短いですが、平日はこの位の長さで書いてみますニコニコ



氷の仮面 ~消滅と誕生~ 6


「誠一!」


キョーコが嬉しそうに微笑んで、彼女の控え室にやってきた高橋に駆け寄っていた。

笑っている

さっきまで感情も何もない人形のようだった彼女が、目を輝かせて可愛い笑顔を浮かべて・・・


あの笑顔は、半年前までは俺のものだった筈・・・


どうして他の男にあんな表情をして見せてるんだ!


胸の奥がムカムカする・・・


忍び寄ってくる闇にまた捕らわれそうだ。


この感覚は以前にも味わった事がある・・・


そう昔、監督に首を言い渡された時・・・そして、不破に挑戦状を叩きつけられた時に、戦う前から俺のトラウマを呼び起こされた時だ。


あの時は、キョーコが俺の胸の奥の鈍くて重い塊を溶かしてくれたが、俺の腕の中にはもう彼女はいない。


どうしてこんな事になったんだろう?

どこで間違ってしまったんだろうか?


目の前に突きつけられた現実に、高橋との約束を破り、今すぐ俺が『敦賀蓮』だと名乗り、彼女を連れ去ってしまいたい。


彼女が狂っていても構わない。


誰の目にも触れないように閉じ込めて、永遠に俺のものだけにしてしまいたい。


激情に駆られて嫉妬の波に呑まれそうになるのを必死で耐えていたが、視線を外すこともできず、2人をじっと睨み続けていた。


*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆


「レイナ、また痩せたね・・・ちゃんと俺の言いつけを守っていたかい?

お酒ばかり飲んで、まともな食事をしていなかったんだろう・・・違う?」


「ごめんなさい・・・でも、ちゃんと栄養のあるものも毎日摂っているし、倒れないように、ここでも少しは食べてるから、大丈夫よ。心配しないで・・・だから・・・お願い・・・監督には言わないで。もしも、この役を降ろされたら・・・演技できなくなったら・・・・・・・私・・・生きていられない・・・だって、生きてる価値のない人間は、いらないでしょう?」


高橋の胸に縋り付いて泣くキョーコの背中を優しく撫でて


「生きてる価値の無い人間なんて、この世にはいないよ。皆、ちゃんと意味を持って生まれてくるんだ。レイナもそう・・・ちゃんと頑張って生きないといけない。

心配しなくても、君から演技を取り上げたりしないし、監督にも言わない。

今日来たのは、美味しい日本食のお店を見つけたから、誘いに来ただけ・・・

さあこれで涙を拭いて、着替えておいで。俺は、ここで待っているから。」


キョーコの身体を放して、ハンカチを手渡すと穏やかな笑顔で彼女の乱れた髪を直してやる。

キョーコは安心してコクンと頷くと、渡されたハンカチで涙を拭って、控え室へと走り去っていった。


彼女の立ち去る後ろ姿を慈しむようにしばらく見つめていたが、射抜くような鋭い視線を背中に感じ振り向いた。


2人の強い視線が絡み合い、火花が一瞬飛び散る。

しかし緊迫した不穏な空気も、高橋が穏やかな笑顔を浮かべる事で、すぐに緊張の糸は解け、和やかなオーラがクオンの周りを包み込む。


感情をむき出しにして睨みつけていたクオンの表情が、徐々に緩んでいくのを確認した高橋は、軽く頭を下げて、また元のキョーコが消えていった方向へと向きなおった。


しばらくして戻って来たキョーコは、高橋の腕を掴みにこやかに微笑むと、自分の腕を絡め頭を寄せた。

じっと見ていたクオンの視線も気づかない振りをして、高橋だけを見つめ、後ろを一度も振り返ることなく、2人は仲良く消えていった。


これが今の俺たち2人の距離なのか・・・


彼女は、俺の視線に気づいている筈なのに、一度も俺を振り返ることはなかった。


それはつまり、まだ心のどこかで俺を意識してくれている?


そうだとしたら、まだ俺にもチャンスは残されているのか?


諦めるなんて、絶対にしたくない・・・


形振りなんて構ってはいられない!


何が何でも彼女をもう一度振り向かせる!







「キョーコ・・・

眠りについたお姫様を目覚めさせるのは、運命の王子様だけなんだろう?

必ず俺が目覚めさせるよ・・・・・」




7へつづく



『クオン、頑張るんだ!!

石にかじりついてでもキョーコちゃんを取り返せ!!

そして、ピコも頑張ってこのままお話を続けなさい!』


書いているのは自分なのに、クオンと自分に叱咤激励?

お馬鹿な私です( ´艸`)


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