その前の話 (1)


消えた



どうして



どこに



彼女は



男はいらだちと焦りを隠せなかった。



男の目は、ビルの窓に映った空を見つめていた。


「真澄さま」



「大丈夫ですわ、すぐに見つかります」



「・・・」


「失礼します」


Kierkegaard

カタッ


ポトリ


グラスの水滴が、フローリングに落ち、球形に形作られる。


球面が鏡となり、月を映す。


青白い月を。


Kierkegaard

ほの暗い顔をした男を映し出す。


「マヤ・・・」


男は、いなくなった女の部屋で、過ごすことが多くなった。


時だけが、いたずらに過ぎていく


過ぎていく


Kierkegaard

人形は、涙する。


「どうして、私は、ここにいる」


「真澄さん」


声なき悲鳴は、毎夜続く


男は、気が付かない


満月だった


男は、ソファーで、まどろんでいた。


せめて夢の中で


君に逢いたいと願うのだろう。


Kierkegaard

かすかな重みを男は、感じた。



そして懐かしい柔らかさだった。


夢か、現か


男は、囚われるのだ。


つづく (3)