鉱石ラジオ(ゲルマニウムラジオともいう)をご存知だろうか?電源を使わず、アンテナを伸ばして電波を受信したそのエネルギーでイヤホンから音が聞こえるというラジオだ。今もキットで売られているが、数千円はする、今では結構な値段の物になっているが、自分が子供の頃は、本当に簡単なもので、確か学研「学習」か「科学」の付録についていたのじゃないかと思うから、数百円で入手できるものからあったはずだ。建て替える前の古い家の記憶だから、少なくとも小学校3年生までのことだ。鉱石ラジオを手に入れて、それを天井のランプの傘近くにあるコンセントの穴に、一つしかないコンセントのプラグのようになっているアンテナを差し込み、片耳イヤホンでラジオの音を聞いた。電気も使わないのに音が聞こえるということで、非常に不思議な気持ちだった。姉と取り合いをしながら夢中になって聞いたものである。

 当時我が家にはラジオもテレビもなかった。いや、事実を言うと、双方とも所有はしていたのだが、双方とも壊れてゐて使えなかった。その壊れた物が箪笥の上に飾られているという状況だった。東京オリンピックのテレビの記憶はある。三宅義信が重量挙げでメダルを取ったシーンははっきりと覚えて居るから、1964年当時は確かにテレビは稼働していたのだ。
 まあ、それはともかく、物心ついた小学生の自分にはラジオもテレビもなかったから、鉱石ラジオは非常に貴重な音源だったということになろう。

 その後、カラーテレビを買い、あとはラジオという段になったが、我が家はラジオを聞くという風習がなく、近所にあった廃車置き場の車のラジオを時々聴いていたという状況だった。
 トランジスタラジオを買ったのは小学校を卒業するかどうか位だったと思う。手のひらに乗る位の小さなものだ。ソニー製だったと思うがよく覚えて居ない。そしてその後先に書いたトリオのセパレート・ステレオで目出度くラジオも聞けるようになったが、その頃は短波(BCL )ブームになり、短波を聴ける本格的なラジオが欲しくなった。当然欲しいのはソニーのスカイセンサー。中坊のお小遣いで買えるほどのものではなく、当時 ¥16,800 した高級品である。親だっておいそれと買える代物ではない。オーディオを買ったばかりと言うことでもあるし、買え、我慢しろ、買って、我慢して、の押し問答が繰り返された。結局親と成績が上がったら買うという約束を取り付けた。そこで、ちょっと本気で勉強するようになり、学年のベスト10には入れなかったが、ベスト20~30位には入り込むことができるようになり、買って貰うことができた。それがスカイセンサー 5500(ICF-5500) だった。

 このラジオは短波受信の感度が良く、小型軽量で持ち運びに強かった。ミニジャックの外部入力端子も付いているので、ほかの音源を繋いでこのラジオで聴くことも出来た。その上、前面のボタン(写真でいえば、真ん中右寄りの縦長のボタン)を押すと、トランシーバー代わりにもなった。FM電波で10メートル届くか届かないか位の弱いものだったが、それでも、電波発信をオンにしてテレビの前にこのラジオを置き、他の小さなラジオを外に持ち出して自分の"放送"を聴くというのは非常に楽しかった。

 高校に入り、本格的なオーディオを入手したところで、このラジオへの興味は薄れ、いつの間にかお蔵入りとなった。その後楽器をやるようになり、外部入力にギターを繋いで音を出し、その歪み加減を愉しむということを始め、その内壊れてしまい捨ててしまった。
 

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