なぜ31アイスクリームは32種類のアイスを販売するのか ~PINK CREAM 31(サーティワンアイスクリーム非公式ファンクラブ)-バニラ



バニラという圧倒的スタンダードのフレーバーであるがゆえに、ここは他店に譲れないところでしょうね。ハーゲンダッツなどのライバル店にも優秀なものが多いのですが、敢えて当社自慢の・・・と語られるバニラフレーバーは、なるほど31らしい個性を感じさせてくれます。


その個性とは、他を受け入れる才能に長けているということ。


他社のバニラが、バニラそのもののナッティーな風合いに拘るか、いやいやミルクの美しい味わいに拘るか、はたまた卵の風合いをしっかり感じさせてコクと太さを出すのか・・・。いずれにしても駄菓子の延長にあるアイスクリームとは一線を画すことが求められるブランドには、それなりの個性が求められます。一口で違いを見せる必要があり、それは「明治のスーパーカップと大して変わらないなあ」レベルでは許されないものであるはずなのです(さすがにロッテの爽との差はでるけどね)。


そのバニラには口当たりからミルクのふくよかさ、そしてアイスクリームらしい甘味、そしてバニラ感とも言うべきコクが極めてバランスよく存在し、立ち上がりのカーブ、そして安定した味わいは口どけ感を妨げることなく、また過剰な演出でくどさを出すこともありません。


そんな優等生的な調和をみせながらも、それらが内包するのは


卵をも感じさせる強いミルクの旨みであり、同時にそれを押し出す糖分の太い味わいによるところ。この圧力感、それでいながらの滑らかさには、迫力すら感じます。



さらには後味で可愛らしくポコリと浮かび上がる甘味がまた堪らなく愛おしく、優等生で終わらない人懐っこさを感じさせてくれるのです。
このポコリ感が、卵系の強い旨みに感じられるときもあり、これが魅力でもあるのですが、各風味のバランスが崩れることが最後までありません。

特にきもーち溶けてきたころの、アイスクリームにとって一番美味しいタイミングにおいてのバランスが素晴らしく、溶け始めそうになる間合いで滑らかさを存分に楽しませます。また一方ではキンキンに冷えた状態ではコクをやや強めに感じさせるというあたりも実に痛快。アイスクリームを愛する人間にしかわからない魅力を、しっかりと理解した上での設計に、作り手の愛情が感じられます。


それにしても清涼感で流されず、軽くなりすぎないのはもちろん、本格バニラとして旨みを出すことを惜しまずにいながら、べたついたり、その味をくどく表したりしない素晴らしいフレーバーです。無駄に風味の輪郭を研ぎ澄ませることがないために、やや丸みがある味わいに感じられながらも、実際には雑身のなさゆえの透明感から、その風味の存在が明快であるというのも特徴でしょう。


口どけが良いからべたつかず、口どけた後にバニラの応用的なアロマを残し、ゆったりとした甘味が口の中に香ります。


何という完成度・・・。


はっきり主張する味ではなく、はっきり見てあげられる味・・・、謙虚さの中に迷いなき自信を感じさせる優れた作品といえるのです。


一般的なカップアイスでこの味に近づけようとするならば、よりミルクの滑らかさに依存していくのだと思うのですが、31の利点であるその場でタンクから取り出すという手法が、生地の中に十分なエアーを含ませ、ミルクの味わいを悪戯に強めないままに滑らかで軽く、それでいて旨みの存在感を求められれば示すこともできる味わいに仕上がっているのです。


これは美味しいですよ。


美味しいバニラアイスクリームは他社にもあります。
それこそアイスクリームが本業ではないショコラティエやパティシエの方が、購入者の懐に余裕があることが多いため、素材のお金を惜しむ必要がないゆえの優れたバニラアイスクリームを生み出したりもします。
しかし31ほどに、その作品への愛情を感じることができないのです。作り手自身への技術に対する誇りはしっかりと感じ取れますが、「アイスクリームが何よりも好き!」という、ライフスタイルの延長にある愛情はみられないのです。


したがって31のバニラアイスクリームを超える味のバニラアイスクリームはあっても、31のバニラアイスクリーム以上に魅力のあるバニラアイスクリームはないのです。


バニラこそが、31の魅力を最も象徴する作品なんだと思えます。


そして31のバニラのもう一つの魅力は、他の素材との相性でしょうか。
クレープに使われたり、ブレストに使われたりと、様々な素材との組み合わせがなされる31のバニラには、他店よりもより他の素材との相性が期待されます。単独での旨みだけでは期待に応えたとは言えないのです。
31で使われるホイップは脂肪感が強く、多少のくどさを感じさせるものであります。
チョコレートシロップは濃密なコクで甘味から入って後味に酸味と苦みをびしっと決めてくれます。
それらの強い素材の個性を、良いところだけ引き出し、悪い部分は包み込み、自身の味わいにも深みを与えるというのは、このバランスに長け、同時に過剰な演出を控えた31のバニラならではといえます。
このバニラのレシピ、単純に好き嫌いで判断する以上の何かを感じさせます。


「あなた個人が一番好きなフレーバーは何か?」と聞かれれば、


当然「バニラ」と応えますね。