ホームの一番端。
電車がスピードを落として入ってくる。
運転席を一瞬見ると、若い運転手と中年のベテラン運転手が目に入る。
きっと、運転の研修中なのだろうと思う。
スピードをさらに弱めたかと思ったら、ガタガタと急ブレーキをかけて電車はかなり手前で停止。
「あはは・・・若い運転手、停止位置の感覚がまだつかめていないんだな・・・」
と思う。
電車の停止位置を直すのを待っているのだが、電車は動かない。
??
すると急に電車が警笛を鳴らす。
??
ほぼ、並行して走っていた、隣りの路線を走る急行列車も駅の手前で急に止まった。
「うん?」
僕がいた場所はホームの端だったから、まるっきり気がつかなかったけれど、どうやらホームの中央での事故のようだ。
しばらくは、動かないな・・・
僕は駅を出て、2キロほど離れた違う路線の駅に向かう。

アナウンスでは「人身事故」とのことだったのが、おそらく飛び込んだのだろうと思う。
飛び込んだ人は、その数分前に僕と改札ですれ違った人なのかもしれない・・・
おそらく他人だろうが、言葉にならないやるせなさが、僕の頭をよぎる。

あの若い運転手の気持ちを考える。
若い運転手の気持ちを考えると怒りすらおぼえる。
辛いだろうな・・・

飛び込んだ(おそらく)人も生きているのが苦しかったのだろうな・・・
自分が飛び込んだことで、多くの人に迷惑や心の傷を残すであろう・・・というこすら考えられなくなるほどの状況だったのだろうな・・・
しかし、研修中(おそらく)に自分の運転する電車に飛び込まれた運転手の気持ちを考えると、本当に怒りを感じる。

偶然の不幸の連鎖を感じる。

2年ぐらい前かな・・・
池袋のデーパートの屋上から飛びおりた人が通行人を直撃して、その方も亡くなった事件があった。
その場所は、僕が友達と待ち合わせで良く使う場所だった。
その日、その時間にもし僕が友達と待ち合わせしていたら、僕達が巻き添えになっていたかも知れない。

偶然の不幸の連鎖に僕達はさらされていると、その時、つくづくと思ったものだ。

イベントの会場に着く。

おそらく「愛と平和」を訴えている曲が歌われている。
イベント会場に集った多くの人は、その曲に合わせ手を挙げ左右に振っている。
だめだ・・・僕はついて行けない。
大衆と同じ動きを僕の身体は拒否する。

具体的な「愛」とか「平和」と言う言葉に僕の心は拒否反応を示す。
アーティストがその言葉を使用したときに僕は、そのアート性を疑う。
「愛と平和」
と言う言葉は、ジョン・レノンの詩や歌で終結してるからだ。
もう一度書く・・・これはまるっきり僕個人的なことだが、ジョン・レノン以外のアーティストが「愛と平和」と言う言葉を使ったときに、そのアート性を疑うと共に拒否反応を僕は示す。

そして、会場の観衆と共に流れ歌われる
「Power to the people」
僕はその場から立ち去る。
僕の身体が拒否するのだ。
そして僕はビートルズの
「Revolution」
を口ずさむ。

関連があるかどうかは解らないが、昔マイケルジャクソンの呼びかけだったと思うが「We Are The World」と言う「世界は一つ」みたいな曲を大御所のアーティスト達が集って歌い、大ヒットしたことがあった。
僕はこの曲を「最低最悪」の曲だし、企画だと今でも思っている。
「愛や平和」を訴えることはできるでしょう・・・この曲の売り上げは、どこかの慈善団体に寄付され、世の中の人の為になったのかもしれない・・・
しかし、ちゃんちゃら笑ってしまうのは、世界中から飢餓も戦争も消えてはいない。
言葉に酔う。
雰囲気に酔う。
僕は体制側が与えてくれているガス抜きとしか感じないのだ。

会場からは癒し(多分)の曲が流れる。
心地よく、ウットリしたメロディーと歌が聞こえる。
大衆はそのメロディーに癒される。
必然的なそしてお膳立てされた、癒しの連鎖を感じる。
しかし、これもまた、僕にとっては体制側が与えてくれている、癒し的なガス抜きとしか感じないのだ。

そして
「大衆が一体感を持ったような気持ち」
になることに僕は恐怖を感じた。

帰り道、友達と作物の有機栽培や無農薬野菜の話になって、結果
「平和だよね、経済的に裕福だよね」
と言うことで意見が一致した。
インスタント カーマ

そして、人の心は貧弱、単純化の方向に向かっていると僕は思った。

南雲賢

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