ラーメン横町

  “札幌といえばラーメン。ラーメンといえばラーメン横町”というのは今は昔の物語。
正直ここ十数年くらいは地元の人には愛されていない。「あそこは観光用だから。」というのが正直な感想だろう。旭川ラーメンをはじめ薩摩ラーメンなど他都市からの流入、はてはスープカレー系のラーメンと新鮮な味が多く入ってきた中、相変わらず脂っこく、人ばかり多くてぞんざいかつ騒がしいラーメン横町の店舗が避けられているのは当然と言えば当然かと思う。ラーメン横町のお店の味は、懐かしい味と言えばそうだけれども、とびきり美味いと思ったことはない。それどころか、今も科学調味料を大さじ1~3杯くらい平気で入れる所もある。聞いてみると「味を調える」とか「これ入れないとお客さんが満足してくれない」という答があった。信じがたい。プロならまず科学調味料に頼らず味を整えて欲しい。自分は味ではわからなくとも、科学調味料を多く使った料理を食すと頭が痛くなるからよく分かるのだ。“頭が痛くなる”という体の不調が出る訳だから、体に悪いラーメンを食べているのに違いない。こういう食べ物は御免なのだ。しかも価格が高い。(プライドも高いか?)関西へ行くと普通のラーメンが400~450円で食べられる。しかも結構美味い。ラーメンはごちそうじゃない、『庶民の味』だということを改めて確認して欲しいとも思う。
「お夜食ラーメン」の試みは良いと思う。これを機会に味・サービスともに知恵を絞って改善して欲しいものだ。

 最後に忘れられないラーメン屋の話をひとつ。 
 今はもうないけれど、15年前くらいまで近所に小さなラーメン屋があった。小さな店内にナゼカ屋台がすっぽり入れられている。中へ入ると屋台の中で60位の親父がひとりで切り盛りしている。「いらっしゃいませ」と挨拶。
メニューを見ると味噌、塩、醤油とあり全品450円。暫し迷っていると
「味噌はお薦めできません。塩が一番おいしゅうございますが、どのラーメンになさいますか?」
ときた。丁寧な語り口だけれども、何かちくりとくる感じだ。それなら味噌はやめたらよさそうなものだが、こちらには理解できない理由があるのだろう。当然塩を頼んでみた。出てきたのは極薄く黄色がかったスープになると、メンマ、玉子と多めのネギが麺の上に乗っている。昔ながらのラーメンだ。まずスープをすするとさらっとしていてしつこくない味。うまい、と思った。麺は多分仕入れたものだろうけれど普通の太さの黄色い縮れ麺、歯ごたえ・味ともにこちらもよかった。
 夜中の2時くらいまでやっている所だったので深夜良く食べに行った。全種類食べてみたがやはり塩が絶品だった。「こう毎日だとさすがにあきるでしょう」といって一味唐辛子を振ることを教えてくれた。一味は味噌だけと思っていたがなんの、塩でもぴりっといける。これで又食べられた。
 親父は昭和25年くらいから昭和30年代までは札幌の駅前などで屋台を開いていたという。店舗内に入っているのはその屋台なのだそうだ。よく見ると所々補修の跡がありさすがに年期が入っている。昭和40年代以降はどうしていたか、聞くことはなかったが、いろいろあったのだろう。
 この頃には親父の慇懃無礼とも取れる語り口にも慣れてきていた。そんな時、突然店が閉じられた。近所の人に訊くと、どうも脳溢血で倒れたらしい。
 それでも店は数ヶ月して開店していた。入ると屋台の中には親父の奥さんが。親父は奥の部屋に居たが、話すらできそうにない雰囲気だ。奥さんは親父に仕込まれたと言っていたが、やはり付け焼き刃、あの絶妙な味には遠く及ばなかった。それでも自分は通い続けたけれど、塩よりはごまかしのきく味噌を多く頼むようになっていた。その内また店が閉じられた。親父が亡くなったのだそうだ。1週間ほどして店は再開していたけれど、そこには気の抜けたような奥さんと、味気ないラーメンがあるだけだった。自分は行くのをやめてしまい、それから暫くして店もなくなっていた。

「行列」戻るかラーメン横町
人気店に対抗「深夜限定品」も

 観光名所としても知られる「札幌ラーメン横丁」。ここ数年、札幌市内に次々登場する人気店に押され、なじみの光景だった行列が途絶えがちだ。にぎわいを取り戻そうと、低価格の新メニューやホームページの開設など、横丁ぐるみの打開策が始まっている。
 ススキノにあるラーメン横丁は、狭い路地に17店が軒を連ねている。90年代前半までは、路地にずらりと並ぶ客の行列が日常風景だったが、ここ数年はほとんど見られない。
 有名店の一つ、「ひぐま」の経営者藤村嘉一さんは「最盛期は13席の店で1日800杯出る日もあった。いまは半分程度」と話す。
 観光客の減少に加え、ラーメンブームで新規の人気店が増えた。値段に割高感があることや、観光地にありがちな「愛想が悪い」などの風評が絶えないことも、客足が遠のいた原因の一つとみられている。
 横丁会でも事態を重視し、今年に入って本格的な立て直し策を模索。目玉の一つとして、今月から午後11時以降限定で、「お夜食ラーメン」という500円メニュー
を全店で出すことにした。めんの量を少し減らし、酔客を呼び込む狙いだ。
横丁のホームページもつくり、歴史や店の案内に力を入れ、若い世代の引き込みを狙う。

(05.8.29朝日夕刊)