2008年に惜しまれつつ演奏活動を退いた
ピアニストA.ブレンデルはピアノに対し、
すべてのレジスターと音量水準の点で、
ダイナミックスが均一でなければならない
と語っています。
『楽想のひととき』(音楽の友社)より
フォルテならフォルテ、ピアノならピアノで
奏でた際に、88音の質が揃っていなければ
ならず、それを針を刺す等して整えるのが
「整音」と呼ばれる作業です。
各音のダイナミックレンジを聴き分けて、
ハンマーフェルトの適切な箇所にピッカーと
呼ばれる工具で針を刺して作業、丹念かつ
慎重に音質を整えていきます。
ムラのないレガートで半音階を弱音で...
そう語るブレンデルのアドバイスに従って
音の繋がりをチェック、違和感のある音を
発見したらアクションを引き出し再び針を...
「一音入魂」の根気の要る作業です。
ソフト(シフト)ペダルを使用する際の
音質も専用ピッカーで88音を微調整。
ここで文中でブレンデルが推薦している
3つのテストパッセージをご紹介。
a)シューベルト即興曲 Op.142-1 第2主題
何回も繰り返されるピアニッシモの音は
デリケートに歌い続けなければならない
b)ベートーヴェン ピアノ・ソナタ Op.111
終わりに近い高音のトリル、多くの現代の
ピアノは単純音の練習曲のように変える...
c)リスト 『孤独のなかの神の祝福』
最初の旋律、中音部メッゾ・フォルテの
カンティレーナを要求、ソフト・ペダルは
ダイナミックな変化をもたせる必要あり
ブレンデルは整音(ヴォイシング)に対して
音質の微妙な相違を感じること、とりわけ
ピアノ、ピアニッシモの音域の「均一性」を
要望していることが強く伝わってきますね。
さて、「整音」を終えたらダンパー関連の
調整を点検、既に幾度も繰り返した作業...
ペダルを踏んだ際のダンパー動作を整備
真ん中のペダル、ソステヌート機能を
整備、ロッドの前後位置を調整します。
出荷点検がこれでようやく完了!
ピアニスト、愛好家の方々にも一連の
ブログ記事が参考になれば幸いです。
ピアノが量産量販される世の中ですが、
楽器を作り込むのに本来必要な手間に
価値を認める方々が増えますように・・・
最後の締めもブレンデルの言葉で。
私の理想的な意見では、調律師はより
優れたピアニストでなければならない。
また一方、すべてのピアニストは、
自己防衛という意味からだけでも、
熟練した調律師でなければならない。
※オーストリアのイメージがあるブレンデルも
実はチェコ出身のピアニストです!