「ストレス解消のために何をしますか」というアンケートに対して、「スポーツをする」「旅行をする」などとともに「買い物をする」という回答が多いらしい。私の場合は特にそう意識してはいないけれどこれに該当するようだ。年の初めには「買うCDの枚数を減らそう」と思うのだけれど、結局沢山買ってしまうのは、よくよく振り返ると「仕事がうまく進まない」などというモヤモヤの解消として「ともかくCDを買ってしまう」のだ。
 ちなみに今年はメモによると250アイテムほど買っている。組み物も多いから、「枚数」としてカウントするなら350に近づくだろう(某レーベルの、10枚組なのに2000円以下、というものをかなり買っている)。もちろん買ったことはすべて記憶にある(ジャケットがどんなデザインなのか、だいたい頭に浮かぶ)。そして何でもいいから買ったわけではなく、何らかの期待があってそのCDを選んだはずだ。しかし結果は期待値に満たないケースがほとんどだった。それは今年に限った話ではなく、去年も一昨年も同じであった(だから「買う枚数を減らそう」と思うのだ)。それなのに、同じことを繰り返してしまう・・・来年こそは、と思うのだがどうなるだろうか?


 という私にとって、今年買ったCDの中で印象に残ったものをいくつか挙げてみたい。
 今年、私にとって最大の発見はJoyce Hatto(ジョイス・ハットー)という女流ピアニストだろう。イギリスのConcert Artistという小さなレーベルから彼女のCDは発売されているのだが、今年登場したゴドフスキー編曲のショパン・エチュード全53曲の録音には本当に驚かされた。この作品の録音は、すでに(6)のアムランの項で紹介したが、彼の録音に比肩するものは当分現れまいと思っていた。それなのに、5年も経たないうちに比肩するものが現れたのである。
 総じてアムランの方が技術的な面では優れていると思われ、ハットーの演奏は若干鮮やかさに欠けるときがある。しかしハットーの方が音楽に温かみを感じる。決してアムランのものが無味乾燥とか冷たいわけではないのだが、ハットーの方に「古き良き時代」を感じるのだ。調べてみると、彼女は1928年生まれ。なるほど、と納得がいくと同時に、70歳後半にさしかかろうというピアニストが、技巧的に過酷なこの作品をここまでこなせることも驚異以外の何ものでもなかった。急いで他のレパートリーも聴いてみたが、ラフマニノフの協奏曲は同様に優れた演奏だった。リストのオペラ・パラフレーズは、選曲が良くない(曲としての出来が良くないものが多い)こともあってか、他のピアニストの方が優れているように感じたが、凡演ではない。アンコールピースを集めた盤もなかなか秀逸であった。ともかくこれだけの実力があるピアニストがほとんど知られずにいたのは本当に不思議な話である。
 なおCDはこのレーベルから直接、もしくはCrotchetというイギリスの通販ショップから買うしかない。国内のCDショップでは見かけたことがないのは残念だ。


Concert Artistはこちら。

http://www.concertartistrecordings.com/


Crotchetはこちら。ここの検索にHattoと入れれば彼女のCDが80タイトル以上登場するはず。

http://www.crotchet.co.uk/


(以下明日以降に続く)