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Kierkegaard
その前の話 その1 その2 その3

AとB’とA'とB、現代の二人が出会ったのは、過去の時代に生きる二人であり、真澄の目の前にいる少女は求める少女ではない、マヤの目の前にいる青年は恋慕う男ではないのに、触れ伝わるぬくもりが心地よくて、離すことがができなかった。


現代のマヤと真澄は、確かに同じ時代に存在しているが、彼らは半時程ずれているのだ。


小さな歪み、それは何故?


すべての答えは月光邸にある。


月光邸-


真澄を憧憬と親愛の眼で見つめる少女、抱きしめると柔らかで甘い香りに、時を忘れそうになるが


「真澄お兄様?」


「すまない」


真澄は、マヤの手をとり、邸内へ入る、震災後に建てられ、表参道に最近まで現存した同潤会アパートの概観にも似ている、真澄はそのシンプルな造りと月光邸という名に差異を感じていた、案内された離れの洋館で納得がいった。


雪がいつしか止み、冴え冴えとした冬の夜に満月が、照らし出される庭と洋館、中に入ると月が、天井に、壁に、映し出される。


月の光が、計算された明り取りを間口を伝い、壁と天井に、そして、星も、おそらく月光石を砕いたものを埋め込んでいるのだろう、万華鏡、いやプラネタリウムのような、光景がそこに広がっていた。


「これは、見事な・・・」


「変なお兄様?何度もいらしたことがあるのに」


「・・・ああ」


***


同日、午前零時30分、内務大臣公邸-


「マヤさん、すぐに移動しましょう。ここからなら、月光邸が近い、こっちへ」


「・・・はい」


マヤは、混乱する思考に、だが真澄の背後の屋敷から感じる禍々しさに、慄き青年の言葉に身を任せた。


真澄がマヤの手をとり、車寄せに向かう、一台の車に乗り込み、緊急時にしか使われない隠し門を通った。


軍部の計画ではヒトマルである、まだ、30分の猶予がある。


屋敷の惨状は、すでに計画が遂行されたことを示している、だが、俺は、つい半時程前に執行部にいたのだ。


何があの屋敷に?


とにかく少女を少しでも安全な場所に、月光邸なら、彼女を守れる。


車が静かに邸内へ滑り込む。


内務大臣公邸に仮住まいとはいえ、屋敷はいつでも来客を、主を迎えられるよう手入れされている。


年の瀬を前に、使用人も一時帰省をしており無人であり、計画では最初から無視され時間を稼ぐことができる。


「マヤさん、星を月を見に行きましょう」


「星?」


「この屋敷であなたが一番好きな場所です」


二人は離れへ向かった。


つい半時前に、AとB’の二人が向かった場所へ・・・


続く その5