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ひたすら映像美専科 TOP100 ノミネート作品
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火の馬 (1964) ソ連 監督: セルゲイ・パラジャーノフ
パラジャーノフ初期の長編映画で、一般的には『ざくろの色』に次いで人気があるようだ。
それまではわりと普通の映画を撮っていたパラジャーノフは、本作品でその後の作品を貫くエスニックな芸風に目覚める。
しかし、一般的な評価の高さに関わらず、個人的には本作品だけはどうもいまいち乗り切れなかった。
一番ダメだったのが、気が狂ったようにメチャクチャに激しく動き回るカメラワーク。
パラジャーノフといえば、絵画のように固定された画面がトレードマークなのだが、どうしてこれだけ彼の芸風と正反対な極端にカメラが動き回るのか?まだこの頃は芸風が確立してなかったのか?というのが不思議で調べてみた。
パトリック・カザルスという人の『セルゲイ・パラジャーノフ』という本によると、本作品のカメラマンのユーリイ・イリエンコの方針らしく、固定カメラにしたいパラジャーノフと激しく衝突しながらも自らの好みを押し通してカメラを動かしまくったと。パラジャーノフは彼のカメラワークを「精神病質」的となじったらしいが、まさに気が触れておかしくなったとしか思えないようなトチ狂った動きっぷり。
冒頭の木が倒れる時のアクロバット的撮影やカップルのまわりを360度ぐるぐる回るとかは良い。だけど、中盤あたりの白黒場面が終わってカラーになった直後の錯乱したような動き回り方と、その後の、鎌で草刈りするシーンで鎌の動きとあわせてカメラが動くのは、もはや、カメラマンがかんしゃくを起こしてやけくそになっているとしか思えないような異様さだった。
というわけで、個人的には本作品はなんか微妙な感じだったのだが、カメラワークを除けば、パラジャーノフの原点なのは間違いない。
パラジャーノフの原点だけではなく、盟友タルコフスキーも影響を受けたのかな。
『ノスタルジア』の冒頭を彷彿とさせるろうそくのシーン。
たんぽぽの花に太陽を重ね合わせるというものすごく素朴な工夫なんだけど、はっとするくらい新鮮だ。
少年少女時代の2人が裸になって森で戯れるシーンがみずみずしい。
おお、エスニック!
『ざくろの色』の片鱗が。
本作品には、ろうそくの炎だけではなく、タルコフスキーの原点なのかなあと思われるような、意味ない物を映した映像がたくさん挿入されている。
土に落ちたアクセサリー。
焦げて黒くなった木材。
石にはえたコケ。
水たまりの中のガラクタ。
牛乳がこぼれるシーンもある。
でもカットの時間は一瞬でタルコフシキーのような静寂なタメ時間がまったくなく、やっぱりタルコフスキーのアレは独自に確立した芸風だなと思った。
本作品はウクライナなので、土着民族文化でも『ざくろの色』のような中東っぽさはない。
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