と誕生~ 17


(シーン30)

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「フランツ?」


計画の日に出席するパーティードレスを買いにブティックに寄った帰り、一番会いたくない奴らに出会ってしまった。


「お前、生きてたんだ。俺はてっきりどこかで野垂れ死んでいるのかと思っていたよ。」


質のいいスーツに身を包んだ紳士達は、見た目からは想像つかないような口の悪さで、まるで汚いものでも見るようにフランツを見つめていた。


「このまま、いなくなってくれたらどんなにか清々するんだけどなww
俺は、お前が俺たちと同じ姓を名乗るだけで気分が悪くなるんだ。
色仕掛けで父をたぶらかした売女の子供と義兄弟だなんて知られたら、俺は恥ずかしくて外を歩けない。

厄介者のくせして、何、この街をうろうろしてんだ。

早く出ていってくれ!穢らわしい!

その顔もその地位も自力で手に入れたモンじゃないくせに、貴族顔してんじゃない!どこにも属せない中途半端な奴が!ペッ!
お前のような出来損ないは、早くこの世からいなくなればいいんだ!」


あまりにの酷い言い草に、思わず前に出ようとするマリアを手で制して、義兄弟達の蔑むような目に、ヘラヘラと愛想笑いを浮かべて、無言のままマリアを連れてその場を立ち去ろうとした。


「待てよ!何とか言ったらどうだ。俺様を無視するつもりなのか!」


怒鳴る義兄弟の方を振り向いて・・・


「カット!」


「クオン、違うだろう!怒りに任せて睨みつけるな!そこは、じっと耐える所だ!もう一回」


「まだ怒りが出てる!もう一回!」


「まただ!もう一回!」

「その顔!お前ふざけてるのか!もう一度!」

「駄目だ!」

「まだまだ!」

「何固まってんだ!甘えるな!」

 ・

 ・

 ・

 ・

「ああ~もう止め止め!こんな演技もろくにできないで、これからお前は役者としてやっていくつもりか!今日はもう止めだ!明日、もう一度撮り直し。これで明日も今日と同じだったら、お前・・・わかってるな・・・覚悟しておけ。」


何度もリテイクを繰り返したクオンは、監督の最後通告とも言える言葉に表情を強張らせ、無言のまま頭を下げて、足早にスタジオを出ていった。

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「クオン?」


今日の撮影でNGを出しまくったクオンは、ひどく塞ぎ込んでしまい、食事もろくに取らないまま、シャワーを浴びてさっさとベッドの中に潜り込んでしまった。


レイナは、今日の撮影で、クオンができなかった演技のシーンを思い出していた。


(やっぱり、この前話していた虐めが原因になっているのだろうか・・・

過去の傷がトラウマになって、気持ちを制御することができなくなった?

でも今までは、ちゃんと出来ていたのだから、今日の引っかかったシーンに傷に触れる何かがあったのだろうか・・・)


寝室に入ったところで、シーツにくるまって背中を向けているクオンを見つめて、レイナはどうすればいいのかと迷っていた。


レイナの陰に隠れて、キョーコとキョーコちゃんも心配そうにクオンを見つめている。

レイナは大きく深呼吸をすると、クオンの側まで近寄ってベッドに腰掛けた。


「クオン?起きてる?寝ちゃった?」


もそもそとシーツの大きな塊が動き、自分の方に向き直ると顔を出したクオンが力なく笑っていた。


「クオン、大丈夫?」


「ああ・・・」


「今日のNGって、この前話してた虐めと何か関係がある?いつも同じ所で詰まっていたから・・・」


一瞬驚いたような表情を見せたがすぐに諦めるように笑みを浮かべ、ベッドから起き上がりレイナを抱き寄せた。


「さすがだね。よく見ている・・・

今日のセリフは昔奴らに言われた台詞にそっくりで、どうにも憎しみに駆られる自分を制御できなかった・・・情けないな・・・こんなんじゃあ役者失格だね。少しは成長したつもりだったけど、昔とちっとも変ってない。」


レイナの肩に顔を埋め、小声でポツリポツリと自分を卑下した言葉を吐いていく。


「明日はできるよ。クオンなら、大丈夫!絶対にできる!」


「本当に出来るんだろうか・・・俺は、やっぱり・・・ここには戻って来てはいけない人間だったんじゃないかと思うんだ。」


「一体、昔・・・何があったの?話して欲しい。クオンは今話さないと前に進めない気がする・・・お願い。だって私たち、過去に苛められた経験のある闇仲間でしょう。」


わざとおどけたように明るい声色で話しかけるレイナに、クオンはお礼を言うと

顔を埋めたまま、レイナの背中に手を回しギュッと強く抱きしめた。


そして気持ちを落ち着けるように大きく深呼吸をして、ゆっくりと過去の過ちについて話していく。

淡々と語るクオンが、逆に傷の深さを物語っているようで聞いている方が辛くなってくる。

レイナは、彼の頭を優しく抱きしめて、泣いている子をあやすように何度も頭を撫でていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(キョーコ、貴方もクオンの話を聞いているでしょう。

彼の闇はあまりにも深すぎて、私には入り込む隙がないの。

でもあなたは、違うでしょう?貴方なら、彼の痛みが理解できる。

同じ痛みを抱えている者同士だから、彼を救う事だって出来る筈・・・そんな所で、隠れてないでこの人を助けてあげて。お願い!彼を助けてあげて!)


(レイナ・・・貴方はクオンの事が好きなの?)


(ええ~、好きよ。彼は、こんな私にも優しくて、大切にしてくれる強い人・・・

でも、繊細で脆い部分も持っている。あなただって、そんな彼に惹かれているでしょう?

わかるわ。あなたは、私だから・・・キョーコ、お願い!)

(でも、私は・・・呪われた人間だから・・・表に出て、またこんな綺麗な人を穢すわけにはいかないわ。)


(何馬鹿な事言ってるの!貴方だって心配だったから、ここまで出てきてクオンの様子を見に来ているんでしょう。今までは、深い所で、耳塞いで外の世界なんて、見向きもしなかったくせに!貴方もクオンが好きなんでしょう。)


(それは・・・)


(さあ、交代よ。)


レイナはキョーコの影に隠れると、背中を強く押した。

前によろけそうになるキョーコの手をとって、ニコニコ微笑むキョーコちゃんが一緒に外に連れ出していく。


二人の後ろ姿をレイナは二人を今にも泣きだしそうな表情で見つめ、自分に言い聞かせるように小さな声で呟いていた。


これ以上はクオンの側にいられない。このままだと彼を愛してしまう・・・


私は、あの子・・・

いつかあの子の中に戻って行かないといけない私は、存在のない人格だから、恋なんてしてはいけない。


これから先は、あの子に任せないと!


あの子だって、クオンの優しさに惹かれているのは知っている・・・


私の役目は終わったの・・・もうキョーコは一人でも大丈夫。

クオンに任せればいいのよ。


ねえ私、どうして立ち止まっているの?

わかっているんでしょう?駄目だって・・・

本当にキョーコの中に戻れなくなってしまったら

苦しめてしまうのは、クオンなのよ・・・彼は、私を愛せない。

キョーコだけを想っている。

だって私・・・気づいてしまったんだもの。

あの人がキョーコのただ一人の想い人で、彼もキョーコだけを想い続けているんだって・・・


でもキョーコはまだその事には気づいていない。

だから消えていくお返しとして、私は言ってやらない。

あの子が自分で気づくまで。

だって、クオンの為にもキョーコ自身に気づいて欲しいから・・・


お願い・・・キョーコ・・・彼に気づいてあげて!そして助けてあげて!


はらはらと綺麗な涙を零しながら、レイナの影はどんどん薄らいでいった。


そして、キョーコちゃんもまたキョーコを表に連れ出すと手を離し、『クオンを助けてあげて。』と言ってキョーコの中に溶け込んでいった。


クオンと過ごした時間の中で笑顔を取り戻したレイナの想いとクオンによって慈しみ大切にされたキョーコちゃんの温もりがキョーコの中に染み渡り、冷たかった心がどんどん暖かくなり暗闇の中に光が灯り始める。


((助けてあげて・・・))


二人の声がキョーコを奮い立たせた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「クオン・・・そんなに自分を責めないで。仕方なかったのよ・・・あの事故を止めることは誰にも出来なかった。あなたのせいじゃないわ。」


「でも、俺があの時、闇に囚われたりせずにリックの言う事を聞いて、あいつを追いかけようとしなければ、リックは死なずに済んだんだ。」


「そうかもしれない・・・でも、それは仮説でしかないわ。あなたがリックの言う事を聞いても、他の奴等がリックを襲っていたかもしれない。わからないのよ。先の事は・・・」


「でも、俺に関わった人は皆不幸になっているんだ。

リックも、ティナも・・・そして唯一愛した彼女も!

俺は生まれてきてないけなかったのかもしれない・・・呪われているんだ!

俺は日本人にもアメリカ人にもロシア人にもなれない中途半端な人間・・・生まれてくるべきではなかったんだ。」


「クオン!!そんな事は言ってはいけない!それを言えば、貴方を心より愛してくれたご両親が悲しむわ。

貴方がどれだけご両親の愛情を受けて育ったかは、キョーコちゃんを見ていればよくわかる。怖がる彼女をあなたは自分の全てで包み込み癒してくれた。そんな優しい人が呪われているわけないじゃない。中途半端なんかじゃないわ!

もう・・・自分を責めるのは止めて。」


苦しむクオンの背中に手を回して、髪にキスを落としギュッと抱きしめた。


「違う・・・俺は穢れている。俺は・・・何よりも大切にしたかった彼女を俺の闇で壊してしまった。あんなに明るくて強い子だったのに・・・」


「クオン・・・私も昔同じ罪を犯してしまったの。大切にしてくれた人の愛が信じられなくて、捨てられるのが怖くて自分から逃げてしまったの。私の闇で光の住人であるあの人を曇らせたく無くて、何も言わずに逃げてきた裏切り者よ。」


「レイナ・・・?」


「私もあなたと同じ闇を抱える似た者同士なのかもしれないわね。」


顔をあげたクオンの目をじっと見つめ、優しく微笑むと啄むようなキスを唇に何度も落していく。

大好きだった敦賀さんにせがまれてよくした自分にとって精一杯の愛情表現のキス。

今、クオンが少しでも元気になれるようにと願いを込めて触れていく。


愛してるなんて言えないけど、レイナとキョーコちゃんの分の想いものせて、一夜限りで構わないからあなたを癒したい。

あなたの苦しみが少しでも癒えますように・・・



このキスは・・・

昔、キョーコが俺によくしてくれたキスにそっくりだ。


さっきの話といい、もしかして・・・キョーコが戻って来てくれたのか?

まさか・・・有り得ない。

もしも彼女が戻ってきたのなら、きっと、俺に気づいてくれるはず・・・


またレイナがキョーコの記憶を読み取って、俺を慰めようとしてくれているんだろう。


情けないな・・・また闇に呑まれて自分を見失いそうになっている・・・

こんな情けない俺を見てキョーコが戻ってくるわけないよな。


強くありたい。


キョーコを悲しませるすべてのものから守ってやりたい。


でも・・・今だけ・・・レイナ・・・ごめん。勘違いさせてほしい。

幻想だとわかっているから、キョーコとして抱かせてほしい。

今だけでも・・・・・・


クオンはレイナからキョーコに入れ変わっているとも気づかずに、彼女の優しさに甘え、彼女を強く抱きしめた。そして彼女をそっとベッドに押し倒し、深く口づけをしていく・・・



18(限定記事)へつづく



レイナとキョーコちゃんは消滅しちゃいました・・・

キョーコが自分を守るために誕生させたレイナとキョーコちゃん

クオン(蓮)の愛によってキョーコの元に戻り、次回から本体はキョーコ

でもそう簡単に事は運びませんにひひ

副題の《消滅と誕生》まだ他にもありますよ☆

読者様には、もう少しドキドキハラハラしてもらわないとねww

あと少しお付き合い下さい♪


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