大切な人がいなくなって、足が棒になるまで捜して、声が枯れるまで叫んで、目が腫れるまで泣いたあの日。
あの日と同じ日に、俺は祈りを捧げていた。
もう一度、会わせてくれと。
それが叶うなら、この魂ささげてもいいと。
だが、そう願い続けて三年。
さすがに三年もたつと、二度とあいつは俺の前に現れない気がしてきた。
それでも、三年がたった今でも、いつものように祈りを捧げる。
無駄な行為だと気付き始めても、俺を支えてるのは、そう信じることだけだった。
教会をでて、いつもと同じ帰り道、チャンミンの友達を見かけた。
彼は、チャンミンがまだ俺のそばにいた頃に若いのに優秀な科学者だと、紹介されていた人物だった。
「お久しぶりです、ユノさん。」
「本当に、お久しぶりですね、キュヒョンさん。何年ぶりでしょうか?」
「三年ぶりです。」
そうか……。チャンミンがいなくなって、彼のところにも会いにいったっけ。
「お元気ですか?」
「ええ、なんとか。あのときは、みっともない姿をお見せして申し訳ありませんでした。」
俺は、三年前、ひどく取り乱した姿で、キュヒョンさんを訪ねた。
だが、そのとき、冷たく帰されたことだけは、覚えている。
「いえいえ。大切な人がいなくなったのですから、当然です。あの日はああするしかなくて、すみませんでした。」
「いえ、こちらこそ、すみません。でもまさか、こんなところで偶然に出会えるとは思ってもいなかったです。」
「今日お会いできたのは、偶然ではありません。」
「えっ?」
キュヒョンさんは、まっすぐに俺を見つめる。
「も、もしかして、チャンミンから、連絡ありましか?」
「何も聞かず、僕と一緒にきてください。」
キュヒョンさんの車に乗り込み、クリスマスで彩られた華やかな街から郊外へとやってくる。
連れてこられたのは、以前、俺が訪ねた研究所だった。
俺は車のなかで、期待と不安に胸をおしつぶされそうになっていた。
もし、チャンミンが見つかったというなら、喜んで俺に教えてくれるはずだ。
なのに、難しい顔をして、運転をしている。
まさか、チャンミンの身になにかあったのではなかろうか。
車から降りると、研究所の中へと案内される。
いくつもセキュリティがあり、その度に、キュヒョンは瞳と指紋認証していくのだ。
こんな厳重な中でいったい何を話すというのだろう。
通された場所はステンレスでてきた無機質な扉の前。
「今から中へ案内しますが、決して取り乱さないでください。」
嫌な予感の方が正解なのか?
ここで、拒むこともできた。
そうしなかったのは、チャンミンが離れた理由がここにあると思ったからだ。
俺はゆっくりと首をたてにふる。
ボタンを押すと、大きな扉が、自動でゆっくりと開かれていく。
「こ、これは……。」
ずっと会いたかった人がそこに眠っていた。
「チャンミン……。」
まだ現状を理解できないでいた俺は、戸惑うばかりで、言葉がうまくでなかった。
夢なのか?幻なのか?
Christmasだから、神からのプレゼントなのか?
彼のそばに近寄ろうとすると、肩を掴まれる。
「離せ!やっと会えたんだ!」
「わかってます。でも話を聞いてください。」
「チャンミン、起きろ!俺だよ。迎えに来たんだ。」
こんなに大きな声をだしても、チャンミンは人形のようにぴくりとも動かなかった。
「おい、チャンミンに何をした!」
「落ち着いてください。これから、すべてを話しますから。」
キュヒョンの話は俺には信じられないものだった。
チャンミンはもともと心臓が悪く、心臓移植できないと長くは生きられないくらいだったという。
だが、いよいよ、入院しなければならないとなると、俺に迷惑をかけたくないという思いから、俺の前から姿を消した。
そして、親友のキュヒョンにあることを提案した。
そのころキュヒョン達が手掛けていた人工心臓はまだ動物実験の段階で、もう少ししてから臨床検査をしようとしていたところだった。
まだその未知のものを自分に使ってほしいと頼み込んだのだ。
キュヒョンは、親友なだけにそのことを拒んだ。
だが、チャンミンの願いは強く、初めてそれがチャンミンの心臓へと使われたのだった。
「手術は成功しました。心臓も動いております。ですが……。」
「な、何があった?」
「何日たっても目覚めないのです。」
目の前が真っ暗になった。
俺はチャンミンが心臓が悪いことさえ知らなかった。
ときどき薬を飲んでいたが、喘息だとしか聞かされていなかった。
胸を押さえてうずくまっていたときでさえ、心配して声をかけると、心配してほしかったからと、いたずらっ子のような笑顔を見せ、痩せ我慢をしていたのだ。
「チャンミンに言われてました。もし、植物人間になってしまったら、延命措置はしないでくれと。ですが、僕には……そんなこと……できなくて……。」
冷静に話していたキュヒョンさんの声が震え始めた。
「嘘だ……。今でも起きそうじゃないか?冗談なんだろう?今の話。」
「嘘じゃありません。」
「俺を今日、呼んだのは?
もしかして、事態が好転したのか?何か反応あったのか?」
「手術前、もし、自分に万が一のことがあったときにはと、彼に頼まれていたのです。あなたと離れて三年たったときに、あなたに恋人ができていたら、このことは黙っていてくれと。
ですが、もし、まだ忘れられないで苦しんでいるようなら、どうしてこうなったかを説明してあげてほしいと。
あなたが、辛くならないように。」
俺は目の前がまっくらになった。
チャンミンに近づこうとしたが、まるで人形のように動かないその姿に、足が震えて前に進まない。
「大丈夫ですか?」
大丈夫といいたいが、声もでず、でるのは、嗚咽だけだった。
「僕も悩みました。彼は死んではいない。ですが、生きてるとも言い切れない状態で、どうすればいいのかと。」
俺は、這うようにチャンミンに近づいた。
「こんな綺麗なのに、動かないなんて……嘘だ……嘘だと言ってくれ!お願いだ。起きてくれ!起きて俺に笑いかけてくれ!」
あれほど、毎日願っていたチャンミンとの再会は、信じがたいほど残酷な形となってやってきた。
チャンミンの頬に触れる。
「あったかい……。」
チャンミンの髪に触れる。
あのときと同じように柔らかかった。
そして、チャンミンの手を握った。
「お願いだ。チャンミン、この手を握り返してくれ。」
どんなに話しかけても、アンドロイドのようなチャンミンはぴくりとも動かなかった。
「実は、今日いろいろな管をはずしました。チャンミンの願いどおりに。」
「ど、どういうことだ?」
「延命措置をやめたのです。」
「えっ……。」
言葉がでない。
怒鳴りたくても、キュヒョンの瞳からも涙が溢れていた。
この人も俺と同じように、いや、俺以上に苦しんでいたに違いない。
「ありがとうございます。最期にチャンミンに会わせてくれて。まだ生きている状態で会えてよかった。」
俺は握った手の甲にそっと唇をよせた。
「ごめんな。迎えにくるのが遅れて。三年もかかってしまって、本当にごめん。会いたかったよ、チャンミン。やっと会えたね。
さあ、帰ろう、俺達の家に。」
そのときだ。
握っていた手の指が動いた気がした。
「い、今、指が動いた!」
「よくあることです。ですが……チャンミンはもう。」
「違う。握ってる。握ってるんだ。俺の手を!」
キュヒョンは信じられない様子でチャンミンに近づいた。
そして、「まさか……。」
キュヒョンは慌てて、他の人を呼びにいった。
「チャンミン、お願いだ。目を開けてくれ!もう一度その瞳に俺を写し出してくれ!」
まぶたが、ほんのわずかだが動いた。
「俺だよ、チャンミン。聞こえるだろう?頼む。もう一人にしないでくれ。
頼むから、俺のところに帰ってきてくれ!」
なかなか開かない瞳に、必死に呼び掛ける。
「ユノ?」
その声はとても小さかったが、間違いなくチャンミンの声だ。
重い瞼が少しずつ開いていく。
「泣かないで、僕のユノ……。」
※クリスマスversionのお話を短編で少しだけ。
お話は昨日上がったこの画像から妄想しました。
メリークリスマス。
(画像はお借りしました。)