氷の仮面 ~消滅と誕生~ 11
「・・・・・俺を置いて行かないでくれ!キョーコ!!!!!」
今まで冷たくて怖かった私を包む空気がひどく温かいものに感じられた。
遠くで私を呼んでいる懐かしい敦賀さんの声が聞こえる・・・
もう私、死んじゃったのだろうか?
今までついていなかったから、最後に神様がご褒美に敦賀さんに逢わせてくれたのかな・・・
「敦賀さん・・・」
呼んでみたら・・・
「キョーコ!キョーコ!しっかりして!!」
あっ返事が返ってきた。でも不思議・・・夢の中の敦賀さんは、とても穏やかな顔をしているのに、聞こえる声は何だか必死だ・・・
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
ぴくぴくと瞼が動いて、薄く目が開いた。
「敦賀さん」
まだ意識がちゃんと戻っていないのか、俺を懐かしい名前で呼ぶ。
「キョーコ!キョーコ!しっかりして!!」
と呼びかけると、ニコッと可愛らしい笑顔で微笑んで、また目を閉じた。
再び気を失った彼女の乱れた髪を指で梳いて直してやると、ゆっくり地面に横たえ、自分のコートを脱いで彼女にかけた。
キョーコが気を失っているうちに、この忌まわしい場所から早く連れ去ってやりたかったからだ。
散らばった彼女の荷物を拾い集め手に持つと、もう一度彼女の側にひざまずき、コートで包むようにして、彼女を抱き上げた。
後ろを振り返り、さっきやっつけた男を見ると、意識を取り戻したのか、ゴソゴソと動き出していた。
憎悪のままに突き刺すような視線で睨みつけると、男は怯えたように、アタフタと四つん這いのままその場から離れ、蓮が目を逸らすとフラフラと立ち上がり、その場から逃げ去っていった。
本当は、キョーコをこんな酷い目にあわせた男を許せる訳もなく、今すぐひっつかまえて、警察に突き出してやりたかったが、スキャンダルになって彼女を傷つける事を思うと、そのまま見逃す事にした。
多分、奴は自ら警察に出頭する事はまずないだろうし、奴の事なんてほっといて、キョーコの傷を早く手当てする方が先決だった。
男が逃げ去るのを確認すると、クオンもまた彼女を連れてその場から立ち去った。
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
自分の部屋に戻って、まだ気を失ったままのキョーコをソファーに起さないようにゆっくりと横たえる。
起きた時に、すぐに汚れた身体を洗えるようにお風呂の準備をして、電話を2本かけた。
「う・・・ん・・・・明るい・・・ここはどこ?
私の部屋じゃない・・・
確か私は、知らない男に襲われて・・・男!!」
「いやああ~~!!!」
さっきまでの恐ろしい出来事が脳裏に浮かび、恐怖で飛び起きると、ちょうど傍で電話をかけ終わったクオンと目が合った。
「気が付いた。ここは、俺の部屋だから、もう大丈夫。
安心して・・・何も怖い事なんてないから・・・
君が気を失っていたので連れてきたんだよ。」
あやすように優しく抱きしめるクオンの胸でレイナは身体を固くして震えていた。
「私・・・知らない男に襲われて・・・首絞められて・・・その後・・・・・」
言葉を詰まらせ、ぶるぶる震えて涙ぐむレイナの背中を何度もさすりながら
「心配しなくても何もなかったよ。
寸での所で間に合ったから、君は何もされていない!無事だったんだ・・・
ただ・・・男は逃してしまったけどね・・・ごめんね」
黙って首を横に振る彼女の頭をゆっくり撫でて
「怖い思いをさせてごめん。もうこれからは、絶対あんな目には合わせない!
俺がずっと側にいて、君を守るよ。絶対に離したりなんかしない。
だから早くこの事は忘れるんだ!何もなかったんだ!」
クオンの強い口調に、少し安心したレイナはコクンと頷いた。
するとクオンも安堵の表情を浮かべ、レイナから少し体を離して床に跪き、手を握って優しく語りかけた。
「お風呂を用意しているから、汚れを洗い流しておいで。
その後、傷の手当もしようね。一人になっても大丈夫?」
「うん・・・」
クオンは頷いたレイナの頭をもう一度優しく撫でると、コートにくるんだまま抱き上げて洗面所まで連れて行った。
「ここのタオルとバスローブを使っていいし、中の物も好きに使ってね。
じゃあ俺は、リビングで待っているから、何かあったらすぐに呼んでいいよ。」
脱衣所にレイナを降ろして、髪に一つキスを落とすと、クオンはリビングへと戻っていった。
寂しげに見つめるレイナの視線に気づかないままに・・・
12へつづく
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