よその子 / トリイ・ヘイデン | 趣味は読書です

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ひたすら読んだ本たちの記録

よその子―見放された子どもたちの物語 (トリイ・ヘイデン文庫)/早川書房
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トリイの補習教室は、

あらゆるクラスからはみ出した

四人の子どもたちで大混乱。

自閉症のブー、識字障害のロリ、

粗暴なトマソ、うつ状態のクローディア。

苛酷な運命から彼らを救おうと

全精力を傾けるトリイに彼らはいう。

「わたしたちみんな、どうせよその子じゃない。

なんでそんなに気にかけるの?」

涙とケンカを繰り返し、やがて四人は

互いの能力を引きだしあうようになる。

トリイと子どもたちの間に

特別な絆が結ばれていく感動作。







シーラという子 」、「タイガーと呼ばれた子 」に続き、

トリイ・ヘイデン3冊目です。

前作2冊が、“シーラ”という女の子が

メインの話だったのに対し、今作からは

トリイ・ヘイデンが新しく勤めた学校での

新しいクラスでの新しい子ども達との物語となります。

この「よその子」は、物語として起承転結はなく

ただただトリイと子どもたちが過ごした

1年間の記録、という感じでした。

しかもめっちゃ長いです。


トリイ・ヘイデンの本を読んでいるといつも思いますが

トリイの、子どもたちとの関係性の築き方が

本当にすごいと思います。

何か特別なことをしているわけでもありません。

実際にこの本の中でも、

トリイの教室を観察しに来た偉いばばあが

トリイがどこで教育方法を見つけ出し、

どの学説をモデルにしているのかと聞く場面がありました。

それに対しトリイは、トリイ・ヘイデン方式、としか

答えようがないと考えています。

何とかその場その場を

できるかぎりうまくしのいでいるという状況なのです。

そうこうしているうちに徐々に

子どもとの間に絆が生まれているのだから不思議です。

しかし本当に、いくら本を読んだり学位をとったところで

実際現場に出るとそれらの中で本当に役に立つものは

少ないのだということがよくわかりました。


また、このような障害をもつ子どもたちと関わる

意味や意義について指摘している箇所が心に残りました。

障害は病気と違い、完治することはほぼありません。

この子たちに教えている先生方は、

子どもが今持っている能力を、

少ーーしでもいいから伸ばしていけたら、という取り組みを

日々されているのだと思います。

ある意味、未来が見えにくい仕事です。

自分が何の役にも立たないとわかっているなんて

我慢できない、と言われた時のトリイの答えは

「何の役にも立たないなんてことはないわ。

そんなことが問題なのではないの。

わたしにはこの仕事がすごく大事なの。

それにその日その日、

わたしはブーに影響をあたえているわ。

わたしたちみんなそうよ。

その日その日のことがすべてなのよ、クローディア。

わたしが心にかけているのはその日その日のことなの」

でした。


本来教師は未来を作る仕事ですが、

将来どう考えても苦労する未来しかないという子どもや、

こちらの思いが伝わっているのかもわからない子どもに

日々働きかけなければならない支援教育の先生は、

自分は一体何の為に、

という問いにぶつかることもあるでしょう。

しかしこの本の最後に出てきたトマソの未来の姿が

一つの答えになっているのでは。

トリイと出会うことなく大きくなっていたら

出会うことができなかったであろう未来を、

トマソはつかみました。

他の子どもたちもきっとそうです。

将来どういう風になろうと、

確かに自分は大事にされた、

とても気にかけてもらっていた、

という思い出や記憶は

その子の心の底に永遠に残るでしょう。


そもそもトリイはこのクラスで、久しぶりに

障害をもった子どもたちを受け持ちました。

その新たな子どもたちを受け入れる準備をしている時に

トリイが感じたことが素敵でした。

「作業を終えて後ろに下がり、

仕事の成果をながめていると、喜びがこみあげてきた。

じつは、わたしはいまの補助教員の仕事を

特別充実感のあるものとは思っていなかったのだ。

あの独立教室が恋しかったし、

自分だけの子どもたちがいないことも寂しかった。

だが何よりも寂しかったのは、

情緒障害の子どもたちと一緒に

仕事をするときにいつも感じるあの

不思議な喜びが感じられないことだったのだ。」

すごいです。

こうまで思えるようになれば、

支援教育者として一人前と言えますよね。


それにしても、特に今回はロリという女の子が

かわいそうでなりませんでした。

今でこそディスレクシア(識字障害)

よく知られるようになっています。

著名人などもその事実を公表したりしていますよね。

しかしこの障害が発見されるまでの時代に

その生涯を背負っていた

ロリなどの小さな子どもたちが経験した苦しみは

筆舌に尽くしがたいです。

そして、このようなことが起きている時に必ず居る

無理解な大人。これほど腹立たしい存在はありません。

目が見えなかったり歩けなかったり、という

見た目にもわかりやすい障害とは違う、このような

一見わかりづらい障害ほど、ある意味地獄です。

このようなたくさんの子どもたちの苦しみの上に、

今の障害児教育が出来上がったんですね。。


次は、「檻のなかの子 」です。

また、これまでとは一味違う子どもが登場するようです。

もちろん全巻読んでいきます!楽しみです。




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